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日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み
私たちの身の回りのいろいろな製品で使われているプラスチック。「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)」では、プラスチックに関するCO2排出の課題をご紹介しました。これらの課題を解決することができれば、プラスチックのカーボンニュートラルが実現でき、日本がかかげる「2050年カーボンニュートラル」の達成(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)にも寄与することができます。また、その過程でリサイクル技術が進化すれば、昨今話題の廃プラスチック問題も解決できるかもしれません。今回は、課題解決のため、プラスチックに関して進められている技術研究の取り組みを見ていきましょう。
「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)」では、原料から廃棄・リサイクルまでのプラスチック製造工程を詳細に見ながら、CO2排出を減らすという観点から、プラスチックの環境課題をご紹介しました。こうした環境課題を解決するための戦略として立てられたのが、「①熱源転換」「②原料循環」「③原料転換」に関する技術研究を進めることで、プラスチックのカーボンニュートラル実現を目指そうというものです。
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現在、日本のプラスチック製造産業では、プラスチックの原料となる基礎化学品「オレフィン」と「BTX」(「カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)」参照)をバランスよく得ることができ、プラスチック原料からゴム原料まで幅広く製造できる体制が構築されています。一方、日本では、石油からプラスチックの原料となるナフサをつくる「ナフサ分解炉」の高経年化が進んでいるという課題があります。今回発表された戦略は、日本のもつ強みを活かしつつ、ナフサ分解炉の老朽化対策を克服して、カーボンニュートラルが達成できるような戦略として考えられたものです。
では、「①熱源転換」「②原料循環」「③原料転換」のそれぞれで考えられている戦略と、研究されている技術を見ていきましょう。
前編でご紹介したとおり、プラスチックの「製造工程②ナフサの分解で基礎化学品をつくる」工程では、メタンなどのオフガスを燃焼することで高温にしてナフサを分解しますが、この時CO2が発生します。そこで、この熱源をカーボンニュートラル化し、オフガスを熱源としてではなく、プラスチックやゴムの原料として活用することが期待されています。熱源のカーボンニュートラル化には、燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニア(「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」参照)を使うことが考えられています。
水素やアンモニアの燃焼については、すでに工業炉やタービン、エンジンなどで実証実験をおこなった実績がありますが、ナフサ分解炉では温度分布の変化によって得られるエチレン、プロピレンなどの基礎化学品の割合が変わるため、より繊細な制御技術を確立することが求められます。水素やアンモニアについては、先端研究を進めるため設けられた国の基金「グリーンイノベーション基金」でも、大規模な水素サプライチェーンの構築や燃料アンモニアサプライチェーンの研究開発プロジェクトが立ち上がっています。そこで、こうしたプロジェクトと連携しながら、効率的な研究開発を推進していくこととなっています。
前編でも紹介した廃プラスチックのリサイクルについては、現在主流を占めている「サーマルリサイクル」の割合を減らせば、燃焼によって発生するCO2の発生を抑えることができます。また、「ケミカルリサイクル」技術を確立して、廃プラスチックから原料をつくる“資源の循環”ができれば、原料の脱炭素化に貢献することができます。現在日本でケミカルリサイクルされている廃プラスチックなどは、全体の約3%にとどまっています。そこで、廃プラスチックや廃ゴムから基礎化学品を収率60~80%で製造するケミカルリサイクル技術を確立し、2030年までに年間で数千~数万トンスケールの実証をおこなうなどの目標が立てられています。
ただし、リサイクルは、資源から廃棄・リサイクルまでの環境負荷を見る「ライフサイクルアセスメント(LCA)」によって、全体を通じたCO2排出量を評価することが重要です。リサイクルのために多くのCO2を排出してしまうと、本末転倒となってしまいます。また、製品の回収や分別の状況によってもLCA評価結果は大きく変わります。2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されますが、これらの制度整備とも連携しつつ、回収・分別のしくみづくりを進めることが求められています。
プラスチックの原料として、石油以外を使う技術の研究も進められています。そのひとつは、CO2を“資源”として捉え、これを分離・回収してさまざまな製品や燃料に再利用して、大気中へのCO2排出を抑えようとする取り組み「カーボンリサイクル」(「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」参照)です。これまでスペシャルコンテンツでは、コンクリートへの配合や、メタネーションによる燃料への利用など、カーボンリサイクルに向けたさまざまな領域における研究開発についてご紹介してきました。
化学品分野でも、回収・貯留したCO2を原料として使う「カーボンリサイクルプラスチック」の製造を目指しています。たとえば、ポリカーボネートやポリウレタンなどの「機能性プラスチック」と呼ばれるプラスチックはCO2を原料とし、低エネルギーで水素を使用せずに製造できることから、CO2排出量削減のポテンシャルをもっています。そこで、ポリカーボネートなどを有毒な原料を使わずに製造し、さらなるCO2削減と機能性向上を目指す研究が進められています。また、CO2と水を原料に、太陽エネルギーを活用して化学品を製造する「人工光合成」技術についても研究がおこなわれています(「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術『人工光合成』」「太陽とCO2で化学品をつくる『人工光合成』、今どこまで進んでる?」参照)。人工光合成では、まず太陽光に反応する「光触媒」で水を分解し、水素と酸素を作り出します。次に「分離膜」を通して水素だけを取り出します。最後に、取り出した水素と、工場などから排出されたCO2から「合成触媒」を使って、エチレンやプロピレンなどのオレフィンを作ります。2030年までに、製造時に排出するCO2をゼロにする技術を確立した上で、年間で数千~数万トンスケールの実証と製造コスト減を目指します。
人工光合成によるオレフィンの製造プロセス
*****国は、これらの研究開発を、「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」プロジェクトとして、グリーンイノベーション基金を活用して支援していく予定です。今後進捗があれば、スペシャルコンテンツでご紹介します。
製造産業局 素材産業課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
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