世界で見直しがはじまった自動車産業政策〜日本の「マルチパスウェイ戦略」にも注目が

一部の国・地域では、脱炭素への対応から、電気自動車(EV)の普及が促進されてきた側面があります。しかし今、世界の市場は、EVだけではなく多様な選択肢を持とうという方向性へ変化しはじめています。世界の自動車産業で起こっている変化はどのようなものなのでしょうか。また、その中で日本はどのような戦略を取っていく計画なのでしょうか。
自動車産業の現在地はどうなっている?
世界の自動車販売台数は、2025年で約9,500万台。そのうち日系企業の自動車は約2,300万台と、シェアの約24%を占めています。
一方で日本国内に目を転じると、販売台数は2024年で約442万台と減少しています。このため、グローバル市場を意識した競争力の確保は不可欠です。自動車市場の規模が大きいのは中国・北米・欧州ですが、今後も成長が見込まれる市場である新興国、特に日系企業の生産拠点が集まっているASEAN各国やインドでのシェア拡大も重要となります。
日系自動車メーカーの国内販売・輸出・海外生産
注:国内販売台数は日系OEM12社の販売台数(海外輸入分含む点に留意)、新興国はアジア、中近東、中南米、アフリカ、先進国は北米、欧州、大洋州。
(出典)一般社団法人日本自動車工業会データベース
近年、世界では環境対応の進んだ電気自動車(EV)が大きなトレンドとなり、世界のメーカーも積極的にEVを販売してきました。EV市場の拡大をリードしてきたのは、米国のテスラ社、そしてBYD社をはじめとする中国企業です。メーカー別シェアで見ると、中国系企業だけでEV市場の55%を占めています。
「電気自動車(EV)一辺倒」だった世界の自動車市場に変化のきざし
電動化の流れは今後も基本的に変わらないと考えられますが、ここにきて、「EV一辺倒ではなく多様な選択肢を持とう」という変化がだんだんと見られるようになっています。
もちろんグローバル全体では、EVの販売比率は基本的には増加トレンドを継続していますが、たとえば米国では、2025年9月以降、EVの販売台数が激減しています。これは、トランプ政権の誕生以降の政策変化があったためです。2030年までの新車販売における「ZEV目標」(EV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池自動車(FCV)で50%以上とする目標)の撤廃、「インフレ削減法(IRA)」におけるEV税制優遇措置の廃止が決定。さらに、平均燃費基準を規制した「CAFE規制」における罰金廃止なども予定されています。
これにより、税制優遇措置が終了する9月末までにEVのかけこみ需要が発生。その反動もあって10月以降のEV販売台数の大幅減となったのです。一方で、ハイブリッド車(HEV)の販売比率は増加傾向が続いています。
また、欧州では、もともとEV新車の販売台数・割合の増加傾向が鈍ってきている一方で、HEVの販売比率が高い水準を維持しています。メルセデス・ベンツ社が、2030年までに完全なEVメーカーとなる目標を取り下げ、エンジン開発への投資を決めるなど、自動車メーカーの中には「EV一辺倒」から路線を変える企業もあらわれています。
こうした中、2025年12月には、2035年以降の内燃機関車(従来のガソリン車のような、内燃機関をもつ自動車)の販売を事実上禁止していた「CO2排出規制」の見直し案が公表されました。2035年以降も、EV、FCVに加えて、PHEV、HEVなどの販売が可能となる見込みとなっています。
下の表は、2026年2月時点における各国の自動車電動化の目標をまとめたものですが、全体として、「EV一辺倒」からの変化が見られることがわかります。
日本が世界に発信する「マルチパスウェイ戦略」は他国の参考に
日本は、自動車分野のGX(グリーントランスフォーメーション、石炭や石油など化石エネルギー中心の産業構造・社会構造から、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心へと転換すること)を目指すにあたって、「マルチパスウェイ戦略」を掲げてきました。
これは、EVだけでなく、日本企業が強みを持つ内燃機関自動車や、HEV、FCV、バイオ燃料対応車など、多様な選択肢を追求するという戦略です。戦略のもと、EVの競争力を強化するとともに、内燃機関においても勝ち続ける取り組みが進められています。
こうした戦略のありかたは、かねてより日本が掲げている、「脱炭素へ向かう道筋はひとつではなく、国や地域の状況に合った方法を選択していくことが大切だ」という考え方に基づくものです。また、EVに欠かせない重要鉱物が特定の国に偏在していることもあり、EVだけに注力するのはリスクが大きいという考え方も背景にあります。
「マルチパスウェイ」を追求する日本の姿勢は、産業構造やエネルギー構成、インフラ普及の環境や、消費者のニーズなどの事情がさまざまに異なる海外の国にも参考となるものです。2024年の「G7」および「G20」では、日本からの働きかけにより、多様な道筋を通じたCO2の排出削減や持続可能燃料の導入などが合意されました。
- 詳しく知りたい
- 2024年のG7は、脱炭素政策のさらなる加速と拡大で合意
また、2024年の「G20」のホスト国でもあったブラジルとは、持続可能燃料に関する具体的な連携もスタートしています。持続可能な燃料とモビリティを推進する枠組み「ISFM(アイスファム)」では、ブラジルが強みを持つ「バイオ燃料」などの持続可能燃料と、日本が強みを持つハイブリッド車などの高効率モビリティを活用する取り組みをおこなっています。さらに、2025年にブラジルで開催された「COP30」では、持続可能燃料に関する宣言を立ち上げ、2026年2月時点ですでに28カ国・地域が賛同しています。
「ISFM(アイスファム)」を含む、日本・ブラジルの協力文書発表式
ASEANでもこの取り組みは共有されつつあります。ASEAN各国は、日系自動車メーカーやサプライヤーが多く、人口増加や経済発展が続く重要な市場です。2023年、日本とASEANの特別首脳会議において、「次世代自動車産業共創イニシアティブ」を進めていくことが合意され、「次世代自動車産業マスタープラン」の策定がおこなわれています。「次世代自動車産業マスタープラン」は、脱炭素化を目指しながらASEANの自動車産業の競争力強化を図るための指針となるもので、ASEANのニーズや状況に応じた多様な経路(パスウェイ)のアプローチを展開することの重要性が言及されています。
さらにインドネシアとは、2019年に、両国の自動車産業政策について議論する場として、「インドネシア・日本自動車対話」を創設しました。対話を深める中で、バイオ燃料協力を進めることを目的に「バイオ燃料共創タスクフォース」を設けることで合意し、2025年11月にはタスクフォースの第1回を開催し、協力も深めています。
世界の自動車政策は、これまでの「EV一辺倒」から、「現実的で多様な選択肢」に変わりつつあります。その流れの中で、日本が従来掲げてきた「マルチパスウェイ戦略」に、あらためて理解が広がっていると言えるでしょう。とはいえ、目指すのが「脱炭素化」社会であることには変わりがありません。クリーンエネルギー自動車に対応した体制をつくりながら、内燃機関車や次世代燃料も活用し、自動車産業の持続的成長と脱炭素の両立を目指していきます。
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