エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは

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2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2020年末に策定された「グリーン成長戦略」(「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」参照)のもと、あらゆる分野・産業でさまざまなチャレンジがおこなわれています。グリーン成長戦略については、2021年6月よりさらなる具体化がおこなわれているところですが(「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました」参照)、そのひとつに位置づけられるのが「合成燃料」の開発です。合成燃料とはどんなものか、どのような分野での活用が期待できるのか、研究が進む合成燃料について解説します。

CO2とH2から製造される「合成燃料」

合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料です。複数の炭化水素化合物の集合体で、 “人工的な原油”とも言われています。

原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたCO2を利用します。将来的には、大気中のCO2を直接分離・回収する「DAC技術」を使って、直接回収されたCO2を再利用することが想定されています。CO2を資源として利用する「カーボンリサイクル」(「未来ではCO2が役に立つ?!『カーボンリサイクル』でCO2を資源に」参照)に貢献することになるため、「脱炭素燃料」とみなすことができると考えられています。

もうひとつの原料である水素は、製造過程でCO2が排出されることがない再生可能エネルギー(再エネ)などでつくった電力エネルギーを使って、水から水素をつくる「水電解」をおこなうことで調達する方法が基本となります。現在主要な水素製造方法は、石油や石炭などの化石燃料から水蒸気を使って水素を製造する方法ですが、この方法と組み合わせると、①化石燃料から水素をつくる ②その製造過程で発生したCO2を分離・貯留する ③その後別の回収したCO2と合成する…ということとなり、非効率な製造プロセスになるためです。

なお、再エネ由来の水素を用いた合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれています。

こうして製造された合成燃料は、原油にくらべて硫黄分や重金属分が少ないという特徴があり、燃焼時にもクリーンな燃料となります。

合成燃料におけるCO2の再利用のイメージ
合成燃料を製造、使用することによるCO2再利用のサイクルを図であらわしています。

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既存設備が活用できるという大きなメリット

液体の合成燃料には、化石燃料を由来とするガソリンや軽油などの液体燃料と同じく「エネルギー密度が高い」という特徴があります。つまり、少ないエネルギー資源量でも多くのエネルギーに変換することができるということです。これにはどんなメリットがあるのでしょうか?

いま、乗用車は電動化や水素化が進んでいますが、動力源を電気・水素エネルギーに転換させることがむずかしいモビリティや製品もあります。それは、現在使用されているガソリンなどの液体燃料と電気・水素エネルギーでは、エネルギー密度に大きな差があるためです。

たとえば大型車やジェット機の場合、電動化・水素化すると、液体燃料と同じ距離を移動するには液体燃料よりも大きな容量の電池や水素エネルギーが必要となってしまいます。こうしたモビリティや製品があるかぎり、液体燃料は存在しつづけると考えられています。

エネルギー密度の比較
電池、ガス燃料、液体燃料のエネルギー密度をグラフで比較しています。

(出典)トヨタ自動車

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このようなケースで、化石燃料由来の液体燃料を液体合成燃料に置き換えることができれば、エネルギー密度をキープしつつCO2の排出量をおさえることができます。

また合成燃料の大きな特徴として、従来の「内燃機関」(たとえばガソリンを使うためのエンジンなど)や、すでに存在している燃料インフラを活用できる点があります。水素エネルギーなどのほかの燃料では新たな機器やインフラを整備しなければならないのにくらべて、導入コストをおさえることができ、市場への導入がよりスムーズになると考えられます。

これまでの化石燃料と変わらない使い勝手の合成燃料は、エネルギーのレジリエンス(強靭性)やセキュリティの面でもメリットがあります。積雪により停電が発生した地域への燃料配送、高速道路で立ち往生した自動車への給油もでき、災害対応機能を持った全国のサービスステーションなどでは既存のタンクを活用した備蓄も可能です。また、国内で工業的に大量生産できること、常温常圧で液体であるため長期備蓄が可能であることなど、さまざまな優位性があります。

さまざまな分野での合成燃料の活用方法

①自動車
「グリーン成長戦略」では、自動車の電動化を推し進め、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指すことになっています。けれども電動車の普及には、新たな車両や蓄電池の開発、電動車に対応したインフラの整備など、さまざまな課題があります。

