大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?「エネルギー基本計画」最新版を読みとく(後編)

イメージ画像

世界ではさまざまな出来事が起こっており、エネルギーを取り巻く情勢も刻一刻と変化しています。そうした中で、日本のエネルギー政策はどのようにデザインされるべきなのでしょうか?そんなエネルギー政策の基本的な方向性が記されているのが、「エネルギー基本計画」です。2025年2月18日、最新版となる「第7次エネルギー基本計画」が発表されました。前編では、日本が直面しているエネルギーの問題と、それに対して示された政策の方向性をご紹介しました。後編では、エネルギー関連の個別の分野について示された方針をご紹介します。

「第7次エネルギー基本計画」で変更された政策は?継続する政策は?

「大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?「エネルギー基本計画」最新版を読みとく(前編)」では、「第7次エネルギー基本計画」の大きな方向性をご紹介しました。

それらの方向性をふまえたうえで、個別の分野について示された方針を見ていきましょう。

省エネ・非化石転換:省エネの重要性は変わらず、非化石燃料への転換もさらに重要に

「エネルギー危機にも耐えうる需要構造への転換を進める」ためには、あらためて、徹底した省エネルギー(省エネ)が重要であり、その重要性は変わりません。

半導体の省エネ性能の向上、「光電融合」など省エネに役立つ最先端技術の開発・活用、これによるデータセンターの効率改善を進めるとともに、工場や住宅での省エネ化も求められます。

データセンターや半導体の省エネ技術
データセンターや半導体の省エネ技術の例として、「光電融合」「液浸冷却」を図を用いて紹介しているほか、省エネ型半導体の開発例として微細化、高密度化をイラストを用いて説明しています。

(出典)令和6年7月2日GX2040リーダーズ・パネル 川添雄彦氏資料および各社HP情報などを元に資源エネルギー庁作成

加えて、今後2050年に向けて「脱炭素化」を進めていく上では、「電化」(動力源や熱源などを電気にすること)や、「非化石転換」(CO2を排出する石油や石炭などの「化石燃料」からエネルギー源を変えること)がこれまで以上に重要となります。

電化が可能な分野では、電源(電気をつくる方法)の脱炭素化と電化を推進していくことが求められます。あわせて、2050年カーボンニュートラル実現に向けては、電化が困難であるなど、脱炭素化が難しい分野においても脱炭素化を推進していくことが求められるため、CO2排出量の少ない天然ガスなどへの燃料転換に加え、脱炭素エネルギーである水素等や、分離・回収したCO2を地中貯留・有効利用する「CCUS」(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)などを活用した対策も進めていく方針です。

脱炭素電源:「再エネか原子力か」ではなく、脱炭素電源の最大限活用

「大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?「エネルギー基本計画」最新版を読みとく(前編)」でご紹介したように、DXやGXが進む中で、電力需要の増加が見込まれています。

また、データセンター、半導体などの産業には、国際的に引けを取らない価格で、かつ安定的な脱炭素電源の確保が不可欠です。

データセンターや半導体、鉄鋼、モビリティなどで安定的に供給される脱炭素電源に対するニーズの増加を図で示しています

こうした中で、それに見合った「脱炭素電源」の確保ができなかったがために、国内でデータセンターや半導体工場などの投資機会が失われ、日本の経済成長や産業競争力の強化の機会が失われることは、けっしてあってはなりません。これらの状況をかんがみて、第7次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギー(再エネ)」か「原子力」かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力を共に最大限活用していくことの重要性が示されています。

電力需要の増加に対応するため、脱炭素電源への投資がさらに必要
2022年と比較し、2050年は脱炭素電源への投資がさらに必要であることをグラフで示しています

さらに、脱炭素電源の供給力を強化するには、脱炭素電源への投資を回収できる「予見性」を高め、事業者の新規投資を促進する事業環境の整備や、電源や系統の整備といった大規模・長期の投資に必要な資金を安定的に確保していくためのファイナンス環境の整備に取り組むことが記載されています。

再エネ:主力電源化&最大限の導入

再生可能エネルギーについては、「主力電源化」を徹底し、関係省庁が連携して施策を強化することで、地域との共生と国民負担の抑制を図りながら「最大限の導入」をうながしていく方針です。

国産再生可能エネルギーの普及拡大を図り、「技術自給率」の向上を図ることは、脱炭素化に加え、日本の産業競争力強化にもつながります。

一方、再エネが現在直面している主な課題として、再エネが立地する地域との共生や、「再エネ賦課金」という国民負担の抑制、イノベーションの加速などがあげられます。これらの課題に対しては、「エネこれ」でご紹介してきたような、規律の強化や、「FIP制度」や入札制度の活用、「ペロブスカイト太陽電池」や「浮体式洋上風力」の導入、「次世代型地熱」の社会実装加速化などの対応を進めていくことが示されています。

