「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分~ALPS処理水の海洋放出と風評影響への対応

処理水タンクの写真

(出典)東京電力ホールディングス ホームページ

2021年3月は、東日本大震災が起こってから10年の節目。大震災にともなって発生した、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故からも10年ということになります。原発事故による災害からの復興をとげるためには、廃炉を着実に進めること、また周辺環境への放射線リスクを低減することが必要になります。政府は、「復興と廃炉の両立」を方針として、さまざまな取り組みを進めてきました。そこで課題のひとつとなってきたのが、「ALPS処理水」の処分方法です。今回は、さまざまな議論を経て決定された、ALPS処理水の処分方法についてご紹介します。

「ALPS処理水」って何?あらためて整理しよう

福島第一原発の原子炉内には、原発事故により溶けて固まった燃料である「燃料デブリ」が残っており、冷却するために水がかけられています。この時、燃料デブリに触れた水は、高い濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」になります。これらの汚染水には、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」と呼ばれる除去設備など、いくつかの設備を使用した浄化処理がおこなわれています。

こうした浄化処理を経て、放射性物質の大部分を除去した水が「ALPS処理水」です。しかし、ALPSをもってしても、「トリチウム」という放射性物質は取り除くことはできません。

トリチウムとは “水素”のなかまで、川や海など自然界にも存在している物質です。また、国内外にある原子力施設でもトリチウムが生成されており、各国がそれぞれの国の規制に基づいて管理されたかたちで、海洋や大気などに排出されています。

スペシャルコンテンツでは、これまで、ALPS処理水に関するさまざまな情報をご紹介してきました。

ALPS処理水をどう処分するか、重ねられた議論

ALPSなどによって浄化処理された水は、技術的には規制基準を満たした上で、かつ安全に処分をすることが可能です。しかし、処分をおこなうことによって、環境や人体に影響をおよぼすのではないか、という懸念を持つ人がいることも事実です。そのため、取り扱いに関する検討を、風評影響など社会的な観点も含めて重ねている間、福島第一原発の敷地内で保管が続けられてきました。しかし、貯蔵タンクはすでに1000基を超えており、福島第一原発の中でもかなり広い敷地を占有する状態となってきました。今後廃炉を進めていくにあたっては、燃料デブリの取り出しや廃棄物の一時保管などの作業が発生し、そのための敷地が必要となることから、このままタンクを増やし続けることはできません。また、廃炉が終了する時には、これらのタンクも無くなっていなくてはなりません。

タンクエリア周辺を上から撮った2018年12月撮影の写真に、2013年3月のタンクエリアを書き込むことでエリアを比較しています。タンクエリアが敷地の南側に広がったことがわかります。

赤い線と黄色い線で囲まれたところがすべて貯蔵タンク置き場となっている
(出典)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第13回)資料より資源エネルギー庁作成

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さらに、大量のタンクがおかれているという事実そのものが、風評やリスクの要因となるおそれもあります。こうしたことから、処分方法にかかわる政府方針を早期に決定する必要がありました。

ALPS処理水を今後どうするべきかについて検討が始められたのは、2013年のこと。以降6年以上にわたって、専門家や有識者が、技術的観点と社会的観点から議論を重ねてきました。議論は2020年2月に「報告書」のかたちで取りまとめられました。この報告書については、国際原子力機関(IAEA)から、「科学的な根拠に基づくものである」という評価を受けています。

この報告書をベースにして、地元自治体、農林水産業者などを対象に、数百回におよぶ意見交換をおこないました。経済産業省、復興庁、環境省の副大臣が出席し、地元自治体から流通・小売りまで幅広い関係者から意見を聞く場も7回実施。計29団体43名からヒアリングをおこないました。後者についてはライブ配信され、YouTubeで録画を見ることもできます。

また、2020年4月6日からは、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する書面での意見募集」と題した書面意見の募集がおこなわれました。できるだけ丁寧に意見を集めるため、2度期間を延長し、計117日間にわたって募集したところ、多くの意見が寄せられました

こうしたさまざまな手段で集められた意見や専門家の報告書を検討した上で、政府は、処分方法に関する決定をおこないました。

国内外で実施されている、「海洋放出」とは?

専門家や有識者の会議では、前例や実績があることをふまえると、「海洋放出」と「水蒸気放出」の2つの方法が現実的だとされました。さらに、海洋放出には、放出設備の取り扱いやモニタリングが水蒸気放出よりも容易だという利点もありました。

このような海洋放出の特徴は、おおよそ次のようにまとめられます。

リストアイコン 世界中の数多くの原子力施設でも、規制基準を満たすよう希釈した上で、トリチウムの海洋放出が実施されている
リストアイコン 海流の変動は気候の変動と比較して少なく、トリチウムの広がり方を予測しやすいため、モニタリングが比較的容易
リストアイコン 国際原子力機関(IAEA)が、海洋放出は技術的に実現可能であり、国際慣行にも沿っていると評価している

もちろん、海洋へ放出する際には、世界共通の安全性に関する考え方に基づいて実行します。

たとえばALPS処理水にふくまれているトリチウムについては、濃度が規制基準でさだめられた数値を大幅に下回るようじゅうぶんに薄めた(希釈した)上で、処理水の放出を実施することとなっています。また、放出後の海洋のモニタリングについては、国際機関などの協力も求め、強化や拡充をはかることとなっています。

これらの取り組みについては、今後もスペシャルコンテンツでわかりやすくご紹介していきます。

福島の復興をかならず成し遂げる、そのための大きな一歩

福島第一原発の廃炉は、福島の復興に不可欠なことです。ALPS処理水の処分方法の決定は、その「廃炉」と福島の「復興」に向けた、大きな一歩となります。しかし、ALPS処理水の処分に向けては、全力で取り組むべき課題があります。それは、風評影響への対応です。

実際に、「関係者の御意見を伺う場」や書面意見などを通してさまざまな方の声を集める中で、風評影響への懸念や、その対応を求めるご意見が多くの方から出ました。

こうしたご意見をふまえ、風評影響の発生を防ぐため、下記のような取り組みが今後おこなわれることとなっています。

風評影響への対応に向けた今後の取り組み
① 科学的な根拠に基づくわかりやすい情報発信をおこないます
② 国際機関と協力し、モニタリングを拡充・強化します
③ 水産業をはじめ、風評影響を受け得る産業の販路拡大・開拓支援をおこないます
④ 風評被害が発生した場合には、セーフティネットとしての賠償により対応します

さらに、現時点では想定し得ない風評影響が生じた場合に備え、官民が参加する会議において継続的に追加対策の必要性を検討し、実施されることとなっています。

福島の復興に向けて、これから重要になること

福島第一原発の廃炉、そして福島の復興に向けては、政府が今後も前面に立って全力を尽くしていく必要があります。一方で、この目標は、政府だけで成し遂げることができるものではないことは、みなさんもお分かりになるかと思います。

福島の復興には、福島や福島第一原発の“いま”について、より多くの人に、科学的な根拠に基づいた情報を正しく知ってもらうことが何よりも重要になります。

ALPS処理水については、多くのメディアやSNSなどで、さまざまな情報が行き交っています。その中には、残念ながら、科学的根拠に基づかない内容が含まれていることもあります。国民1人1人が、情報を慎重に見きわめ、福島や福島第一原発の“いま”について正しく知って、身近な人にも正しい情報を広めていくことは、それだけで「復興」の何よりのサポートになります。

われわれ経済産業省と資源エネルギー庁も、正しい情報をわかりやすくみなさんにお伝えできるよう、最大限努力を重ねていきます。

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