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青森県・六ヶ所再処理工場 (出典)日本原燃株式会社
原子力発電所で使用した「使用済燃料」を、再処理することで有効活用する「核燃料サイクル」。これまでもさまざまな記事で、核燃料サイクルとはどのようなものなのか、実施に向けた取り組みや今後の計画などをお伝えしてきました。今回は、「核燃料サイクル」についてあらためておさらいしながら、使用済燃料の現在の状況や再処理をおこなう施設の進捗など、核燃料サイクルの“現在地”をお伝えしましょう。
「核燃料サイクル」とは、原子力発電で使い終えた燃料(使用済燃料)の中から、ウランやプルトニウムといった燃料として再利用可能な物質を取り出し(再処理)、この取り出した物質を混ぜ合わせて「MOX燃料」と呼ばれる燃料に加工して、もう一度発電に利用する取り組みのことです。この核燃料サイクルには、以下の3つのメリットがあります。
使用済燃料には、ウランやプルトニウムなどのまだ燃料として使える資源が95~97%残っていて、回収して再処理をおこなうことで再利用することができます。
日本のエネルギーに関する政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」において、核燃料サイクルの推進は「基本的方針」と位置づけられてきました。2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」(「2050年カーボンニュートラルを目指す日本の新たな『エネルギー基本計画』」参照)でも、あらためて、核燃料サイクルの実現に向けた取り組みを着実に進めることが明記されています。また、運転時にCO2を排出しない原子力発電は、日本がかかげる「2050年カーボンニュートラル」実現に向けても重要な電源(電気をつくる方法)です。そこで、エネルギー安定供給・経済成長・脱炭素を同時に実現する政策をまとめたロードマップとして2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」でも、核燃料サイクルを推進していくという方針が示されています(「『GX実現』に向けた日本のエネルギー政策(前編)安定供給を前提に脱炭素を進める」参照)。
日本が核燃料サイクルを確立するためには、解決しなければいけない課題がいくつかあります。その1つめは、再処理をおこなう工場として、青森県六ヶ所村で建設が進められている「六ヶ所再処理工場」を稼働させることです。
(出典)日本原燃株式会社
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上記記事でもご紹介している通り、この六ヶ所再処理工場も、2013年に設けられた原子力施設に対する新しい規制基準への適合性審査に対応することが求められています(「原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント」参照)。そこで、六ヶ所再処理工場を運営する日本原燃株式会社は対応のための工事を進め、2014年に新規制基準への適合性審査の申請を実施。2020年7月には事業変更の許可を取得、つまり新規制基準に沿ったさまざまな対策を反映する許可を得ました。その後、2022年12月には第1回の設計及び工事計画の認可を取得。2022年内に主要な安全対策工事もおおむね終了するなど、大詰めの段階にあります。日本原燃株式会社は、2024年度上期のできるだけ早期の竣工に向けて取り組んでいます。六ヶ所再処理工場の竣工に向けて、国も日本原燃や各電力会社への指導などをおこなっており、完成すれば、フル稼働時には年におよそ800トンの使用済燃料を処理できる能力を持つ見通しです。
課題の2つめは、使用済燃料の貯蔵状況です。半世紀以上にわたって原子力発電を利用してきた日本には、現在、全国に約1.9万トンの使用済燃料が存在しています。使用済燃料は各原子力発電所などで管理されていますが、それぞれ貯蔵しておける管理容量というものが定められています。全施設の管理容量は合計約2.4万トンで、2019年の記事「『使用済燃料』のいま~核燃料サイクルの推進に向けて」では貯蔵割合は75%に達しているとお伝えしましたが、2023年現在の貯蔵量の総量は約1.9万トンと、約80%にまで達しています。こうした事情をふまえ、国と電気事業連合会で設置した「使用済燃料対策推進協議会」を活用し、貯蔵能力の拡大などに向けた事業者の連携・協力など官民の取り組みが強化されています。電力関連事業者全体の取り組みとしては、2020年代半ばごろに4,000トン程度、さらに2030年ごろに2,000トン程度、合わせて6,000トン程度の貯蔵能力を拡大していくことが計画されています。四国電力の伊方発電所、九州電力の玄海原子力発電所における乾式貯蔵施設、東京電力と日本原子力発電の青森県むつ市における中間貯蔵施設が原子力規制委員会の安全審査に合格するなど、現在、約4,600トン相当の貯蔵容量拡大に向けて、具体的な取り組みが進展しています。これらの取り組みには地元の方々の理解を得ることが大前提となるため、国としても丁寧な対話を通じて、理解を得られるよう力を尽くしていくこととしています。核燃料サイクルの推進は、このような使用済燃料の貯蔵量を減らすことにも役立ちます。
3つめの課題は、再処理されたMOX燃料の利用に関するものです。MOX燃料は、現在、「軽水炉」と呼ばれる原子炉で発電に利用されています。使用済燃料を再処理し、回収されたプルトニウムを含むMOX燃料を軽水炉で使用して発電することを「プルサーマル」といいます。現在は、関西電力の高浜発電所などの計4基でプルサーマルが実施されています。核燃料サイクルを推進していくためには、このようなMOX燃料を使う原子力発電所を増やしていく必要があります。
プルサーマルを実施している福井県・高浜発電所 (出典)関西電力株式会社
電力9社(沖縄電力を除く)と日本原子力発電、電源開発の電力11社は、2020年12月に「新たなプルサーマル計画」を策定し、「2030年度までに少なくとも12基で実施する」ことを掲げています。その実現のためには、地元の理解を得ることがかかせません。そこで、電気事業連合会は、2022年12月に「プルサーマル計画の推進に係るアクションプラン」を策定。地元理解に向けた取り組みや事業者間の連携を強化していくこととしています。官民のちからを合わせて、核燃料サイクル推進に向けた取り組みを進めていきます。
電力・ガス事業部 原子力立地・核燃料サイクル産業課
長官官房 総務課 調査広報室
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