2017年に発表された国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、世界的な電動化の流れの中でもエンジン車との共存は続くと見込まれています。2030年時点でガソリン車やハイブリッド車などのエンジン搭載車は91%残っており、2040年時点においても乗用車販売の84%をエンジン搭載車が占めると予想されています。カーボンニュートラルを実現するためには、これらのエンジン搭載車に供給する脱炭素燃料が重要となります。

IEAが示した「技術普及シナリオ」によると、2050年になってもガソリン車が一定程度残ることを表した図です

(出典)IEA 「ETP(Energy Technology Perspectives) 2017」に基づき経済産業省作成

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そのための選択肢として、バイオ燃料と並んで注目を集めているのが合成燃料です。特に、電動化のハードルが高い商用車などについては、合成燃料を代替燃料として利用することで脱炭素化をはかることができると考えられます。今後は合成燃料の開発にくわえて、内燃機関の技術開発や、現在のガソリン・軽油に代わる合成燃料の国際規格についても検討していく必要があります。

②航空機・船舶
航空機・船舶の分野では、国際機関の要請によりCO2の削減目標が定められています。そのため、航空機についてはバイオジェット燃料・合成燃料、船舶については水素・アンモニアなどの代替燃料の技術開発が進められています。

航空機では国際民間航空機関(ICAO)が、2021年以降の国際航空に関してCO2排出量を増加させないという目標を採択しているため、その達成に向けてバイオジェット燃料に加えて合成燃料の活用が期待されています。すでにバイオジェット燃料は商用化されていますが、今後はその原料が不足することも懸念されています。一方、合成燃料はCO2と水素から工業的に大量生産でき、持続可能な航空燃料となる可能性があります。

③石油精製業など
既存の燃料インフラや内燃機関の活用が可能な合成燃料は、導入コストをおさえられるなど産業界にとっても大きなメリットがあります。特に石油精製業では、国内の石油需要の減少で設備能力の削減が求められる一方、余剰となったタンク、土地、人材などの資源をどうするかという課題があります。合成燃料を導入すれば、既存インフラを活用しながら新規事業に取り組むことができます。

④そのほか
灯油・LPガス・都市ガスを利用した暖房器具は、エアコンとくらべてすぐに暖まる、外気温に影響されにくいなどの特徴があり、とりわけ寒冷地域では引き続き需要が残る可能性があります。こうした場合にも、灯油などの代替燃料として合成燃料を利用できます。また、産業用ボイラーの燃料としての活用も考えられます。

合成燃料の残る課題とこれから

現在、合成燃料がかかえている課題のひとつは、製造技術の確立です。今の製造技術には製造効率の問題があり、効率の向上が課題となっています。革新的な製造技術としてさまざまな方法が研究開発の段階にあり、今後の実用化が期待されています。

合成燃料のもうひとつの課題はコストです。現状では化石燃料よりも製造コストが高く、国内の水素製造コストや輸送コストを考えると、海外で製造するケースがもっともコストをおさえることができると見込まれています。しかし、合成燃料のコストは、「脱炭素燃料である」という環境価値をふまえて考えるべきものです。既存の燃料と単純な比較をおこなうことは適切ではなく、将来性のある代替燃料として研究開発を続ける必要があります。

合成燃料の技術開発・実証は欧米を中心に急速に広がっており、石油会社・自動車メーカー・ベンチャー企業などによるプロジェクトが数多くたちあがっています。日本国内でも積極的な姿勢が重要となっています。サイエンスの観点からの技術開発にくわえ、エンジニアリングの観点から商用化のための高効率で大規模な製造技術・体制の確立を両輪として、産学官で技術開発に取り組んでいく必要があります。

今後10年間で集中的に技術開発・実証をおこない、2030年までに高効率かつ大規模な製造技術を確立、2030年代に導入拡大・コスト低減をおこなって、2040年までに自立的な商用化を目指すという計画が立てられています。

脱炭素燃料としての国際的評価の確立、海外で合成燃料が製造された際のCO2削減分の捉え方など、制度面でも議論が必要です。課題がまだ残る合成燃料ですが、環境価値だけでなく、国内での大量生産や長期備蓄が可能なことからエネルギーセキュリティの向上にも役立ちます。今後の研究開発の進展が期待されます。

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