新型コロナウイルス感染症はエネルギーにどう影響した?―「エネルギー白書2022」から②
私たちの生活や経済活動に、今も大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)。移動の制限や、各産業での生産の減少などにともなって、エネルギー分野においてもさまざまな混乱が生じています。今回は、新型コロナ前の2019年、影響の大きかった2020年、回復傾向がみられる2021年を比較して、新型コロナがエネルギー面でどのような影響を与えたのかを、「エネルギー白書2022」から抜粋してご紹介します。
2021年の世界のエネルギー需要は2019年を上回る見通し
新型コロナによる世界的な行動制限や渡航制限により、2020年の世界のエネルギー需要は2019年に比べて4%減少しました。2021年には世界的な経済活動の回復にともない、エネルギー需要も2019年の水準を超えることが見込まれています。CO2排出量は、2020年に2019年比で5.8%減少し、2021年には化石燃料の需要増により4.8%増える見通しですが、過去最高となった2019年に比べると1.2%低い水準にとどまる見通しです。
世界の実質GDP、エネルギー需要、CO2排出量の推移(2019年比)
日本では、2020年度の最終エネルギー消費は2019年に比べて1,100PJ(ペタ・ジュール=エネルギー量の単位)以上も減少し、単年度で見れば2008年9月のリーマンショックを超える落ち込みを記録しました。
最終エネルギー消費量を部門別で見ると、全部門のうち約4割を占める製造業分野で約10%、業務他(第三次産業)で約5%、運輸で約10%減少しました。一方、家庭部門では逆に約5%増加しました。
家庭部門で最終エネルギー消費が増加した背景には、緊急事態宣言で外出や消費の自粛により交通需要などが落ち込む一方、テレワークやオンライン授業の広がりで在宅時間が長くなり、自宅でより多くのエネルギーを使うようになったことが挙げられます。
各部門におけるエネルギー利用の変化
では、このうち人や物の移動制限の影響を大きく受けた運輸部門と、エネルギー消費量が比較的大きい製造業分野について、詳しく見ていきましょう。
①運輸部門
旅客部門では最終エネルギー消費が約15%減少しました。これは、海外からの出入国者を含む人の移動が厳しく制限されたことで航空燃料の需要が大きく減少したことなどが影響したと考えられます。一方、貨物部門では約5%減にとどまりました。
運輸分野におけるエネルギー利用の変化
②産業部門(製造業)
製造業では全ての分野でエネルギー消費量が減少していますが、特に製造業全体のエネルギー消費のうち25%程度を占める鉄鋼分野では、約15%減となりました。これは自動車の生産量の減少や、建設工事の工期の延長などで、主力製品である高性能鉄板の需要が減り、生産量が減少したことが原因と考えられます。
また、製造全体のエネルギー消費のうち40%程度を占める化学分野では、約10%減となりました。これは、自動車の生産量減少により、塗料や部品需要が減少したことが原因と考えられます。また、紙パルプ分野のエネルギー消費は約10%減でした。テレワークによるペーパーレス化や、外出制限によるイベント・娯楽の中止にともなう紙需要の落ち込みがあったものの、ペーパータオルなどの衛生用品や通販用の段ボールの需要が増加したため、鉄鋼ほどの落ち込みはなかったと考えられます。
製造分野におけるエネルギー利用の変化
産業、業務、運輸部門の生産量とエネルギー消費量の関係は?
次に、産業、業務他、運輸部門について、生産量とエネルギー消費量の関係がどのようになっているかを見ていきましょう。
製造業、業務他(第三次産業)、運輸の各部門における生産量と最終エネルギー消費の変化率
上のグラフは、日本の産業全体について、2019年度と2020年度で、生産量とエネルギー消費量がそれぞれどう変わったのかを示したものです。横軸が2019年度から2020年度への生産量の変化率、縦軸が最終エネルギー消費量の変化率です。全産業において、生産量の減少にともなって最終エネルギー消費が減少していますが、その内訳を見ると、ほぼ1:1で減っている鉄鋼、化学、貨物といった分野もあれば、生産量の落ち込みほどにはエネルギー消費が減らない機械製造業や旅客といった分野もあり、その影響度合いは異なっていることが分かります。
家庭、業務、産業部門の電力消費傾向は?
