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地球温暖化の原因とされるCO2の排出量削減のため、世界各国でさまざまな取り組みがおこなわれています。この排出量削減については、“先進国vs新興国”で語るような議論が見られます。しかし、そのような対立軸でとらえていては、実効的な排出削減には結びつきません。そもそも、排出量のとらえ方は測定方法によって大きく変わってくるのです。今回は、実はあまり知られていないCO2排出量の測定方法と、そこから考える排出削減の重要な視点についてご紹介します。
2015年に採択された温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」(「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?」参照)が、2020年1月からいよいよ運用開始となりました。パリ協定が長期目標として掲げているのは、「世界の平均気温上昇を、産業革命以前にくらべて2℃より低くたもち、1.5℃に抑える努力をすること」。気温を上昇させる主な原因は温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)であることから、パリ協定では、「21世紀後半でのGHG排出を正味ゼロにすること」もあわせて目標としています。GHGには、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなどが含まれますが、中でも排出量が圧倒的に多いCO2(二酸化炭素)が代表格といえます。このCO2について、エネルギーを原因とするものにしぼった排出量の推移を、G20各国別に見たのが下記の図です。
G20各国の二酸化炭素(エネルギー期限由来)排出量の推移
(出典)IEA「CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION」2019 EDITIONをもとに経済産業省作成
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このグラフからは、先進国は減少傾向にあること、一方で新興国は増加傾向にあることが見てとれます。しかし、そもそも目に見えないCO2の排出量をどうやって測っているのでしょうか?
現在、国別のCO2排出量は、「生産ベースCO2排出」と呼ばれる推計を用いて測られています。直接、計器などを使って空中のCO2を測定するのではなく、ガソリン・電気・ガスなどの使用量といった経済統計などで用いられる「活動量」に、「排出係数」をかけ算して求められています。これは、たとえば「石油を燃焼する」など、“CO2排出が実際に起こった国”で排出量をカウントする方式と言えます。ただ、この生産ベースCO2排出による推計は、実情よりも過剰に「先進国は減少傾向・新興国は増加傾向」を演出している面があります。たしかに新興国では、国内のインフラ整備などのためにエネルギー需要が増えており、CO2排出が増加傾向にあるのは事実です。しかしそれ以外に、たとえば自国外に輸出されるモノの生産過程で排出されるCO2も、自国の排出量としてカウントされています。みなさんもご存じのとおり、近年、各企業はできるだけコストの安価な国へと調達先を求めたり、製造現場を移転したりしています。そのため、ひとつの製品をパーツで分割してさまざまな国でつくるといったような「国際分業」(グローバル・バリューチェーン)が急速に広がりました。特に、大量のエネルギーを使ってつくる製品「炭素集約製品」は、エネルギー価格が高い国から安い国への工場移転が進みました。その結果、統計上で見ると、工場が撤退した国のCO2排出量は減少する一方で、移転先の国では排出量が増加するという現象が起こっているのです。
本来、エネルギーは製品やサービスの恩恵を得る消費国のために使われているのであり、それを生産国に計上するのは実態をただしく反映しているとはいえません。そこで、経済協力開発機構(OECD)などが、念頭におくべきだと提言しているのが、「消費ベースCO2排出量」です。製品が生産された際に排出されたCO2を、その製品が最終的に消費される国の排出量としてカウントすれば、エネルギー使用の実態がより明確になるという新たな視点です。下の図は、「生産ベースCO2排出量」と「消費ベースCO2排出量」の考え方のちがいを示したものです。
(出典)「エネルギー白書2020」
また、下のグラフは、貿易、つまり製品の輸出入の量をCO2排出量に換算してみたものです。グラフを見ると、“世界の工場”と呼ばれる中国ではCO2の輸出量があきらかに多く、製造業を他国に依存し自国内ではサービス産業を増加させているEUでは、CO2を多く輸入していることになります。
(出典)(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)「経済とCO2排出量のデカップリングに関する分析:消費ベースCO2排出量の推計」(PDF形式:1.40MB)
ただ、統計方法をこの「消費ベースCO2排出量」に変更するには、大きな問題があります。この方法で計算するためには精緻なデータが必要となることから、統計になんと5年を要するのです。したがって、直近のCO2排出量の推移を追うには、やはり従来の「生産ベースCO2排出量」に頼ることになるという現状があります。
いずれにしろ明確にわかっているのは、先進国では国境を超えた工場移転などによりCO2排出量が減っていても、世界全体で見ればCO2の排出量はむしろ増えているということです。これは、工場が移転した先の国において、製造プロセスにおけるエネルギー効率が低い、あるいはエネルギーの炭素集約度(一定のエネルギーを利用することでどのくらいのCO2が排出されるか)が高いなどの理由があると考えられます。ですから、CO2排出量削減の問題を単純に“先進国vs新興国”の構図でとらえていては、いつまでたっても実質的な問題の解決は訪れません。国別の推移ばかりに気をとられるのではなく、世界全体でどれだけ排出量が削減できたかを常に注視すること。「炭素集約製品」の貿易関係にある先進国と新興国がたがいに協力しあって、製品を生産する時の排出削減に取り組むことが求められるのです。「パリ協定」は、先進国と新興国とが協調して排出削減という同じ目標を実現することを主旨としています。今こそ、この主旨に立ち返る必要があります。消費ベースCO2排出量の分析は、こうした視点に気付かせてくれるきっかけになります。また、実質的にCO2を削減するためには、自国が協調をはかるべき国はどこかということも見えてくるでしょう。日本は、「2030年度に26%のGHG排出削減」をかかげているほか、長期的には「2050年までに80%削減」という目標をかかげています。また、この野心的な目標を達成するための戦略として、環境・エネルギー分野のイノベーションを促進しています。世界の実効的なCO2排出削減を進めるためには、「炭素集約製品」の輸入元となっている新興国においても、こうした「非連続なイノベーション」によって、製造方法そのものを低炭素化・脱炭素化していくことが欠かせません。「革新的環境イノベーション戦略」(「イノベーションを推進し、CO2を『ビヨンド・ゼロ』へ」参照)などの政策を通じて、これらのイノベーションの実現に貢献していきます。「エネルギー白書2020」では、こうした温暖化対策の取り組みについて、詳しくご紹介しています。ぜひご覧ください。
長官官房 総務課 需給政策室
長官官房 総務課 調査広報室
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