成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
2023年に開催された「第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)」。その成果として採択された決定文書では、再生可能エネルギー(再エネ)について、「2030年までに発電容量を世界全体で3倍にする」という目標が掲げられました。この目標に、日本はどのように貢献できるのでしょう?実はCOP28以前から、日本ではさまざまな再エネ導入拡大のための取り組みが進められています。今回は、「再エネ3倍」目標にも寄与する、日本の再エネ政策の最前線についてお伝えします。
COP28の決定文書では、各国の状況が異なることをふまえ、パリ協定がさだめる「1.5℃目標」(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)に向けた道筋は各国ごとに異なることを考慮した上で、各国ごとに決められた方法で各分野に貢献することを求めると書かれています。その貢献分野のひとつとして明記されたのが、「世界全体で再エネ発電容量を3倍、省エネ改善率を2倍にする」という目標です。さらに、COP28の議長国だったアラブ首長国連邦(UAE)およびEUが主導して、世界全体で再エネ設備容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍とする宣言を提案。有志国が賛意を示し、日本もこれに賛同しました。日本は今回の採択以前から、さまざまな再エネ導入拡大施策に取り組んでいます。下の図は、日本における再エネ導入の推移を示したものです。2012年に始まった「FIT制度(固定価格買取制度)」によって、再エネの導入は大幅に増加(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)。「電源(電気をつくる方法)」における再エネの比率を示した「電源構成比」では、2011年度は10.4%だったのが、2022年度には21.7%と倍以上になりました。2030年度の電源構成を示した「エネルギーミックス」の目標値では、再エネ比率は36〜38%となっています。
日本における再エネ導入の推移
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2022年、化石エネルギー(石炭や石油など)中心の産業構造・社会構造からCO2を排出しないクリーンエネルギー中心に転換する「GX実現へ向けた基本方針」がまとめられましたが、再エネについてもこの基本方針を踏まえ、最大限の導入を図るべく、さまざまな取り組みが進められています。取り組みのいくつかを見ていきましょう。
日本でもっとも導入が進んでいる再エネは太陽光です。しかし、平地の少ない日本では太陽光発電に適した場所はほとんどが開発済みとなっているため、さらなる拡大に向けては、あらゆる手段を講じていく必要があります。有望な設置場所としては、住宅・工場・倉庫といった建築物の屋根が考えられています。そこで、次のような推進施策がおこなわれています。
現在のFITおよび「FIP制度」(市場価格に連動して一定のプレミアムが上乗せされる制度)では、集合住宅の屋根への設置について一定の緩和要件を設けたり、屋根への導入に関わるFIT・FIPの入札を免除するなどして導入を促進しています。
また、省エネと太陽光発電などによる創エネとを組み合わせて使用エネルギーとバランスする「ZEH」(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~新しい省エネの家『ZEH』」参照)に対する導入費用の補助も実施。ほか、太陽光発電を導入した新築物件への住宅ローン減税、省エネリフォーム税制など、さまざまな補助で屋根への太陽光導入を推進しています。
「オフサイトPPA」とは、電気を使う需要家(企業など)が、自分の敷地から離れた場所(オフサイト)において発電した再エネ電気を、系統を通じて、小売電気事業者を介し、供給されるモデルのひとつです。こうしたオフサイトPPAなどの手法は、「UDA(User-Driven Alliance)モデル」のひとつです。UDAモデルとは、再エネを必要とする需要家が主導して、再エネ電源の開発をおこなうこと。需要家が長期の電力買い取りや出資などのかたちで発電事業にコミットすることで、需要家・発電事業者・小売電気事業者が一体となって再エネの導入を進めていくことができます。
UDAモデルの概要
需要家主導による再エネの導入促進は、今後拡大していくべき方策のひとつとされています。設備の導入を支援するしくみもあり、①FIT・FIP制度を通じた電力買い取りや「自己託送制度」(自社が発電した電気を、送配電事業者の送配電網を使って送電し、別の場所にある自社設備で使うこと)によるものではない、太陽光発電により発電した電気を特定の需要家に長期供給するものであるなどの一定要件を満たす場合には、補助を受けることができます。
次世代型太陽電池をできるだけ早く社会実装する取り組みもおこなわれています。次世代型太陽電池の代表は、軽量で柔軟な「ペロブスカイト太陽電池」ですが、これまで設置が困難だった場所にも設置が可能となります。また、主原料であるヨウ素は日本国内で潤沢に調達できるという特徴もあり、国は開発プロジェクトを立ち上げて研究を支援しています。諸外国との開発競争は激化していることから、今後も支援を拡充し、プロジェクト目標年度である2030年を待たずして社会実装を実現することが求められています。
ほかの再エネについても、支援がおこなわれています。たとえば、今後が期待される再エネのひとつである洋上風力発電については、海域を長期に渡って独占的に使用するための法整備などが2019年におこなわれ、日本各地で積極的に開発が進められています。2024年2月時点で、「促進区域」、「有望区域」などの指定・整理がなされている区域は、30ヶ所近くにおよび、事業者が決定している区域も8ヶ所あります。事業規模が大きい洋上風力は、経済波及効果も期待されています。
現在の各地域における区域の状況
この洋上風力についても、次世代技術の開発が進められています。特に、「浮体式洋上風力」は、設備を海底に固定する従来の方式に比べると、より深い水深でも設置できるというメリットがある反面、コストが高い、大量生産技術が未確立、といった課題があります。そこで、「グリーンイノベーション基金」を活用し、日本の強みが活かせる要素技術で、なおかつ台風や落雷などの気象条件・海象条件を持つアジア市場にも適合するような技術の開発を支援しています。洋上風力に関する政府の取り組みの詳細は、今後「エネこれ」記事でご紹介する予定です。このように、再エネの拡大策をとっていく一方で、安全、防災、景観など、地域の懸念が課題となってきた例もあります。こうした懸念に適切に対応し、地域と共生しながら再エネの導入拡大を進めていくためには、再エネの事業規律を強化して、土地の開発から再エネ発電の廃止・廃棄まで、事業段階に応じた制度を充実させていく必要があります。制度の充実や手続きの厳格化などを通じ、地域と共生した再エネの最大限導入を進めていきます。
日本の再エネ導入拡大策は、次世代技術の開発などを通じてアジア圏での再エネ導入拡大にも寄与し、世界の「再エネ3倍」目標に大きく貢献することが期待されます。今後も、取り組みをさらに拡充していきます。
省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
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