続いて、新型コロナによる家庭部門、業務他(第三次産業)部門、産業部門の電力消費量が2019年、2020年、2021年でどう変わったのかについて見ていきましょう。
分析方法は、スマートメーターの設置が進んでいる東京電力の管内から、夜間人口の多い都市(住宅エリア)、昼間人口や飲食店の多い都市(商業エリア)、製造業出荷額の多い都市(工業エリア)のデータを集計。最初の緊急事態宣言の影響に着目するため、各年とも4月のデータを中心に用いて分析しました。以下の表は、分析の前提条件を示したものです(ここからご紹介するグラフは、各エリアのうち①を例として示しています。②のグラフについては「エネルギー白書」をご確認ください)。
分析の前提となる条件
さらに、それぞれのエリアにおいて、電圧の種類別(低圧・高圧・特別高圧)に動向を整理して分析しました。電力は発電所でつくられてから変電所を経由して送電線によって送られていますが、効率化のために変電所で変電されています。低圧は主に一般家庭や商店、高圧は主に工場や商業施設、特別高圧(特高)は大規模な工場など大量の電力を使用する施設で用いられている送電電圧です。どの種類の電圧を使用しているかを見ることで、家庭、産業・業務、工業それぞれの分野の傾向をつかむことができます。
① 低圧(家庭や商店)の動向
住宅エリア
どの時間帯でも、おおむね2019年に比べ2020年・2021年の電力需要が増加しています。これは、宣言期間中に住民が外出をひかえ、自宅での電力消費が増えたという実態を反映していると考えられます。また、朝の電力需要のピークが、2019年よりも2020年・2021年のほうが1時間ほど後ろ倒しになっています。テレワークの浸透で通勤が不要になり、通勤前の準備などの朝の需要の一部が遅い時間帯に使われるようになったことを示しています。
低圧・住宅エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
商業エリア
住宅エリアと同様に、2019年に比べ2020年・2021年の電力需要が増加しています。また、2019年に比べ2020年・2021年の夜間にかけて電力需要が減少しており、客足の減少や店舗などの営業形態変化が影響していると考えられます。
低圧・商業エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
② 高圧(産業、業務他部門)の動向
住宅エリア
2019年に比べて、2020年・2021年は昼間から特に夜間にかけて電力需要が落ち込む傾向がありました。これは、飲食店などの時短営業や営業自粛の影響と考えられます。2021年の電力需要は、2019年と2020年の中間あたりの値で推移しており、人流や経済活動の回復を示していますが、回復の程度には地域差もあると思われます。
高圧・住宅エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
商業エリア
2019年に比べ、2020年は昼間から夜間にかけて電力需要が減少しています。テレワークの浸透によるオフィスビルの活動の低下、飲食店などの時短営業や営業自粛の影響が出ていると考えられます。さらに、2020年では、緊急事態宣言期間中のほうが、期間外よりも日中から夜間にかけて大きく電力需要が減少しています。
高圧・商業エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
工業エリア
2019年に比べて、2020年・2021年は昼間から夜間にかけて電力需要が落ち込む傾向が見られ、工場などの生産活動の影響が出ていると考えられます。また、2021年と2020年の電力需要はほぼ同水準で推移しており、経済活動の落ち込みが継続している可能性が考えられます。
高圧・工業エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
③ 特別高圧(特高)の動向
工業エリア
2020年は、2019年に比べ全時間帯で電力需要が下落しており、その下落幅は緊急事態宣言によって経済活動が制限されていた時期の方が大きくなっています。一方、2021年については、新型コロナ前の2019年の水準にほぼ回復しています。
特高・工業エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
商業エリア
2019年に比べて、2020年・2021年は昼間から夜間にかけて電力需要が落ち込む傾向が見られました。また、2020年では、緊急事態宣言期間中のほうが期間外よりも大きく電力需要が落ち込んでいます。2020年・2021年には、ビルのテナント(商店・飲食店など)の営業自粛などにより、昼間から夜間にかけての電力需要が減少した影響が出ていると考えられます。
特高・商業エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
住宅エリア
商業エリアと同様の傾向が見られます。特高には公共施設などが含まれているため、2020年の宣言期間中の電力需要が大きく減少していると推察されます。
特高・住宅エリアにおける、通常時と緊急事態宣言期間中の1日の電力使用量の推移の比較
エネルギー分野における新型コロナの影響は一時的なものにとどまる可能性もありますが、テレワークやオンライン授業、eコマースの拡大による活動拠点の分散化などを通じ、分野間のエネルギー消費比率が変わるなど、構造的な変化が生じている可能性もあります。これを明らかにするには、今後も継続的に分析をおこなう必要があります。
新型コロナをはじめ、エネルギーをとりまく不確実性はますます高まっており、今後もエネルギー消費構造の特性をふまえ、あらゆる政策手段を総動員して対応に取り組んでいきます。
なお、調査の分析方法や詳しい内容については「エネルギー白書2022」第1部第3章第1節に掲載されています。もっと深く知りたい!という方はぜひ読んでみてください。
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長官官房 総務課 調査広報室
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