世界で高まりを見せる原子力利用への関心 COP28でも注目

COP28の期間中、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという宣言が出されたときの写真です。

エネルギー安全保障の確保やCO2排出削減の観点から、原子力エネルギーの活用に世界の注目が集まっています。2023年にUAEで開催された「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では、原子力の果たす役割が改めて注目され、その有効性が決定文書に明記されたほか、世界全体の原子力発電容量を増やしていこうという共同宣言も発表されました。今、世界で原子力発電をめぐってどのような動きがあるのか、ご紹介します。

主要国のうち、順調に目標に向かって排出削減が進展しているのは日英

2023年11~12月にUAEのドバイで開催されたCOP28では、パリ協定で掲げられた目標達成に向けて、世界全体の進捗状況を評価する最初の「グローバル・ストックテイク(GST)」がおこなわれ、決定文書が採択されました(「気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した『COP28』の結果は」参照)。

下のグラフで分かる通り、日本では、コロナ禍からの経済回復によってCO2排出量は2020年度からやや増加したものの、2019年度からは3.4%減少しており、2030年度目標の達成および2050年カーボンニュートラル実現に向けて、順調に取り組みが進んでいます。

日本の2030年度目標および2050年カーボンニュートラルに対する進捗
カーボンニュートラルに向けた日本の進捗状況について、2013年度から2030年度および2050年度までのCO2排出量をグラフで示しています。

(出典)環境省地球環境部会会議資料(2023年6月26日開催)より抜粋

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また、G7各国において同様に比較的順調な進捗が見られるのは英国です。

主要国の2030年目標および2050年カーボンニュートラルに対する進捗
カーボンニュートラルに向けた主要国(英国、カナダ、米国、フランス)の進捗状況について、2030年および2050年までのCO2排出量をグラフで示しています。

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カーボンニュートラルに向けた主要国(ドイツ、イタリア、EU)の進捗状況について、2030年および2050年までのCO2排出量をグラフで示しています。

(出典)環境省地球環境部会会議資料(2023年6月26日開催)より抜粋

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COP28の合意文書に原子力利用が初めて記載

こうした各国の排出削減状況や、全世界的に見た進捗の遅れに関する議論を踏まえ、あらためて、再生可能エネルギー(再エネ)や原子力の活用の有効性についてスポットが当たることとなり、COP28の決定文書に原子力利用が明記されました。世界原子力協会(WNA)によれば、COPの合意文書において、原子力が気候変動に対する解決策の一つとして正式に明記されたのは今回が初めてのことです。

「グローバル・ストックテイク」における原子力の記載(抄訳)
28. さらに、1.5℃の道筋に沿った温室効果ガス排出量の深く、迅速かつ持続的な削減の必要性を認識し、締約国に対し、パリ協定と各国の状況、道筋、アプローチを考慮に入れ、国毎に決定された方法で、以下の世界的な取組に貢献するよう求める:
(中略)
(e) 特に、再生可能エネルギー、原子力、特に排出削減が困難なセクターにおけるCCUS等の排出削減・除去技術、低炭素水素製造を含む、ゼロ・低排出技術の加速

さらに、COP28期間中の2023年12月2日には、日本を含む22カ国による「2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」との野心的な目標に向けた協力方針を掲げた共同宣言も発表されました。その後さらに3カ国が参加し、賛同国は2024年1月時点で25カ国となっています。

共同宣言に賛同した25カ国
UAE、米国、フランス、日本、英国、カナダ、韓国、フィンランド、スウェーデン、ベルギー、ルーマニア、ポーランド、ブルガリア、チェコ、ウクライナ、スロベニア、スロバキア、ガーナ、カザフスタン、モロッコ、モルドバ、オランダ、アルメニア、ジャマイカ、クロアチア
(参考)原子力3倍宣言(抄訳)
今世紀半ば頃までに世界全体で温室効果ガス排出のネット・ゼロ/カーボンニュートラルを達成し、気温上昇を1.5℃に抑えることを射程に入れ、持続可能な開発目標(SDGs7を達成するにあたっての、原子力の重要な役割を認識し、……

気候変動に関する政府間パネルIPCCの分析によれば、平均1.5シナリオでは、2020年から2050年にかけて、世界の原子力発電設備容量が約3倍に増加することを認識し、…

各参加国の異なる国内事情を認識しつつ、2050年までに2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にするという野心的目標に向けた協働にコミットする。(以下略)

