2025—日本が抱えているエネルギー問題(後編)

福島の復興
東京電力福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて取り組むことが、引き続きエネルギー政策の原点です。東京電力福島第一原発の廃炉は世界にも前例のない困難な作業ですが、中長期ロードマップにもとづいて安全かつ着実に取り組みを進めています。また、ALPS処理水は、2023年8月の海洋放出を開始以降、計画通り放出をおこなっています。
①廃炉
1-4の各号機は安定した状態を維持しています。使用済燃料プールからの燃料取り出しは、3・4号機は完了しています。1・2号機では取り出しに向けたガレキ撤去や取り出し装置の設置などをおこなっています。2024年11月と2025年4月の2回にわたって、2号機にて、テレスコ式装置(釣り竿型の伸縮式装置)を用いた「燃料デブリ(溶けた燃料が構造物と混ざりながら固まったもの)」の試験的取り出しに成功し、現在分析作業を進めています。取り出し作業の経験や、分析により得られる知見も活かし、引き続き、燃料デブリの取り出しなどの廃炉の根幹となる困難な課題について、安全確保に万全を期しつつ、着実に作業を進めていきます。
②汚染水・処理水対策
東京電力福島第一原発で1日あたりに発生する汚染水の量は、凍土壁などの重層的な対策により、対策開始前の8分の1程度に低減しています。トリチウム以外の放射性物質の濃度が規制基準を満たすまでALPSを含む複数の浄化設備で処理した上でタンクに貯蔵しています。このALPS処理水は、2023年8月に海洋放出を開始して以降、計画通りの放出をおこなってきています。これまでのモニタリング結果や国際原子力機関(IAEA)による評価などから、ALPS処理水の海洋放出は、人や環境への影響がなく、安全におこなわれていることが確認されています。引き続き、安全確保、風評対策・なりわい継続支援に取り組んでいきます。
③福島の復興に向けた動き
現在、「帰還困難区域」以外は、すべての地域で避難指示が解除されています。帰還困難区域については、「特定復興再生拠点区域」制度を設け、2020年3月のJR常磐線全線開通に合わせて駅周辺を先行解除し、2022~23年にかけて、6町村(葛尾村、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、飯館村)の特定復興再生拠点区域全域の避難指示が解除されました。
特定復興再生拠点区域外については、2023年に「福島復興再生特別措置法」を改正して、帰還意向のある住民の帰還とその生活の再建をめざす「特定帰還居住区域」制度が創設されました。その後、2025年7月までに大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、南相馬市及び葛尾村の6市町村における「特定帰還居住区域復興再生計画」が認定され、除染やインフラ整備など、避難指示の解除に向けた取り組みが進展しています。引き続き、帰還意向のある住民の方々が早期に帰還できるよう取り組みを進めます。
また、事業・なりわいの再建に加え、福島イノベーション・コースト構想や福島新エネ社会構想を推進し、新たな産業集積を進めるとともに、福島国際研究教育機構を設立し、研究開発や人材育成などをおこなうことにより、福島の地域再生に向けた取り組みを進めています。
省エネと非化石転換
化石燃料の大半を海外からの輸入に依存する日本では、徹底した省エネルギー(省エネ)は欠かせません。これに加えて、2050年のカーボンニュートラル達成に向けてさらに排出削減を進めていく上では、電化や化石燃料から非化石エネルギーへの転換を進めていくことも重要です。
需要サイドのカーボンニュートラルに向けたイメージと取り組みの方向性
省エネ・非化石転換の取り組みとして、産業分野では、省エネ法による制度面での対応に加えて、省エネ設備への更新支援や、専門家が中小企業を訪ねてアドバイスをする「省エネ診断」の支援をおこなっています。地域の金融機関や省エネの支援機関とも連携しながら、中小企業も含めた省エネの取り組みを促進していきます。加えて、電化や非化石エネルギーへの転換や、デジタル技術を活用した省エネの取り組みも推進していきます。
