今こそ知りたい!日本のエネルギー事情―「エネルギー白書2022」
経済産業省は、エネルギーの需給に関しておこなった施策について、国会に年次報告(「エネルギー白書」)を提出しています。エネルギーをめぐる国内外の状況をはじめ、これを踏まえた日本の取り組みや政策の方針、今後の方向性などがまとめられ、エネルギーの「今」の状況について知るための欠かせない資料です。2022年6月7日に公開された最新の「エネルギー白書2022」から、その読みどころをお伝えしましょう。
2022年、日本のエネルギー政策は?
エネルギー白書は、その年のエネルギーをめぐる状況と主な対策をまとめたものです。①その年の動向を踏まえた分析、②国内外のエネルギーデータ集、③施策集の3部構成になっており、①の内容にその年次の特徴が表れています。
その①の内容を見てみると、前回の「エネルギー白書2021」では、福島の復興の進捗に向けた取り組みをはじめ、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた課題と取り組み、また資源の確保や気候変動への対応、激甚化する自然災害など、エネルギーセキュリティの変容について取り上げました。(「日本のエネルギー政策のトレンドがわかる!『エネルギー白書2021』」参照)。
最新の「エネルギー白書2022」では、例年取り上げている福島復興の進捗に加えて、前年に引き続き、カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応がテーマとなっています。さらに新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナ侵略など、世界の情勢によって不確実性が高まっているエネルギー問題について、分析し対応を示したものとなっています。
「エネルギー白書2022」の読みどころ
それでは、「エネルギー白書2022」の主なトピックについて見ていきましょう。
① 福島復興の進捗
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から、11年がたちました。この原子力発電所の廃炉を進めることと、福島の復興は、経済産業省の最重要課題です。その解決に向けた取り組みを着々と進めています。
まず、廃炉について見ると、汚染水発生量がこれまでの対策の結果、対策実施前の約4分の1まで大幅に減少しました。使用済み燃料プール内の燃料取り出しについては、これまでに3・4号機からの取り出しを完了し、2031年に全号機で完了させることを目指して準備を進めています。また、燃料デブリ(溶けた燃料が冷えて固まったもの)の試験的取り出しについても、ロボットアームの本格的な試験を開始するなど、廃炉作業は着実に進んでいます。事故炉は冷温での停止状態を維持しており、構内の放射線量も大幅に減っています。
また「ALPS処理水」(トリチウム以外の放射性物質を浄化した水。トリチウムは取り除くことが非常に困難だが、海水で薄めることで、十分に安全基準を満たすことができる)の処分については、風評対策を徹底しながら、2021年4月の基本方針決定から約2年程度をめどに、規制基準を厳格に遵守しつつ海洋放出をおこなう方針を公表しています。引き続き、風評を生じさせないしくみと、風評に打ち勝ち、安心して事業を継続・拡大できるしくみの構築に向け、安全対策や理解醸成など必要な対策に万全を期していきます。
一方、福島の復興については、2020年3月に、帰還困難区域以外の地域の避難指示がすべて解除されました。帰還困難区域については、現在、各町村の計画に基づき、2023年春ごろまでを解除目標として取り組んでいる「特定復興再生拠点区域」の避難指示解除と、この拠点区域への住民の帰還を目指して環境整備を進めています。特定復興再生拠点区域外についても、2020年代をかけて、帰還意向のある住民が帰還できるよう、避難指示解除に向けた取り組みを進めます。
また、避難指示解除の動きを本格的な福島の復興につなげるべく、被災事業者の事業・なりわいの再建や、新産業の創出(福島イノベーション・コースト構想)とともに、交流人口の拡大と移住・定住の促進に取り組んでいます。
事業・なりわいの再建では、官民合同のチームが、これまでに約5,700事業者を個別訪問し、事業再開や経営改善、販路開拓などの支援を通じて、約2,700の事業者が事業再開を実現しています。また、新産業の創出については、「福島ロボットテストフィールド」や「福島水素エネルギー研究フィールド」などの拠点の整備をはじめ、企業誘致や実用化開発支援などを実施し、397件の企業立地と4,490人の雇用創出を実現するなど、復興に向けた取り組みが着実に進められています。
加えて、福島イノベーション・コースト構想をいっそう具体化するために、2023年4月には「福島国際研究教育機構」を発足させることを目指しています。
福島の復興は一歩ずつ進展しているものの、中長期的な対応が必要な課題も多いため、これについては国が前面に立って引き続き着実に取り組んでいきます。
