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液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」進水式

さまざまな資源からつくることができ、使用してもCO2を排出しない次世代のエネルギーとして期待されている水素(「『水素エネルギー』は何がどのようにすごいのか?」参照)。これまで、スペシャルコンテンツでは、水素の利活用を進めようとするさまざまな取り組みを紹介してきました。今回は、日本が目指す「水素社会」の“今”をご紹介しましょう。

いよいよ実現がせまる、さまざまな水素エネルギー活用の取り組み

日本では、世界に先駆けて「水素社会」を実現するべく、国やさまざまな企業が官民あげての実証実験などを進めています。

これまでスペシャルコンテンツで紹介してきた水素に関連する取り組みの中でも、いよいよ実現が間近にせまっているものや、その全貌がだんだんと見えてきたものがあります。2020年現在における、水素エネルギー利活用の姿を見てみましょう。

世界初!「液化水素運搬船」の進水式を実施

さまざまな資源からつくることのできる水素ですが、たとえば廃棄物や、品質が低いなどの理由で利用されず埋蔵されたままのエネルギー燃料から大量につくることができれば、コストを抑えながらエネルギーを安定的に確保できるというメリットが得られます。

そこで、輸送がむずかしいことから利用先が限定されている低品質な石炭である「褐炭」を活用し、オーストラリアで水素を製造して日本へ運ぶことを目指した「褐炭水素プロジェクト」(未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業)が進められています。

このプロジェクトでは、オーストラリアの褐炭から水素を製造する部分と、それを日本へと輸送する部分の実証をおこなっています。液化した大量の水素を長距離輸送する技術の実証のために重要になるのが、「液化水素運搬船」です。2019年12月11日、世界初となる液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式がおこなわれました(トップ写真)。

「すいそ ふろんてぃあ」は、プロジェクトを推進する技術研究組合「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」の組合員である川崎重工業が製造したものです。今後、船上に海上輸送用液化水素タンクを搭載し、2020年秋頃に竣工、2021年の初旬にはオーストラリアから日本に水素を運んでくる予定となっています。

ブルネイでは水素化プラントを開設、日本への輸送を実証

海外の利用されていないエネルギー資源を使って水素を製造し、日本へと輸送する実証実験は、ほかの国でも進められています。

ブルネイでは、技術研究組合「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)」による、「有機ケミカルハイドライド法による未利用エネルギー由来水素サプライチェーン実証実験」がおこなわれています。

水素はそのままでは輸送しづらいため、ほかの物質と化学反応を起こさせて液体状の有機化合物にすることで、貯蔵や輸送をおこないやすくします。これが「有機ケミカルハイドライド法」です。実証を通じて、将来の商用化されたサプライチェーンを設計・構築・運用するために役立つデータが収集されています。

2019年11月27日には、水素化プラントのオープニングセレモニーが開催され、世界に先駆けてサプライチェーンが始動しました。ブルネイで製造した水素は、すでに日本に向けて輸送を開始しています。

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水素化プラント外観

今後、有機化合物から水素を分離する「脱水素プラント」が日本側で動きはじめると、国際水素サプライチェーンの実証が、いよいよ本格的に動き始めることになります。

「福島水素エネルギー研究フィールド」が動作試験段階に

福島県全体を、新たなエネルギー社会のモデル創出拠点とすることで、エネルギー分野から福島の復興を後押ししようとする「福島新エネ社会構想」。国・県はもちろん、研究機関、地元経済界、電力会社や再生可能エネルギー(再エネ)の業界団体などが参加して、再エネや水素などの「新エネルギー」に関する取り組みを進めてきました。

構想の柱のひとつとして進められているのが、再エネ電力を利用して水素を「作り」、「貯め・運び」、「使う」、未来の水素社会実現に向けたモデルを構築する取り組みです。水素を再エネから製造することができれば、製造段階でもCO2を排出しないクリーンな水素が実現できます。

その実現の場として、福島県浪江町で、「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の建設が進められてきました。フィールドに整備された太陽光発電でつくった再エネ電気を使い、水素を製造するというしくみです。

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福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R) (提供)東芝エネルギーシステムズ株式会社

いよいよ建物が完成、2019年10月からは各機器の動作試験を開始しています。福島水素エネルギー研究フィールドに設置された、電気を使って水から水素を作る「水電解装置」は、世界最大級となる10MW。1日運転した場合、燃料電池自動車(FCV)約560台分の水素を製造できます。

