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経済産業省は、各年度にエネルギーの需給に関しておこなった施策について、国会に年次報告書を提出しています。「エネルギー白書」と呼ばれるこの報告書には、エネルギーをめぐる国内外の状況や、これを踏まえた日本の取り組み、今後の方針などがまとめられています。ロシアによるウクライナ侵略やエネルギー価格の高騰、電力の需給ひっ迫、そしてカーボンニュートラルに向けた動きなど、激動の続くエネルギーの「今」を知り、「これから」を考えるための重要な資料です。2023年6月に公開された「エネルギー白書2023」から、その読みどころをお伝えしましょう。
今回のエネルギー白書では、例年取り上げている福島復興の進捗に加えて、ロシアによるウクライナ侵略でその重要性が再認識された「エネルギーセキュリティ」や、エネルギー安定供給の確保・産業競争力の強化・脱炭素を同時達成するための「GX」(グリーントランスフォーメーション)をトピックとしています。これらをはじめとする主なトピックを見ていきましょう。
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故発生から、2023年で12年が経ちました。福島の復興にはまだ多くの課題が残されているものの、一歩一歩着実に進展しています。その一つが、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取り組みです。2020年3月に、帰還困難区域以外の地域の避難指示がすべて解除されました。その後、2022年6月に葛尾村の特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、帰還困難区域において初めて住民の帰還が可能となりました。以降、大熊町・双葉町・浪江町・富岡町・飯舘村の特定復興再生拠点区域の避難指示も順次解除されています。特に双葉町では、それまで県内で唯一、全町避難が続いていましたが、2022年8月の特定復興再生拠点区域の避難指示解除により、震災後初めて住民の帰還が可能となりました。
帰還困難区域の避難指示の解除状況
(出典)経済産業省作成
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今後、重要となるのは、住民の帰還を可能にするさまざまな取り組みです。被災事業者の事業・なりわいの再建や企業立地に向けた取り組み、新産業の創出などを進めています。避難指示が解除されていない地域においても、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう制度面の整備も進めていきます。たとえ長い年月を要するとしても、将来的にすべての避難指示を解除し、福島の復興・再生に責任を持って取り組んでいきます。また、福島復興の大前提となる廃炉を進めるために必要な「ALPS処理水の処分」については、2023年1月の関係閣僚等会議で、具体的な海洋放出時期を「本年春から夏頃を見込む」と示しました。ALPS処理水の安全性については、国際原子力機関(IAEA)によるレビューを受け、その内容や結果を国内外に発信しています。
使用済燃料プール内の燃料取り出しについては、これまでに3・4号機からの取り出しを完了し、2031年内に全号機の取り出しの完了を目指しています。また、溶けた燃料が冷えて固まった燃料デブリの取り出しについても、水中ロボットを活用した調査が進んでいます。さらに、取り出しに向けて、ロボットアームの試験を楢葉町で開始しています。
近年、世界ではエネルギーを取り巻く環境が混迷しています。以前から、世界ではエネルギーの供給力不足や価格高騰が問題となっていましたが、ロシアによるウクライナ侵略がこの問題に拍車をかけました。とりわけロシア産のエネルギーに頼っていた欧州などでは、深刻な影響を受けています。
ロシアによるウクライナ侵略前のG7各国のエネルギー自給率とロシアへの依存度
(出典)World Energy Balances 2022、BP統計、EIA、Oil Information、Cedigaz統計、Coal Information、貿易統計より経済産業省作成
EUやG7を中心にロシア産エネルギーから脱却する動きが活発化し、欧州各国は省エネとあわせて石炭火力・原子力などを活用しつつ、急速にLNGの輸入を拡大しました。その結果、世界のエネルギー情勢は一変し、エネルギー価格がさらに高騰する危機的な事態となったのです。ドイツでは、天然ガスの輸入物価が一時10倍近くまで急騰し、アジアでは高騰するLNGの購入を見送り、計画停電を実施する国も発生しました。
2021-22年の世界のLNGの需給バランス
(出典)Kplerからエネルギー経済社会研究所作成
天然ガスの輸入物価指数(2020年1月=100)
(出典)Global Trade Atlasから経済産業省作成
今後も欧州のLNG需要は高まる見込みで、世界的な「LNG争奪戦」は2025年頃にかけてさらに加熱し、短期間では終わらないと想定されており、2023年4月に行われた「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」や同年5月に行われた「G7広島サミット」においても、天然ガス・LNGの必要性が示されました。こうした世界情勢は、一次エネルギーの多くを輸入する化石エネルギーに頼る日本にも影響をおよぼしています。日本でも天然ガスの輸入物価が約2倍(2020年1月比)に上昇し、電気料金なども高騰しました。日本はLNGの多くを長期契約・原油価格との連動で調達していることなどもあり、欧州ほどの上昇幅にはなっていないものの、オイルショック以来のエネルギー危機が危惧される緊迫した事態に直面していることには違いありません。
日本では、家庭や企業などへの影響を緩和するため、電気・都市ガス・ガソリンなどの価格上昇を抑える支援をおこなっています。標準的な世帯の場合、電気は月2,800円、都市ガスは月900円の値引きが2023年1月使用分より実施されています。また、ガソリンは補助により1リットル170円程度に抑えられています。
電気料金支援、都市ガス料金支援の内容
レギュラーガソリンの全国平均価格の推移
GX(グリーントランスフォーメーション)は、これまでの化石エネルギーを中心とした産業構造・社会構造を変革し、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心のものに転換することをいいます。以前より、脱炭素社会の実現に向けた取り組みは世界的に進められてきましたが、最近はCO2の排出削減と、産業競争力の強化・経済成長を同時に実現するGXへの投資競争がより激化しています。とりわけ欧米では、再生可能エネルギー(再エネ)・原子力・水素・EVなどの導入を加速すべく、国家をあげて投資促進策を講じています。たとえば、米国では「インフレ削減法」を通じた10年間で50兆円規模の政府による投資促進策が打ち出されています。そうした中、日本でもエネルギー安定供給の確保・産業競争力の強化・脱炭素を同時に実現すべく、「GX実現に向けた基本方針」が2022年末にとりまとめられ、2023年2月に閣議決定されました。その内容は今後10年を見据えたものとなっていて、大きく2つの要素があります。ひとつはエネルギー安定供給の確保を前提としたGX推進のためのエネルギー政策、もうひとつはGXを具体的に進めるための方法である「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行です。
日本のGXのイメージ
「GX実現に向けた基本方針」の概要
「2030年度の温室効果ガス排出量46%削減(2013年度比)」、「2050年カーボンニュートラル」といった国際公約を掲げる日本にとって、クリーンエネルギーへの転換は避けて通れない課題です。世界のエネルギー情勢が不確実化している中で、エネルギーの安定供給を大前提としたGXへの取り組みは今後ますます重要性を増すと考えられます。
「エネルギー白書2023」では、こうしたトピック以外にもエネルギー動向に関するデータや、さまざまな施策の状況についても知ることができます。エネルギー資源の約9割を輸入に頼る日本では、安定した資源確保のための施策、再エネの導入拡大に向けた施策、激甚化する自然災害を踏まえたエネルギー供給網構築のための施策など、さまざまな方法でエネルギーの安定供給確保などの課題を同時に解決していかなければなりません。私たちの暮らしと直結するエネルギーの「今」を知り、「これから」を考えるためにも、「エネルギー白書2023」をぜひ読んでみませんか。
長官官房 総務課 調査広報室
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