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CO2を資源としてとらえ、分離・回収してさまざまな製品や燃料に再利用することで、CO2の排出を抑制する「カーボンリサイクル」の取り組み。「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」では、カーボンリサイクルの全体像や期待される利用方法などについてお伝えしましたが、その後もさまざまな取り組みが進んでいます。今回は、カーボンリサイクルの現状をご紹介しましょう。
日本が2050年までの実現を宣言している「カーボンニュートラル」(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)」「同(後編)」参照)。その実現のカギを握るテクノロジーのひとつが「カーボンリサイクル」です。直接的にCO2削減に貢献できるのはもちろん、水素や再生可能エネルギー(再エネ)との活用・相乗効果も期待できるためです。また、CO2を資源として有効活用するカーボンリサイクルは、化学、セメント、機械、エンジニアリング、化石燃料、バイオなどさまざまな事業分野で取り組みが可能なもので、日本に大きな競争力があります。コスト削減や社会実装を進めていけば、グローバルに展開できる可能性もあります。こうしたことから、経済と環境の好循環でカーボンニュートラルの実現を目指す「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」でも、カーボンリサイクルは、「カーボンニュートラル社会を実現するためのキーテクノロジー」と位置づけられています。カーボンリサイクルはあらゆる分野に適用できる考え方であり、「カーボンリサイクル産業」と呼べる各種の産業が育ちつつあります。その分野は基礎研究から生活に身近な製品まで、多種多様です。
カーボンリサイクルのコンセプト
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主なところでは、CO2を吸収してつくったコンクリート製品や構造物などの鉱物、CO2で培養する藻類を原料としたバイオ燃料などの燃料、「人工光合成」によってつくるプラスチック原料などの化学品です(「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術『人工光合成』」参照)。これら以外にも、さまざまな分野でCO2活用の技術開発が進められています。また、カーボンリサイクルを実現するために重要なCO2の分離・回収に関する技術については、化学用途向けなどで、発電所から高濃度のCO2を分離回収する設備がすでに実証段階に入っています。なお、CO2回収プラントの実績では日本企業がトップシェアを誇っており、日本の産学が特許を数多く取得しています。また、大気中からCO2を直接回収する技術、Direct Air Capture、いわゆるDACについても、日本をはじめ各国で技術開発がはじまっています。
カーボンリサイクルの現時点での大きな課題は、生産性の向上とコスト削減です。いずれの産業分野でも、カーボンリサイクル技術でつくられた製品が市場で大規模に流通するようになるには、既存の製品と同程度までコストを下げなくてはなりません。また、すでに製品として完成しているものについても、現在の限定された市場から販路を拡大していく必要があります。これら各種の課題の解決には、企業のみならず、産官学あるいは日本全体で連携していくことが不可欠です。そこで、カーボンリサイクル技術の確立や製品の普及を目指した、さまざまな取り組みがスタートしています。
東京湾岸エリアの企業、大学、研究機関、行政機関などが参加し、東京湾岸周辺を世界に先駆けたゼロエミッション技術のイノベーションエリアにするべく発足した「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)」。この「ゼロエミベイ」を含めて、全国各地でカーボンリサイクルの研究開発拠点を整備しようという動きが進んでいます。
カーボンリサイクル関連研究拠点
広島・大崎上島では、現在、高効率な次世代型の石炭火力発電の実証を実施中ですが(「非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み」参照)、この際に排出されるCO2を分離・回収する実証試験もスタートしています。このCO2を活用して、カーボンリサイクル技術の実証研究を集中的に担う拠点を整備する予定です。
高効率化を目指した「石炭ガス化燃料電池複合発電実証プロジェクト」(広島県大崎上島町)(提供:大崎クールジェン株式会社)
北海道・苫小牧では、CO2を分離・回収・貯留する「CCS」技術について、初の大規模実証試験が実施されています(「CO2を回収して埋める『CCS』、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)」「同(後編)」参照)。今後はカーボンリサイクルの実証拠点ともなるよう、回収したCO2を活用したメタノールの製造などに取り組んでいきます。
北海道・苫小牧市のCCS実証試験 プラント全景
カーボンリサイクル技術として期待される技術の多くは、水素が必要となります。カーボンリサイクル技術が普及していくためには、安価なCO2フリーの水素が不可欠です。現在、政府としては、水素価格の低減に向けて、世界最大級の水電解装置を備えた「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」において、再エネからの水素製造の技術実証を行っています(「2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた『水素社会』の姿」 参照)。
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)(提供)東芝エネルギーシステムズ株式会社
2019年8月、「一般社団法人カーボンリサイクルファンド」が設立されました。このファンドは民間主導によるもので、CO2分離・回収技術で高い技術をもつ企業や、藻類によるジェット燃料に取り組む企業など、会員企業71社11個人が参加しています(2021年4月1日時点)。同ファンドの活動として、現在、カーボンリサイクルの実用化に向けた研究に対する助成や広報・普及活動をおこなうほか、今後は政策提言なども実施する予定です。
カーボンリサイクルの市場拡大を考えると、国内だけでなく海外協力も視野に入れることが重要です。そこで、日本主催による「カーボンリサイクル産学官国際会議」が開催されています(「脱炭素社会に向けて世界が集結!東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク開催(後編)」参照)。2019年の第1回会議では日豪で、2020年の第2回会議では日米間で、カーボンリサイクルに関する新たな協力覚書を締結するなどの成果が得られました。このほかにもいくつかの国際連携がはじまっています。
最後に、いくつか実用化の事例を見てみましょう。すでに社会の中で商品化され、流通している製品もあります。
コンクリートの混和材にCO2を吸収する材料をつかうとともに、セメント使用量を減らして製造時のCO2排出量も削減するのが「CO2吸収型コンクリート」です。すでに実用化されている製品のひとつで、以下のような場所でつかわれています。
舗装ブロック (提供)中国電力株式会社
フェンス基礎ブロック (提供)中国電力株式会社
施工実績
ただし、鉄筋が錆びやすくなる懸念があることから鉄筋コンクリートに使えないなどの弱点があります。そこで現在、中国電力、鹿島建設、三菱商事が中心となって、鉄筋コンクリートにも使用できる技術を開発中です。
「ポリカーボネート」は、パソコンの外装、DVDなどに広くつかわれている材料です。旭化成は、このポリカーボネートを、アルコール、CO2、フェノールを原料として世界ではじめて開発・実用化しました。現在はパソコンの生産などにつかわれています。さらに同社は、世界初となるCO2からウレタンを製造する技術の開発に着手。将来的には断熱材や衣料品などとして活用される見込みです。
化粧品用のプラスチック容器やポリ袋などにつかわれている「ポリエチレン」。フランスの大手化粧品メーカー・ロレアル社は、ランザテック社およびトタル社と共同で、排ガス中のCO2を再利用した化粧品用ポリエチレン容器を開発。2024年までに、シャンプーなどの容器へ使用を広げることを目指しています。
(提供)日本ロレアル株式会社
*****さまざまな分野で研究が進むカーボンリサイクル技術。遠くない未来には、私たちの身近なところで、カーボンリサイクル製品が使われるようになっているかもしれません。
長官官房 カーボンリサイクル室
長官官房 総務課 調査広報室
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