原子力:脱炭素電源のひとつとして、再エネとともに最大限活用

原子力についても、DXやGXが進むことにより、電力需要増加が見込まれる中、再生可能エネルギーとともに最大限活用していく方針です。

安全性の確保を大前提に、再稼働の加速に向け官民を挙げて取り組むとともに、次世代革新炉の開発・設置については、廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での建て替えを対象として、バックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていくと示されています。

また、次世代革新炉について研究開発を進めていくことも掲げられています。

火力:安定供給に必要な発電容量を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量減

火力発電については、「温室効果ガスを排出する」という課題もありますが、電力の安定供給を支える「供給力」や、再エネの変動性を補う「調整力」などとして重要な役割を担っており、火力全体で安定供給に必要な発電容量(発電できる能力)を維持・確保しつつ、非効率な石炭火力を中心に発電量を減らしていく方針です。

具体的には、現実的な転換(トランジション)の手段としての液化天然ガス(LNG)火力の確保、水素・アンモニア、CCUSなどを活用した火力の脱炭素化を進めるとともに、予備電源制度などについて不断の検討をおこなうことが記載されています。

次世代エネルギー/化石資源:今を支える資源と次世代エネルギーの確保と体制づくり

水素等(アンモニア、合成メタン、合成燃料を含む)は、幅広い分野での活用が期待される、カーボンニュートラル実現に向けた鍵となるエネルギーです。

世界各国では、技術開発支援だけでなく、資源や適地の獲得に向けた製造支援や設備投資への支援も起こり始めています。日本でも、技術開発により競争力を磨くとともに、世界の市場拡大を見すえて先行的な企業の設備投資をうながしていく方針です。

水素も技術開発だけでなくサプライチェーン体制の整備が必要
水素が発電・輸送・産業・民生・業務部門などに活用されるまでのサプライチェーンを図で示しています

また、バイオ燃料についても導入を推進していくとしています。

一方で、日本のエネルギー供給の多くを今現在になっているのは化石燃料です。こうしたエネルギー事情をふまえ、安定供給を確保しながら、トランジションを進めていく方針です。資源外交、国内外の資源開発、供給減の多角化といった取り組みをしっかりおこなっていくと同時に、LNGを活用していくため、官民一体で長期契約を確保していくことが示されています。


***
このほか、「第7次エネルギー基本計画」では、「CO2の回収・有効利用・貯留」や「重要鉱物」の項目、「エネルギーシステム改革」など様々な項目がたてられています。

2040年のエネルギーはどうなる?CO2削減は?自給率は?

では、これらの方針のもとで、将来の日本のエネルギーはどのような状況になるのでしょうか?最後に、2040年度におけるエネルギー需給の見通し「エネルギーミックス」の最新版をご紹介しましょう。

2023年度(速報値)のエネルギー自給率は15.2%で、まだまだ低い値です。再エネは22.9%、原子力は再稼働により8.5%となっています。しかし、火力がまだ68.6%を占めており、脱炭素に向けて削減が必要です(いずれも暫定値、今後変動の可能性あり)。

2040年度のエネルギーミックスについては、2040年度温室効果ガス73%削減(2013年度比)、2050年カーボンニュートラル実現といった野心的な目標に向けて策定されたものです。

2040年度の見通しでは、発電電力量が1.1~1.2兆kWh程度と大幅に増えることが想定される中、エネルギー自給率は3~4割程度となっています。電源構成は、再エネが4~5割程度、原子力が2割程度、火力が3~4割程度です。

2040年度におけるエネルギー需給の見通し
2030年(速報値)と2040年(見通し)のエネルギー需給を比較した表です

政府は、まずは、2030年度のエネルギーミックス実現に向けて、徹底した省エネ、再エネの最大限導入、安全性が確認された原子力発電の再稼働などあらゆる選択肢を活用しながら、現実的な取り組みをていねいに進め、2030年に向けてベストをつくしていく方針です。

その上で、2040年度に向けては、さらなる技術革新も不可欠です。けっして簡単に到達できる水準ではありませんが、「S+3E」(安全性:Safety、エネルギー安定供給:Energy Security、経済効率性:Economic Efficiency、環境適合性:Environment)のバランスを取りつつ、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力の導入、次世代革新炉の開発・設置、水素・アンモニア・CCUSの導入などの取り組みを進めていくとしています。

さらに、省エネ、再エネ、水素・アンモニアなど、日本の強みである技術を活かし、化石燃料への依存度が高いアジアにおける「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の取組を含め、世界の脱炭素化にも貢献していくことが示されています(「アジアの脱炭素化を促進!『AZEC構想』(前編)日本はなぜ、アジアと協力するの?」参照)。

エネルギーにはさまざまな要素が複雑にからみあっており、多様な問題に同時に対処する政策が必要となります。エネルギー基本計画を読み解くことで、日本のエネルギーの全体像をつかみ、考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

お問合せ先

記事内容について

長官官房 戦略企画室

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。