成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
※この記事は、2018年に公開した記事「なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み」を、最新データを基にアップデートしたものです。
CO2の排出量を減らし、環境に負荷をかけない社会をつくるさまざまな取り組みが、世界中で進められています。電力も例外ではありません。そうした中で、日本が石炭火力発電を使いつづけている意味とはなんでしょうか?今回は、石炭火力発電について、さまざまな質問にお答えします。
エネルギー源は、安全性、安定供給、経済効率、環境適合などのさまざまな側面を満たすことが求められます。しかし、すべての面で完璧なエネルギー源は存在していません。そこで、それらの面のバランスをとりながら、最適なエネルギーとその組み合わせを選んでいくことになります。石炭は、安定供給や経済性の面で優れたエネルギー源です。ほかの化石燃料(石油など)にくらべて採掘できる年数が長く、また、存在している地域も分散しているため、安定的な供給が望めます。
原油・一般炭(石炭)・LNGの燃料価格(CIF)の推移
一般炭(石炭)の価格はほかの燃料にくらべると安定的に推移していることがわかる(出典)日本エネルギー経済研究所
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日本では再生可能エネルギーの導入拡大が進んでいますが、発電量の変動性をコントロールすることが難しい状態にあります。そうした中で、安定供給が可能なエネルギー資源に乏しい日本としては、こうした特徴をもつ石炭を、一定程度活用していくことが必要となります。2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」でも、石炭は、化石燃料の中でもっともCO2排出量が大きいものの、調達にかかわる地政学リスクがもっとも低いこと、熱量当たりの単価も安いことに加えて保管も容易であることから、「現状において安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源」であると評価されています。その上で、石炭火力については、電源構成(電気をつくる方法の組み合わせ)における比率を、安定供給の確保を大前提として、低減させることとしています。
一方で石炭には、大気汚染物質や地球温暖化の原因とされるCO2を排出するという、環境面での課題があります。特に、単位あたりで見たCO2排出量はほかの化石燃料に比べても多いため、利用するためには色々と工夫をしていくことが必要となります。その工夫の一つとして、石炭火力発電の技術開発が進められています。石炭火力発電というと、皆さんのイメージの中には、もくもくと真っ黒な煙をあげるものというイメージがあるかもしれません。しかし、最近の石炭火力発電は、環境にかける負荷がずいぶんと減ってきています。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。
磯子発電所の昔と今の様子と、大気汚染物質の排出量の減少率
特に日本は世界でも最高効率の発電技術を持っています。発電効率が向上すれば、少量の燃料でたくさんの電気をつくることができるようになり、その分、火力発電から排出されるCO2排出量も削減されます。今後もさらなる技術開発をおこない、効率化とCO2排出量の削減を進める予定です。
2030年度のエネルギーミックスや、CO2削減目標を実現するために、経済産業省と環境省との合意にもとづいて、政府として、「電力事業者の自主的枠組みと支えるしくみ」を整えています。
まず、「エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」、通称「エネルギー供給構造高度化法(高度化法)」という法律があります。これによって、小売電気事業者には、2030年度に販売する電力量の44%を、「非化石電源」、つまり化石燃料ではない電源にすることが求められています。これは、裏を返せば、石炭やガスといった化石燃料を使っている火力発電の比率を、全体の56%以下にしなくてはならないということを意味しています。また、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)」によって、発電効率を向上させることも求められています。省エネ法では、安定供給を大前提に、非効率な石炭火力のフェードアウトを着実に実施するために、石炭火力発電設備を持っている発電事業者について、最新鋭の設備であり日本で商用化されている最高効率の石炭火力発電技術「USC(超々臨界圧)」並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標において求めることとしています。さらに、水素やアンモニアなど燃焼時にCO2を排出しない燃料については、発電効率を算定する時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進にもつなげていきます。
また、排出されるCO2を回収・貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」の技術的確立とコスト低減、適した場所の開発や事業化に向けた環境整備を進めることで脱炭素化を図ります。現在、稼働中の石炭火力発電所からCO2を分離・回収し、回収したCO2を効率的に船舶で輸送する実証試験をおこなっており、2026年度までの技術的な確立を目指しています。
CCSの概念図
加えて、電力事業者としても自主的な枠組みを設けており、電力業界は、2015年7月、「電気事業における低炭素社会実行計画(現「カーボンニュートラル行動計画」 )」をつくり、CO2排出を削減する自主的な取り組みを進めています。これらの法令と自主的な枠組みは、どれか1つだけで2030年度のエネルギーミックスやCO2削減目標を達成するものではありません。3つの取り組みが相互に作用しあい、「三位一体」となって機能することによって、これらの目標の達成につなげていくものなのです。
電力・ガス事業部 電力基盤整備課
長官官房 総務課 調査広報室
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