日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み

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排出されたCO2を集めて地中に貯留する「CCS」技術は、CO2を削減する方法として以前から注目されてきました(「知っておきたいエネルギーの基礎用語〜CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)。日本でも技術研究や実証試験などがおこなわれ、いよいよ事業化への歩みが進められつつあります。そんな中、2024年5月に成立した「CCS事業法」は、CCSを事業として運営するための重要な法律です。今回はCCS事業化に向けた国内外の動きを解説します。

事業化に向けて動き出したCCS

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の活用は、2023年12月に公表されたCOP28合意文書でも、脱炭素化の方策として明記されています。日本では、2021年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の中で、2050年カーボンニュートラル実現のための具体的な方策のひとつにCCSがあげられています。

CO2を集めて地中に貯留するというCCSを事業化するには、技術の確立や、コスト低減、ビジネスモデルの構築などの経済面だけでなく、貯留に適した場所の選定、事業に対する一般社会の理解など、社会的な環境整備が欠かせません。そのため、CCSの事業化に向けては、2023年5月に公表した長期ロードマップを踏まえて、さまざまな取り組みをおこなっていくこととしています。

2024年2月に閣議決定し、5月に成立した「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」は、こうしたCCSの事業化へ向けた取り組みのひとつです。電力やガスなどのエネルギー関連事業では、電気事業法やガス事業法などで運営の適正化を図っていますが、CCS事業法もCCSを安全・適正に運営していくための規制法です。法律の成立によって、いよいよCCSも事業化へ向けて動き出すことになります。

世界ではCCS活用が先駆けて進んでいる

海外でも、2000年代後半からCCSの事業化に向けた取り組みが進んでいます。イギリスは2008年、EUは2009年、アメリカは2009年頃 に事業法が整備され、貯留層を利用する権利や事業者の責任範囲などが定められました。また、2020年前後になると、カーボンニュートラル実現のためにCCSを活用しようという機運がさらに高まり、CCSの採算性確保のため、各国で支援制度の構築も進んできました。

鉄、セメント、化学、石油精製などのコンビナートや発電所では、省エネや電化、水素化だけではCO2排出削減が難しいことがあります。こうした分野でも、CCSを活用すればCO2の排出を抑制できるため、世界ではカーボンニュートラル実現と産業立地の両立に欠かせない技術と考えられています。最近では欧米だけでなく、アジアでもCCSを導入する動きが見られます。

世界各国のCCSに向けた動向
英国、米国、EU・欧州、カナダ・豪州、ASEAN・アジアのCCSに向けた動向についてそれぞれ説明しています。

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世界で稼働中・計画中のCO2の回収量は、2023年で約3.5億トンになり、これは2017年時点の約7倍にのぼります。今後も世界各国でCCSに関する法制度や政府支援が整備され、CO2の回収量は増えていくと予想されます。

世界各国の取り組み状況
米国、EU、英国、カナダの事業法が整備された年、支援制度、分離回収量または貯留量について表の形式でまとめています。

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世界で稼働中・計画中のCO2回収量
2017年から2023年までの、世界で稼働中・計画中のCO2回収量を棒グラフでまとめています。2023年には、2017年の約7倍となる約3.5億トンになった旨も記載されています。

(出典)Global CCS Institute GLOBAL STATUS OF CCS 2023

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日本で始まった先進的CCS事業の支援

CCS事業は、CO2の分離・回収、輸送、貯留の各プロセスで構成され、それぞれに多様な事業者の参入が期待されています。また、2023年3月に策定された「CCS長期ロードマップ」では、2030年までの事業開始を目標とし、同年までに年間貯留量600〜1200万トンの確保に目途をつけることを目指しています。

CCS事業全体のバリューチェーン (火力発電から出てくるCO2を分離回収し、船で貯留地まで運ぶ場合)
CO2排出・分離改修・液化貯蔵・輸送・貯留までのCCS事業全体のバリューチェーンについて、図とともに説明しています。

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これまで北海道・苫小牧でCCS実証試験がおこなわれてきましたが、ビジネスモデルとして確立するためには、より多様なCCS事業のモデルが必要です。

そのため、横展開可能なビジネスモデルを確立するために模範となる先進性のあるプロジェクトに対し、CO2の分離・回収から輸送、貯留までのバリューチェーン全体を一体的に支援する「先進的CCS事業」として9件を採択し、重点的な支援をおこなっています。

先進的CCS事業として採択された9案件
先進的CCS事業として採択された9案件について、日本地図上に想定排出/貯留エリアを示しながら、携わる事業者のロゴとともに紹介しています。

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採択にあたっては、CO2の回収源、輸送方法、CO2貯留地域の組み合わせに、可能な限りバリエーションを持たせるようにしています。CO2の主要な発生源は火力発電所だけでなく、製鉄所や化学工場、セメント工場などからも発生しますので、こうした事業分野を広く対象としています。

想定されるCO2の回収源、輸送方法、CO2貯留地域のパターン
想定されるCO2の回収源・輸送方法・CO2貯留地域を縦割りの表で説明しています。

さらに輸送方法や貯留地域などの組み合わせを変えることで、プロジェクトの課題や可能性を効率的に見つけることができます。これにより、CCSビジネスモデルの早期確立にもつながっていくと考えられます。

前編となる今回は、CCS事業化についての海外動向とビジネスモデルの確立を中心に見てきました。後編では、2024年5月に成立したCCS事業法の内容について、詳しく解説していきます。

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