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2021年以降、エネルギー価格が世界的に高騰しています。エネルギーはさまざまなモノの製造や輸出入に使用されることから、多くの国で輸入物価や消費者物価に影響が出ており、資源の多くを輸入にたよる日本でもその影響は避けられません。今回は、エネルギーを多く消費する産業を中心に、資源価格の変動が各産業にどのような影響をおよぼしているのかを、「エネルギー白書2022」から抜粋してご紹介します。
物価の動向を見るためには、おもに「企業物価指数」(企業間で売買される物品の価格変動を示す指標)と、「消費者物価指数」(消費者が購入する商品小売価格の変動を示す指標)を使います。原油をはじめとするエネルギー価格の高騰を受けて、日本の企業物価指数は2021年2月に前年同月比9.3%増と、第二次石油危機の1980年12月(10.4%)以来の歴史的な上昇率を記録しました。輸入物価指数(輸入品の物価動向を示す指標。円ベース)も同34.0%増と、リーマンショック直前の2008年8月以来の高い水準となっています。一方、消費者物価指数は、ほぼ横ばいで推移しており、国際的な取引状況の上昇による消費者物価への影響はかぎられています。
原油価格、輸入物価指数、国内企業物価指数、消費者物価指数の推移
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企業物価指数の分野別内訳を見ると、2015年比で6割上昇した木材・木製品は、エネルギーの価格上昇に加え、ウッドショック(2021年以降の、米国での住宅着工戸数の増加や中国の木材需要が増えたことなどによる世界的な木材価格の高騰)の影響が大きくなっていますが、鉄鋼、非鉄金属、石油・石炭製品ではエネルギーが主な要因で4割上昇しました。その一方で、輸送用機器や生産用機器などについてはほぼ横ばいで推移しています。
素材分野及び組立加工業における企業物価指数の推移
企業物価指数が大きく上昇した鉄鋼、非鉄金属、石油・石炭製品といった産業は、生産の過程で多くのエネルギーを消費します。2015年時点での国内生産額に占めるエネルギーの割合を見ると、鉄鋼業、化学分野、紙・パルプ分野、窯業・土石業の「素材系」4業種で特に高くなっています。これらの業種では、製造プロセスで大量の電力や熱を使用したり、原料として石炭や石油を使ったりするためです。つまり、国内生産額に占めるエネルギーコスト(生産にかかるエネルギー費用)の割合が高い産業ほど、価格変動の影響を大きく受けているのです。
エネルギー多消費産業における主なエネルギーの用途
各業種の生産額に占めるエネルギーコストの割合
(出典)総務省・経済産業省「工業統計調査」産業別統計表より資源エネルギー庁作成
一方、輸送用機器や生産用機器などの産業については、企業物価指数がほぼ横ばいでした。その理由は、素材系の産業からこうした加工組立産業を経て商品が消費者に届くまでの間、つまりサプライチェーンを経由する間に、上昇した価格が転嫁できていないためと考えられます。つまり、一部の事業者などに、過度にしわ寄せがいってしまっている可能性があります。
では次に、各産業における投入物価指数(生産のために投入された原材料や燃料・動力などの価格変動を示す指標)と産出物価指数(産出された製品の価格変動を示す指標)を比較し、各産業においてどの程度転嫁が進んでいるかを分析した結果を示します。分析にあたっては「価格転嫁の進み具合」を示す指標として、実際の産出物価指数と、産出物価指数の推計値(投入物価の上昇が産出物価にすべて同月中に転嫁され、原材料・エネルギー・サービスなどの中間投入以外の付加価値の価格が一定だと仮定した場合)の比較をおこなっています。下のグラフは、各産業における産出物価指数を縦軸に、産出物価指数の推計値を横軸にとっています。点線で示された45度線は、価格転嫁が100%行われていることを示すラインです。その線より下に位置する場合は、推計値よりも実際の産出物価指数が低い、つまり価格転嫁が進みにくいことを示します。
各産業における産出物価と産出物価の推計値の関係
(出典)日本銀行「製造業部門別投入・産出物価指数」、総務省「産業連関表」
グラフを見ると、多くの産業が、価格転嫁が100%行われていることを示す45度線上に位置しています。はじめに触れたように、企業物価指数が大幅に上昇した鉄鋼、化学製品、非鉄金属、パルプ・紙・木製品などの素材系業種では、実際の産出物価がほぼ推計値と近い水準になっており、転嫁が進みやすくなっていることが分かります。その一方で、企業物価指数がほぼ横ばいだった輸送用機械や情報機器など加工度が高い分野は、実際の産出物価が推計値の水準を下回っており、転嫁が進んでいない傾向が見られます。また、素材系業種でも窯業・土石製品では、産出物価が推計値の水準を大きく下回っており、業界の商慣習などの影響が出ていると推察されます。
各産業の推計産出物価/実際の産出物価
次に、エネルギー価格上昇の影響を大きく受ける運輸の状況を見ていきます。現在、ガソリン価格や電力料金が大きく上昇していますが、交通分野の消費者物価指数はほとんど変動していません。航空運賃は比較的変動しており、現在も上昇していますが、特にJR、路線バス、タクシーについてはほとんど消費者物価指数が動いていない状況です。当然のことではありますが、消費者物価の動向が各業界における制度や商習慣に影響を受けているといえます。
運輸の消費者物価とエネルギーの企業物価の推移
(出典)総務省「消費者物価指数」、日本銀行「企業物価指数」より経済産業省作成
今後、ロシアのウクライナ侵略が長引いてエネルギー価格が高止まりしたり、脱炭素に向けた取り組みを進めるための新規投資などを拡大させていったりすると、エネルギーコストが上昇していくことが予想されます。企業にとってはコストの上昇につながるため、どこかで販売価格を引き上げていく必要が生じます。しかし、すべての業種で適当な時期に販売価格を引き上げることは、なかなかむずかしい状況です。そのため、日本経済全体として、まずはエネルギー源の多角化や調達先の多様化などを進め、エネルギーの輸入価格を抑えながら、エネルギー生産性を向上させることがもっとも重要です。それでも補いきれない場合には、企業・消費者の間でエネルギー価格の上昇をどのように負担するのか、議論を深めていくことが必要となります。以上の調査の分析方法や詳しい内容については「エネルギー白書2022」第1部第3章第3節に掲載されています。もっと深く知りたい!という方はぜひ読んでみてください。
長官官房 総務課 調査広報室
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