ガソリンのカーボンニュートラル移行に欠かせない「バイオエタノール」とは?

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カーボンニュートラルに向けて、自動車の分野で「バイオ燃料」の活用が期待されています。バイオ燃料の一種であり、トウモロコシやサトウキビなどを由来とする「バイオエタノール」をガソリンに混ぜ合わせて使用すれば、自動車からのCO2排出を減らすことができるためです。バイオエタノールのガソリン混合は多くの国で既に導入されていますが、日本でも導入に向けて、さまざまな取り組みが始まろうとしています。「バイオエタノール」とは何か、導入が進められている背景や各国の状況、導入のために必要な取り組みなどを見ていきましょう。

バイオエタノールが期待される理由は、自動車の“カーボンニュートラル化”

「バイオエタノール」への期待が高まっている背景には、日本が目指す「2050年カーボンニュートラル」という目標があります。この「2050年カーボンニュートラル」を実現する上で必要不可欠となるのは、日本のCO2排出量の約2割を占める運輸部門のCO2排出量削減です。

運輸部門の中でも自動車については、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、ハイブリッド自動車(HEV)といったさまざまな車両の選択肢があります。日本は、それぞれの技術の課題や世界市場の動向などを踏まえた上で、「多様な選択肢」を通じてカーボンニュートラルを実現していく「マルチパスウェイ戦略」を基本戦略としています。

エネルギー密度が高く、移動や運搬がしやすく、貯蔵性にすぐれる液体燃料(ガソリンなど)は、EVやFCVの導入を進める中でも必要不可欠な燃料として存在し続けると考えられ、一定の需要が残ると見込まれています。このため、自動車のマルチパスウェイの取り組みに合わせながら、ガソリンなどの液体燃料をどのようにして“カーボンニュートラル化”していくかを考えることが重要となっています。

運輸部門における二酸化炭素排出量
運輸部門をはじめとした各部門における二酸化炭素排出量をグラフで示しています。

(出典)国土交通省

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液体燃料のカーボンニュートラル実現の切り札としては、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を合成して製造される「合成燃料(e-fuel)」が期待されています。合成燃料は、従来の液体燃料の特徴を持っており、現行モデルのエンジン車や、ガソリンスタンド、運搬用タンクローリー、製油所などをそのまま使用することができます。また、原料が安定的に調達でき、大量生産できるメリットもあります。しかし、製造コストが高く、合成燃料の商用化にはまだ時間がかかる見通しです(2030年代前半までに商用化を目指す目標を立てています)。

そこで、合成燃料の商用化までの移行期に重要な役割を果たす燃料として考えられているのが、バイオ燃料なのです。下の図は、ガソリンのカーボンニュートラル化のイメージを描いたものですが、バイオ燃料で移行期の脱炭素化を支えながら、将来は合成燃料と組み合わせることでカーボンニュートラルを目指すことが考えられています。

ガソリンのカーボンニュートラル化のイメージ
ガソリンのカーボンニュートラル化のイメージについて、現状・移行期①・移行期②・将来の4段階で化石燃料・合成燃料・バイオ燃料の割合の変遷をグラフで表しています。

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「バイオエタノール」とは何か?その強みと世界の利用状況

このように期待を集めている「バイオエタノール」ですが、いったいどのような燃料で、どんな強みがあるのでしょうか?ここであらためておさらいしておきましょう。

バイオ燃料は、植物や廃食油、廃棄物から製造される燃料で、これらの原料となる植物などが、成長過程で大気中のCO2を吸収することから、カーボンニュートラルな燃料であるとみなされています。その中で、トウモロコシやサトウキビなどを発酵して製造されるのが「バイオエタノール」です。

このバイオエタノールを、ガソリンに混合して自動車燃料として使用することで、自動車のCO2排出削減に役立てることができるというわけです。

ほかにも、バイオエタノールには、すでに製造技術が確立しているという強みがあります。また、製造コストも合成燃料と比べて安価です。

こうした理由もあり、海外では、ガソリンへのバイオエタノール混合利用が活発に進められています。世界では、「E10」(バイオエタノール10%混合のこと)を掲げている国が多く存在します。そうした中で、インドでは2025年までに全土で「E20」、またブラジルは2030年までに「E30」の実現を目指しています。世界各国でも、バイオエタノールの導入を進めていることがわかります。

各国のバイオエタノール混合率
各国のバイオエタノール混合率を世界地図上で示しています

(出典)米国穀物協会(U.S. Grains Council:USGC)

日本でバイオエタノールを普及させるために、解決するべき5つの課題

実は、日本でもすでにバイオエタノールの利用自体はおこなわれています。石油精製事業者には、法律にもとづいて、原油換算で50万KLのバイオエタノールの利用が義務づけられています。その際、バイオエタノールは水分離や部材腐食といった技術的な課題があることから、既存のインフラをそのまま使えるように、直接ガソリンにバイオエタノールを混ぜる(直接混合)のではなく、ETBEという添加剤に加工して混合しています。バイオエタノール混合ガソリンに対応する車も販売されていて、対応車には給油口のフタの裏に対応表示のステッカーが貼られています。

バイオ混合ガソリン対応車の表示例
バイオ混合ガソリン対応車の表示例を写真で示しています

ただ、その利用は広がっていません。まず前提として、バイオ燃料は世界的に「地産地消」が原則です。そのため、普及が進んでいる国の多くは、バイオエタノールを国内生産できる、自給率の高い国となっています。一方、日本はといえば、主にコスト面の課題から国産化が進んでいません。

各国のエタノール自給率
各国のエタノール自給率を世界地図上で示しています

(各種公表データ(主に2023年値)から、①エタノール国内生産量、②エタノール国内消費量をそれぞれ調査し、その割合(①÷②)をエタノール自給率として算出)
(出典)三菱総合研究所調査データを基に、資源エネルギー庁作成

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その上で、さらにバイオエタノールの導入を拡大するには、どのような課題を解決する必要があるのでしょうか?日本におけるバイオエタノールの導入拡大には、大きく分けて以下の5つの検討すべき課題があると考えられています。

①バイオエタノールの調達ポテンシャル

バイオエタノールの調達は主に輸入に頼ることになります。安定的に調達するためのサプライチェーンの構築や、世界的な需要拡大によるバイオエタノールの調達コストが増大する可能性に対応していかなくてはなりません。

②ガソリンへの混合方式

これまで日本はバイオエタノールを加工したETBEをガソリンに混合する方法を採用していましたが、導入拡大を図るためには、混合比率を引き上げやすい直接混合についても取り扱う必要があります。

③燃料品質(環境・安全対策)

ガソリンに「E10」を超えるバイオエタノールを混合する場合、環境や安全対策の面から新たな基準が必要になります。

④供給インフラ

バイオエタノールの導入拡大を進めていくには、新たな設備投資も必要となります。

⑤車両対応

「E10」水準を超える車については、新たな基準の策定や、それに基づく型式登録を検討する必要があります。

バイオエタノールについての次回の記事では、これら5つの主要課題をさらに詳しく見ていくほか、バイオエタノールの導入拡大を目指して2025年6月10日に策定されたアクションプランについてもご紹介しましょう。

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