業務・家庭分野では、建物の省エネ性能の向上が期待されています。住宅・建築物は一度建築されると長く使われるため、できるだけ速やかに省エネ性能の向上を進めるとともに、非化石エネルギーへの転換やディマンドレスポンス(DR:消費者が賢く電力使用量を制御することで、電力需給バランスを調整するための仕組み)も推進していく必要があります。日本は、2050 年にストック平均(新築だけでなく、既存の建物も含めた全住宅の平均)での ZEH・ZEB(ネットゼロ・エネルギー・ビル)水準の省エネ性能を目指し、2030 年度以降に新設される住宅・建築物は同水準の省エネ性能の確保を目指すという目標を掲げています。建築物省エネ法などの規制と支援措置を一体的に活用しながら、省エネ性能の向上と再生可能エネルギーの導入拡大を進めていきます。また、DX や GX の進展による電力需要増加が見込まれるなか、データセンターの効率改善を進めていきます。
※ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス):断熱性能を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネを実現した上で、再エネを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅です。
住宅・建築物の取組の方向性
再エネの導入拡大
2050年のカーボンニュートラル達成のために再エネの導入拡大は欠かせません。日本の再エネ電力比率は2023年度で約22.9%。毎年導入量は増えています。再エネ発電設備容量は世界第6位で、太陽光発電は世界第3位です。国土面積あたりの日本の太陽光導入容量は主要国の中で最大級です。
主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較(2023年)
(出典)IEA「Market Report Series – Renewables 2024(各国 2023年時点の発電量)」、IEA データベース、総合エネルギー統計(2023年度確報値)などより資源エネルギー庁作成
電気を安定して使うには、発電量(供給)と消費量(需要)を常に同じにしておく必要があります。再エネは季節や天候によって発電量が変動するため、電力の安定供給には火力発電など発電量が調整できる電源や、蓄電池と組み合わせて使う必要があります。
最小需要日(5月の晴天日など)の需給イメージ
日本は再エネを「主力電源」にする方針を掲げています。そのために、「軽量・薄型・柔軟」な次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池(
「日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)~今までの太陽電池とどう違う?」参照)や屋根設置などの地域共生が図られたものへの支援の重点化、新築住宅のZEH目標の達成、洋上風力の案件形成、技術開発や設備投資支援、再エネ導入拡大に向けた送配電網の増強などとともに、事業規律の強化を通じて、地域と共生した再エネの導入拡大を進めていきます。
再エネの導入拡大に伴い、安全面、防災面、景観などについて、地域の懸念が顕在化した例もあります。こうした懸念に適切に対応するため、昨年12月に取りまとめられた「メガソーラー対策パッケージ」に基づき、地域と共生した再エネの導入に取り組んでいきます。
原子力発電
日本の原子力発電所は、2026年2月17日時点で15基が稼働しています。今後も引き続き安全を最優先で、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、地域の理解を得ながら再稼働を進め、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立を目指します。
日本の原子力発電所稼働状況
日本では、原子力発電所の使用済燃料(
「使用済核燃料を有効活用!『核燃料サイクル』は今どうなっている?」参照)を再処理し、回収されるウランとプルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」を推進しています。核燃料サイクルのメリットは、「資源の有効利用」、「放射性廃棄物の量を減らす」、「天然ウラン並の有害度まで低下する期間が短くなる」といったことがあります。再処理をおこなうことで、使用済燃料の約95%を再利用することができ、残りの約5%は廃液となります。廃液は、ガラス原料と溶かし合わせてガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)とし、地下深くに埋めて処分すること(地層処分)が法律で規定されています。
放射性廃棄物を地層処分するための最終処分地の選定は、高レベル放射性廃棄物が既に存在している日本において、必ず解決しなければならない国家的問題です。地層処分の仕組みや日本の地質環境などについて理解を深めてもらうため、2017年に「科学的特性マップ」を公表し、全国各地で対話活動をおこなっています(
