日本でも事業化へ動き出した「CCS」技術(後編)〜「CCS事業法」とは?

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(出典)日本CCS調査株式会社資料より引用、一部改変

CCSの事業化について、「日本でも事業化へ動き出した『CCS』技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み」では海外での動向と日本で始まった先進的CCS事業の支援などについて解説しました。後編では、2024年5月に成立した「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」について詳しく解説しましょう。法律は事業を円滑におこなうために欠かせないものです。CCS事業法も、CCSの安全・適正な運用を目指して制定されました。どのようなことが取り決められたのでしょうか?

CCS事業法が整備された背景とは?

「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた方策のひとつとして位置づけられている、CCSの事業化。事業として成立させるためには、その有用性が一般社会で認知され、社会に必要な事業として受け入れられていくことが不可欠です。そのためには、産業振興や支援といった促進のための政策をおこなうだけなく、権利や責任を明確にして運用の適正化を図っていく必要があります。

しかし、これまでCCSについてはこうした措置を含む包括的なルールが存在しませんでした。そのため、今回、CCSの事業環境を整備するために制定されたのが「CCS事業法」です。CCS事業法では、CO2貯留事業を「許可制」、CO2導管輸送事業を「届出制」としています。事業や保安に関する規制を設けることで、CCS事業を安全・適正に運用するための規律を確保しているのです。

CCS事業法とは、どんな法律なのか?

それでは、「CCS事業法」の具体的な内容を見ていきましょう。

「CCS事業法」は、「試掘・貯留」時と「輸送」時に安全・適正に運用するための規制に大きく分かれています。

①「試掘・貯留」時の安全・適正管理

貯留層が存在する可能性がある地域を「特定区域」に指定したうえで、特定区域で試掘やCO2の貯留をおこなう者を募集し、もっとも適切におこなうことができると認められる者に、経済産業大臣が事業を許可(試掘権・貯留権の設定)します。

また、海域における特定区域の指定や貯留事業の許可には環境大臣の同意が必要となります。これまで、海底下のCCS事業は「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」で管理されてきましたが、今後は陸域・海域ともに、新しく成立したCCS事業法で管理されていくことになります。

操業中は、貯留したCO2の漏えいの有無などを確認するため、貯留層の温度や圧力などのモニタリングを義務づけています。また、CO2の注入を停止した後におこなうモニタリング業務などに必要な資金を確保するため、引当金の積み立てなどの資金確保も義務づけています。

貯留事業に関するフロー
貯留事業に関するフローについて、操業前・操業中・CO2の注入停止後・移管後のフローに沿って説明しています。

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CO2の挙動が安定しているなどの要件を満たした場合には、モニタリングなどの管理業務を独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)に移管することができます。貯留事業者には、移管後のJOGMECの管理業務に必要な資金を確保するため、拠出金の納付も義務づけられています。

また、事業者には、安全確保のために技術基準への適合や工事計画の届出、保安規程の策定などを求めています。そのほか、事業の公平性のために、正当な理由なくCO2排出者からの貯留依頼を拒むことや、特定のCO2排出者を差別的に扱うことを禁じ、料金などの届出義務も課しています。

②「輸送時」の安全・適正管理

CO2を貯留することを目的に、CO2を導管で輸送する者は、経済産業大臣に届け出なければなりません。また試掘・貯留事業と同じく、事業者には技術基準への適合や保安規程の策定などを定めているほか、正当な理由なくCO2排出者からの輸送依頼を拒むことや、特定のCO2排出者を差別的に扱うことを禁じ、料金などの届出義務も課しています。

液化CO2船舶輸送の実証事業なども

CCSの事業化を見据えると、将来的にはより大容量、そして長距離輸送が必要になると見込まれます。導管による輸送のほかに、CO2の排出源から貯留に適した場所まで、大容量のCO2を長距離輸送できる方法としては、CO2を液化して船舶で運ぶ方法が考えられるものの、現状、大容量の液化CO2を輸送できる船舶輸送技術は確立していません。

輸送技術の課題を解決し、CO2の効率的な輸送を実証するために、「液化CO2船舶輸送実証事業」が2021年度から開始されました。2024年10月からは、液化CO2実証船による苫小牧〜舞鶴間(約1000km)の⻑距離輸送実験を開始し、2026年度までに低温・低圧での安定した液化CO2輸送技術の確立を目指します。液化CO2船舶輸送の安定的な運用が確立できれば、世界初の技術となります。

液化CO2船「えくすくぅる」
液化CO2船「えくすくぅる」の船の画像です。

(出典)NEDO(国⽴研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)/山友汽船株式会社

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CCS事業法は、CO2の安定的な貯留やCCS事業の適正な運営を確保することを目的に制定された法律です。今後は法律の内容に則して事業環境を整備しながら、2030年までの本格的なCCS事業開始を目指していくことになります。

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