② 2050年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応
温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」は、今や世界的な潮流です。2050年など年限を切ったカーボンニュートラル宣言国は、年々増加しており、2021年11月の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)終了時には、154カ国・1地域となりました。すでに気候変動対策は、いかに目標を達成するかという実行段階に入っています。
カーボンニュートラル宣言国
こうした状況下で、ルールづくりも着実に進展しています。金融面では、上場企業に気候変動対策の情報を開示するよう求める動きが進んでいます(「企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み『TCFD』とは?」参照)。政策面では、脱炭素社会のエネルギー構造、たとえば電化の促進と電力の脱炭素化、水素化、CCUS(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)などに、各国が具体的な支援をはじめています。
ただし、進め方は国ごとに異なります。というのも、エネルギーをめぐる情勢は、国によって千差万別だからです。たとえば、日本や中国では「産業」に対するCO2削減対策を強化しているのに対し、欧州では「民生」(一般家庭での使用)、米国では「運輸」に対する政策を強化しています。そのため、各国の産業構造やエネルギー事情をふまえた、現実的な脱炭素の取り組みが必要です。
各国の2050年目標達成に追加的に必要なCO2削減量の部門別比率(非電力)
各国の2050年目標達成に向けた主な対策
日本では、2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」参照)が公表されており、それぞれの部門において脱炭素化の取り組みが進行中です。
③ エネルギーをめぐる不確実性への対応
近年、エネルギーをめぐる問題は世界中で不確実性が高まっています。とりわけ大きな問題は、世界的なエネルギー価格の高騰です。2021年1月、日本でも寒波が襲来したことに加えてLNG(天然ガス)が不足し、電力需給がひっ迫したことはみなさんの記憶にも新しいと思います(「2021年初頭、電力供給が大ピンチに。どうやって乗り切った?(前編)」参照)。
日本だけでなく、同様の状況は世界各地で起こっています。その要因のひとつは、2015年以降、原油価格の下落で化石燃料への投資が停滞し、さらに脱炭素化の流れが重なって、供給力不足が深刻になったことです。また、新型コロナウイルスによる経済の停滞が回復するにつれて、各国でエネルギーの需要が増えたことも挙げられます。これにより、世界のガス火力への依存度が上がり、とくに欧州が世界で天然ガスや原油などを買い求めたことで、ガスの価格が上昇しました。その一方で、悪天候が続いて風力などの再生可能エネルギー(再エネ)が期待通り動かなかったことも影響しています。
世界各地の電力需給の逼迫状況(2021年)
これに、ロシアによるウクライナ侵略が燃料の価格上昇に拍車をかけました。とりわけ欧州では、天然ガスや石油など化石燃料をロシアに頼っている国が多く、大きな影響が出ています。
化石燃料のロシアへの依存度(2020年)
こうしたさまざまな状況によって、化石燃料の輸入価格も急激に上がっており、私たちの生活も影響を与えています。その傾向は世界的なものですが、現在、日本では欧州などにくらべて上昇幅は低くなっています。
日本では、原油価格高騰対策として、一時的に緊急避難的な燃料油価格激変緩和事業をおこなうなど、国民生活や企業活動への影響を最小限に抑える対策を実施しています。
エネルギーをめぐる日本と世界の動きがわかる
「エネルギー白書2022」の中では、2021年度におこなわれたエネルギー需給に関する施策についてもまとめられています。
日本が安定した資源を確保するための施策や、再エネの主力電源化に向けた施策、激甚化する自然災害も踏まえた国内エネルギー供給網の強靭化、また水素をはじめ新しいエネルギー構造への変革など、日本のエネルギー政策の「いま」がよくわかります。
最近は以前にも増して、エネルギー関連のニュースを耳にすることが多くなり、身近な問題としてとらえる機会も増えたのではないかと思います。一次資源の多くを輸入に頼る日本では、海外の情勢から非常に大きな影響を受けます。エネルギーは私たちのくらしの土台となる重要なものだからこそ、いまの状況をより深く知り、考えていくために「エネルギー白書2022」をぜひ読んでみませんか。
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お問合せ先
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
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