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原子力発電(原発)の利用で避けて通れないのが、「放射性廃棄物」の問題です。このうち「高レベル放射性廃棄物」を地下深くの安定的な地層の中に埋める地層処分を実現するためには、十分な時間をかけて、地域の理解を得ながら、処分地となる場所の選定をおこなう必要があります。今回は、最初のステップである「文献調査」についてご紹介しましょう。
資源エネルギー庁は、処分地を選ぶ際に、火山や活断層など、どのような科学的特性を考える必要があるのか、それらが日本全国にどのように広がっているか、といったことを分かりやすく示した「科学的特性マップ」を2017年に公表しました。
これをきっかけに、今、社会全体で、最終処分の必要性やその選定プロセスなどへの理解を深めていくための取り組みが進められています。資源エネルギー庁と、最終処分の実施主体である原子力発電環境整機構(NUMO)によって全国各地で開催されている「対話型全国説明会」はその取り組みのひとつです。
こうした全国各地でおこなわれている対話型全国説明会や、この事業についてより詳しく知りたいという人々のニーズに応じた情報提供などが、全国で積み重ねられてきています。その中で、最終処分事業について関心を示す市町村があれば、市町村の住民が地層処分事業についての議論を進めるための資料として役立てられるよう、全国規模の文献やデータに加えて、より地域に即した地域固有の文献やデータが調査・分析された上で、提供されます。これが「文献調査」と呼ばれるステップで、いわば対話活動の一環です。この「文献調査」を通じて、市町村内で、この事業やこの事業が地域にあたえる影響などについて、議論を深めていく。その結果、仮に、次のステップである現地での「概要調査(ボーリング調査)」に進もうとする場合には、法律に基づき、地元の意見を聴く場が設けられます。そこでの意見に反してプロセスが先に進められることはありません。つまり、文献調査は、処分場選定に直結するものではないということです。
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世界で唯一、処分場の建設を開始しているフィンランドや、処分場を選定し安全審査中のスウェーデンにおいても、このようなステップを踏み、地元の意見を聴きながら、段階的に調査を進めてきています。また、カナダでは、22の地域が「処分事業について詳しく知りたい」と地域への情報提供に関心を表明し、詳しい情報提供を受けました。結果、そのうちの2地域が、日本で言う「概要調査」に相当する「ボーリング調査」に進んでいます。このように、各国とも、処分地を決定するまでの数十年間、処分事業についての理解をみんなで深めていく努力を続けながら、段階的な調査を進めてきています。社会全体で地層処分を実現していく上では、まずは多くの国民が、つまり全国のできるだけ多くの市町村がこの事業について関心を持つこと、また文献調査を通じて市町村での議論を深めてもらうことが非常に重要になるのです。
前述したとおり、文献調査は対話活動の一環です。では、なぜそこまで「対話」が重要なのでしょうか?地層処分とは、私たちの社会全体がかかえている「高レベル放射性廃棄物の処分」という課題を、地域の協力を得て調査を進め、実現していく事業です。一方で、その地域に住む人々の立場になって考えると、地域住民の間での丁寧な議論を積み重ねて、住民による主体的な合意形成がなされていくことが、さらなる調査の実施を検討する前提となります。文献調査をはじめとする20年程度にわたる調査期間全体を通じて、議論を積み重ねることで、最終的に処分事業を受け入れるかどうかを地域で判断していくこととなります。このため、文献調査の実施に際しても、多様な関係者や住民が参画する「対話の場」を設置することが重要なのです。そうした場を通じて、処分事業にかかわるさまざまな情報提供が継続的におこなわれ、また住民の意見が事業に反映されるような活動がおこなわれていくわけです。また、それだけでなく、処分事業に関する議論をきっかけとして、地域の将来ビジョンについての議論も住民主体で深める場にしていくことが求められます。
こうした活動は世界各国でもおこなわれており、「対話の場」は、地域の要望を最終処分事業に反映したり、最終処分をおこなう実施主体へ要望を提案したりする場として重要な役割をはたしています。たとえば、処分事業の受入れによる風評被害などへの不安の声に対しても、フィンランドやスウェーデンでは、こうした「対話の場」での議論などを通じて、観光業や農業への風評被害や住宅価格低下の可能性について過去の類似施設設置前後での影響を調査分析し、その評価結果を住民に示すなどの取り組みがおこなわれてきています。
スイス(出典)ジュラ東部地域会議HP引用
スウェーデン(写真提供)エストハンマル自治体
カナダ(出典)イグナス地域連絡委員会HP引用
では、文献調査とは何をどのように調査していくのでしょうか。前述した「科学的特性マップ」は、一般的に公開されている文献やデータの中から、全国規模で整理された文献やデータを使用して作成されています。このような「科学的特性マップ」作成に使用したものに加えて、「文献調査」では、地域の学術論文や詳細な地質図など、地域に関する資料やデータを調べます。これは文献を使った机上での調査であって、この段階ではボーリング調査のような現地での作業はおこなわれません。たとえば、「科学的特性マップ」の作成に使用された文献やデータの中で、「処分場に好ましい特性が確認できる可能性が高い」とされた場所があったとします。「文献調査」では、その場所についてさらに詳しく文献やデータを調べ、火山活動・断層活動・鉱物資源の有無などの観点から、処分場として明らかに適切ではない場所を除外していく…といった調査をおこなうのです。
今後も、諸外国の知見・経験も参考にしつつ、この事業に関心を持つ全国のできるだけ多くの地域で、「文献調査」を通じて、「対話の場」も活用しながら、調査の進捗状況の説明や地域の将来ビジョンについての議論などを、積極的・継続的に積み重ねていきます。
電力・ガス事業部 放射性廃棄物対策課
長官官房 総務課 調査広報室
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