「『科学的特性マップ』で一緒に考える放射性廃棄物処分問題」参照)。2026年2月時点では、北海道の寿都町及び神恵内村、佐賀県の玄海町の3町村で処分地選定の第1段階である文献調査プロセスを実施しています(
「最終処分地を選ぶ時の『文献調査』ってどんなもの?」参照)。
原子力発電の活用は、エネルギー安全保障の確保やCO2排出削減の観点から、世界的な潮流となっています。国際エネルギー機関(IEA)は、世界的な電力需要の増加にともない、2050年までに世界の原子力発電の設備容量は現在(420GW)の2.5倍以上(1079GW)に達すると予想しています。また、原子力三倍宣言(2050年までに世界全体の原子力発電容量を3倍にする)に賛同する国が33ヵ国に増加するなど、世界的に原子力発電の活用を後押しする動きがみられます。
GX実現に向けたイノベーション
日本は、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素(温室効果ガスの排出削減)を同時に実現するためのGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みを進めています。GXを実現するためには、脱炭素効果の高い電源(電気をつくる方法)を導入する必要があります。その実現のためのイノベーションについてご紹介しましょう。
①次世代の再生可能エネルギー(ペロブスカイト太陽電池・浮体式洋上風力発電)
ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟なことから、耐荷重性の低い屋根やビルの壁面など、これまで導入が難しかった場所への設置拡大が期待できます。
浮体式洋上風力発電は、風車の基礎を海底に直接固定せず洋上に浮いた状態で発電するため、水深の深い海域でも設置でき、今後の拡大が期待されます。
②水素・アンモニアなどの次世代エネルギー
水素は、ガスや石炭などの資源からつくることができ、燃焼時にもCO2を排出しません。大規模供給や国際的なサプライチェーンの構築、燃料電池自動車や家庭用燃料電池の導入などの利活用を推進しています。
アンモニアは、水素キャリア(輸送媒体)としての利用が可能で、既存インフラを活用できるため水素よりも安価に製造・利用できます。アンモニアは燃焼速度が石炭に近く、石炭火力発電の混焼燃料や、国際海運の船舶用燃料としても注目されています。
このほか、水素と二酸化炭素を合成してつくられる合成メタンや、船舶・航空などで活用できる合成燃料、植物や廃油などから製造されるバイオ燃料も、低炭素な次世代エネルギーとして期待されています。
③CO2の回収・有効利用・貯留技術(CCUS、CCU、CCS)
大気中へのCO2排出を削減する技術のひとつとして、注目されているのが「CCUS」です。鉄、セメント、化学、石油精製といった、脱炭素化が難しい産業や発電所などで発生したCO2を分離回収し、地中に貯留、または有効活用することで、脱炭素化を実現できる技術のことを指します。
中でも素材や燃料などへ再利用する技術「CCU/カーボンリサイクル」は、技術開発・社会実装、国際展開、CO2サプライチェーン構築を推進しています。
「CCS」は、発電所や製鉄所などから排出されたCO2を分離して回収し、地中深くに貯留する技術です。事業に必要な設備設計に対する支援をおこなっており、2030年代初頭からCCS事業開始を目指しています。
④イノベーションの実用化(蓄電システム・燃料電池の普及拡大)
国内の定置用蓄電システム(固定の場所に設置する蓄電池)の導入量は年々増加しています。中でも「エネファーム(水素を活用する家庭用燃料電池)」を含む燃料電池は、2025年度第2四半期までの普及台数が56万台以上と、普及拡大が進んでいます。
このほかにも、地熱発電や、石炭のかわりに水素を使用する製鉄技術の導入、バイオマス資源からつくるグリーンLPガス、CO2を再利用したコンクリートやプラスチック原料の製造など、さまざまな技術の実用化でCO2削減に取り組んでいます。
CO2削減に向けたさまざまな技術の実用化
エネルギーは、これからの世界においてますます重要なテーマになります。さまざまなエネルギーに関する最新の情報を学びながら、日本の未来とエネルギーのあり方についてともに考えていきましょう。
日本のエネルギーについて、さらに詳しい情報が「日本のエネルギー2025」に掲載されていますのでご覧ください。
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