太陽とCO2で化学品をつくる「人工光合成」、今どこまで進んでる?

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光触媒を使った水素製造のフィールドテスト

植物が、太陽エネルギーを利用してCO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す「光合成」。日本が目指す「カーボンニュートラル」(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)においても、CO2削減に寄与する植物のこうした働きは重視されていますが、この光合成を模して、太陽エネルギーとCO2で化学品を合成しようとしているのが「人工光合成」技術です。そのメカニズムについては「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術『人工光合成』」でご紹介しましたが、今回は、産官学連携で進められている「人工光合成」が今どこまで進んでいるのか、研究の最前線をご紹介しましょう。

CO2を使うことで削減する、「人工光合成」を簡単におさらい

日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という長期的目標を実現するためには、さまざまな領域でCO2を削減することが重要です。その方法のひとつとして、日本は、「カーボンリサイクル」や「CCUS」といった、“CO2を使用することで削減する”革新的技術の研究を進めています。「人工光合成」は、プラスチックなど身近な製品の原料を製造する化学産業において、CO2を活用しようとする技術です。

植物の光合成と人工光合成のプロセスをそれぞれ図であらわしています。

「光合成」と「人工光合成」の概念

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たとえば、上の図にある、プラスチックの原料などになる「オレフィン」を人工光合成で作るには、太陽光に反応して水を酸素と水素に分解する「光触媒」と呼ばれる物質と、そこから水素だけを取り出す「分離膜」、水素にCO2を合わせて化学合成をうながす「合成触媒」の技術が必要となります。

これらの技術は、「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術『人工光合成』」でご紹介したとおり、現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援する産官学連携のプロジェクトで研究が進められています。2020年9月には、梶山経済産業大臣が人工光合成プロジェクトを視察。光触媒で水から水素を作っている様子を見学しました。

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変換効率7.0%達成、量子収率100%実現…世界初の画期的な研究成果

2021年の今、その研究はどこまで進んでいるのでしょうか?

開発当初、「光触媒」における「太陽エネルギー変換効率」、つまり太陽エネルギーを使ってどのくらい水から水素を作り出すことができるのかについては、植物の光合成と同じくらい(0.2~0.3%)でした。前回の記事では、水素と酸素を別々の光触媒で生成する「タンデムセル型光触媒」という方法で、2017年度に効率が3.7%まで上昇しているとお伝えしていましたが、2019年には5.5%を達成しました。これは、「窒化タンタル」と呼ばれる光触媒を利用することで、光を透過しやすい赤色透明という特徴を持つ電極を開発できたことが理由です。現在はさらに7.0%まで上昇しており、2021年度の最終目標である10%まで、あと少しとなっています。

タンデムセル型光触媒と太陽光エネルギー変換効率の推移
2010年以降のタンデムセル型光触媒と太陽光エネルギー変換効率の推移を折れ線グラフであらわしています。

また、世界初の技術であり、水中に置いて太陽光をあてれば水素と酸素を生成することができるシート「混合粉末型光触媒シート」は、実際の環境においた上で予備実験が実施されました。現在は、太陽エネルギー変換効率1.1%を達成しています。

混合粉末型光触媒シートが水中で太陽光を受けて水素と酸素を生成する工程を図解しています。

混合粉末型光触媒シートによる水分解の概念図

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混合粉末型光触媒シートによる水分解反応

実用化を目指して製造プロセスの研究も進められており、「スクリーン印刷」を利用した製造法の開発に成功しています。粉末状になった光触媒や電気を通すことのできる材料を、印刷機を使って基盤上に塗布するのです。この製造プロセスであれば、大量生産や大面積展開を実現することができます。

さらに2020年5月には、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合・信州大学・山口大学・東京大学・産業技術総合研究所の共同研究により、世界で初めてとなる100%に近い「量子収率」の粉末状光触媒が開発されました。光触媒の太陽エネルギー変換効率を高めるための方法には、大きく分けて以下の2つがあり、今回は②を最大化することができたということです。

① これまでの光触媒は紫外線しか吸収できなかったが、紫外線だけでなく、可視光線まで吸収することでより多くの太陽エネルギーを利用する
② 光の粒子である「光子」を利用する効率=量子収率を高める

これまでに開発された光触媒では、量子収率50%に達するものはほとんど報告されていなかったため、画期的な成果です。今回のものは紫外線の領域を対象としたもので、こうした研究を応用して、太陽エネルギー変換効率をより高めることができるようになれば、それだけ多くの水素を作り出すことが可能となり、低コストで効率的な人工光合成が実現できます。

実際のシステムを使った水素製造フィールドテストも

一方、「分離膜」の開発については、水素の透過性にすぐれた分離膜の開発に成功しています。水素と酸素が混合して状態が不安定になっている、“爆発性”のある気体から、安全に水素を分離する技術を確立することができています。

「合成触媒」については、CO2と水素からオレフィンを作る化学反応において、その収率が50%以上を達成しています。また、実験とシミュレーションをおこない、最適な小型パイロット装置の仕様も決定されています。

現在、東京大学の研究施設では、光触媒を利用した水素(ソーラー水素)の生成システムについて、フィールドテストが始められています(トップ写真参照)。安全で耐久性のある製造モジュールを開発することができれば、人工光合成の社会実装をさらに一歩先へと進めることができます。将来的には、水素製造プラントとオレフィン合成プラントが隣り合う風景も目にすることができるかもしれません。

スペシャルコンテンツでは、これからもこの夢の技術「人工光合成」について、研究の最前線をご紹介していきます。

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