2020年3月には水素の製造・出荷に着手し、作られた水素を「東京2020オリンピック・パラリンピック」の際に東京でも活用することを目指しています。「東京2020オリンピック・パラリンピック」では、約500台のFCVが大会車両として使われることが決まっています。さらには、大会史上初となる聖火台、そして一部の聖火リレートーチの燃料としても水素が使われることが決まりました。この福島県浪江町で製造される水素も、実際に聖火の燃料として利用される予定となっています。新たな希望となる未来のエネルギーが、「復興五輪」の象徴として、「東京2020オリンピック・パラリンピック」の舞台で光り輝く日はもうすぐです。

水素エネルギーの利活用をさらに進めるため、水素ステーションも規制緩和

政府は、このような水素エネルギーの利活用を支援すべく、「水素基本戦略」や「水素・燃料電池戦略ロードマップ」など、将来目指すべきビジョンと行動計画を示しています。

こうした取り組みのひとつに、水素ステーションの普及・整備支援があります。水素を動力エネルギーとして利用するFCVや燃料電池バス(FCバス)は、水素の有望な利活用先のひとつです。水素を供給するのは、ガソリンスタンドのように自動車やバスに水素を充填できる「水素ステーション」(水素スタンド)です。

水素ステーションの普及は着実に進んでいます。2020年1月16日には、FCVのほかFCバスにも対応している「東京ガス豊洲水素ステーション」が開所しました。このステーションでは、東京都が2020年までに100台以上の普及を目指しているFCバスへの水素の供給が見込まれています。豊洲ステーションは、経済産業省の「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」を活用して建設がおこなわれました。

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東京ガス豊洲水素ステーション(提供)東京ガス株式会社

また、水素ステーションの普及に向けた取り組みとして、規制改革もおこなっています。

現在、遠隔監視された水素ステーションで、セルフでの充てんを可能とする「セルフ化」の検討に取り組んでいます。水素ステーションには、水素を昇圧する(圧力を上げること)ためのコンプレッサー、水素を蓄えておく蓄圧器、水素を冷却するプレクーラー、水素を車に充てんするためのノズルを備えたディスペンサーなどが設置されています。これらの設備の安全の面から、日本では、FCVへの水素の充てん作業は従業員がおこなうことが原則となっていますが、ヨーロッパなどではセルフの水素ステーションが、広がりつつあります。そこで、日本でも、「セルフ化」の実現に向けた安全対策の検討が進められてきました。

セルフの水素ステーションには、

リストアイコン 監視員が、遠隔で設備の運転状況を監視する
リストアイコン FCVユーザーが、セルフ充てんを安全、確実におこなえるようにするために必要な対策をおこなう
リストアイコン 緊急の場合にそなえ、遠隔での設備の緊急停止や、作業員の水素ステーションへの駆けつけができるようにする

などのルールを定めることで、安全性を十分に確保するという方法が考えられています。

技術革新に対応した規制制度の見直しが進むことで、水素ステーションが広まり、FCVがどんどん使いやすくなっていくことが期待されます。

世界が期待する水素、日本が主導して進む国際連携

温暖化対策として「脱炭素化」への取り組みが加速する中、さまざまな国・企業・団体が、水素の持つ可能性に期待のまなざしを向けています。

2019年12月4~5日に開催された世界的ロックバンドU2の来日公演では、再エネからつくられた水素を使った電気を演奏用に供給する「水素コンサート」を実現するなど、その取り組みはさまざまなところへ広がっています。

2019年12月5日に開催された国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会では、「水素」を取り上げたサイドイベントが開催されました。日本からは松本経済産業副大臣が、オランダ・ウィベス大臣との共同議長のひとりとして参加、基調講演をおこないました。イベントでは、IEAのレポートで示された、長期的な水素の役割などの提言について議論。議論の概要は成果文書として発表され、「日本のリーダーシップを歓迎する」「長距離を走る乗用車やトラックにおける水素利用の支援、国際的な水素の取引開始など、水素のスケールアップに向けた取り組みを支持する」などの文言が盛り込まれました。

また、2020年1月10日には、梶山経済産業大臣がオーストラリアに出張し、オーストラリアと日本の間で、水素・燃料電池分野の協力に関する共同声明が締結されました。「褐炭水素プロジェクト」の成功に向けた協力や、新たな分野における協力を目指すことが確認されました。

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このように、日本は世界の国々とも協力しながら、水素社会の実現に向けた取り組みを着実に進めています。どんどん活発化している、水素エネルギーの利活用。水素社会の到来も、それほど遠い未来のことではないのかもしれません。

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