ただし、この共同宣言には法的な拘束力はありません。また、「各参加国の異なる国内事情を認識しつつ」と書かれていることからも分かるように、賛同国それぞれが国内で原子力発電容量を3倍にするというのではなく、あくまで世界全体で3倍にするという目標に向けて協働する意思を示したものです。

それでは、なぜ、今このように原子力エネルギーに注目が集まっているのでしょうか。その答えとして、まずは、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて重要な役割を担う脱炭素エネルギー源の一つとして認識されていることが挙げられます。また、ロシアによるウクライナ侵攻以来、緊迫するエネルギー情勢の中で、原子力はエネルギー安全保障の確保の観点からも有用であるという認識が高まっているのです。

2024年初頭における、世界の原子力利用の動向は?

具体的に、世界の国々において、原子力の利用を広げていく動きがあるかどうか、見ていきましょう。2024年1月現在、世界で最も多い93基の発電用原子炉が稼働している米国では、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる新たな型式の原子炉の開発が進んでいます。

英国でも現在9基が稼働しており、2030年までに最大8基の新設計画を決定すべく取り組んでいます。電源(電気をつくる方法)の原子力比率が62.6%と高いフランスは、現在56基が稼働していますが、2050年までに6基、さらに可能であれば8基追加での新設を検討しています。このように、すでに原子力を活用している国々で、さらに原子力発電所を増加させる動きが見られます。

これまで脱原発を目指していた国ではどうでしょうか。2023年3月に国内の全ての原子力発電所での発電を終了したドイツのような例もある一方で、方針を転換する動きもあります。イタリアは1990年に国内すべての原発を閉鎖し、脱原発の方針を明らかにしましたが、2023年9月に、原子力エネルギー利用の再開を可能にし、国内の原子力産業を成長させるための政策方針を定めるべく、新たな検討プラットフォームを立ち上げました。

イタリアで、原子力エネルギー利用の再開を可能にするために新たに立ち上げたプラットフォームにおける初会合の写真です。

「持続可能な原子力のための国家プラットフォーム」初会合の様子
(出典)イタリア環境・エネルギー安全保障省プレスリリース

また、スウェーデンでは、もともと「既設炉があるサイト以外での新設を禁止」「運転中の原子炉の数を最大10基に制限」などが法律で定められていましたが、この文言を撤廃し、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分の原子力発電所を建設し、さらに2045年までに大型原子炉10基分の設備を追加することを想定しています。

これまでの方針を転換し、新たに原子力発電所を建設することを想定したスウェーデン政府の記者会見の写真です。

スウェーデン政府記者会見
(出典)スウェーデン政府発表資料

このような新たな発電所の建設のみならず、既存の発電所を有効に活用する観点から、発電所の運転期間を延長する動きも見られます。たとえばベルギーでは、2025年までに国内の全ての原子力発電所を停止する予定でしたが、その後方針を転換し、2023年12月、2基の原子炉について運転期間を10年延長することを決定しています。

さらに、これまで原子力を利用していなかった国でも、利用する機運が高まっています。2023年12月に開かれた「AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)首脳会合」では、様々な選択肢の一つとして、原子力発電にもスポットが当たりました。AZECとは、アジアの国々が、多様な道筋を通じカーボンニュートラルという共通のゴールを目指し協力するプラットフォームです。これまで原子力発電を利用したことのない国が多く集まる中で採択された共同声明において、脱炭素化の手法の一つとして原子力が挙げられたのです。

2023年12月に開催されたAZEC首脳会合に臨む岸田総理大臣の写真です。

AZEC首脳会合に臨む岸田総理大臣
(出典)内閣広報室

日本の方針は?

日本では、2023年2月に閣議決定された「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針」において、東京電力福島第一原子力発電所事故の反省と教訓を一時たりとも忘れることなく、安全性を大前提にエネルギー基本計画を踏まえて原子力を活用していくことが表明されています。また、国際連携を通じた研究開発推進、強靱なサプライチェーン構築、原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組むこととされています。

さらに、日本は、原子力の利用を拡大したいと望む国々に対して、これまで国内における原子力発電所の建設・運転を通じて蓄積してきた経験を活かし、支援していく役割を期待されています。具体的には、そうした国々における、原子力の利用に必要となる技術や人材の基盤構築支援や、原子力発電所の建設への機器納入などのサプライチェーン協力をおこなっていきます。こうした活動は、世界のエネルギー問題の解決に貢献するのみならず、日本国内の製造・研究開発基盤の維持・発展にもつながるものと考えています。

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