企業の環境活動を金融を通じてうながす新たな取り組み「TCFD」とは?

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企業の長期的な成長のためには、利益追求だけでなく環境や社会とのかかわりが重要であるという考え方のもと、企業が社会的責任を果たす「CSR」活動はもはや当たり前のものとなっています。さらに最近では、そうした企業の活動を金融面からうながそうと、投資家が環境・社会・ガバナンスの3つの要素を織り込んで投資先を選ぶ、いわゆる「ESG投資」の動きも注目を集めています。

こうした中で、世界では「金融安定理事会(FSB; Financial Stability Board)」が、気候変動に関する企業の対応を情報開示するよううながす「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD; Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を設置。2017年には、提言をまとめた最終報告書が公表されました。日本でも、TCFDの提言に関する研究が進められています。今回は、このTCFDについてご紹介します。

企業による気候変動への取り組みが求められる中で生まれた「TCFD」

世界的な課題である気候変動は、企業にとっても、大きな影響をおよぼすファクターになりつつあります。たとえば、温暖化が進めば、これまで自社製品の材料として仕入れていた農畜産物が、これまでと同じようには収穫できなくなる恐れがあります。あるいは、気候変動が市場のニーズを変化させる可能性もあります。企業が持続的な成長を果たすためには、気候変動というファクターを経営戦略に織り込む必要があるのです。

こうしたことから、投資や金融分野でも、「企業が気候変動に関してどのような対応をおこなっているのか」という情報は、投資家が企業の業績を分析し投資判断をするための重要な基準になりつつあります。特に、2008年のリーマンショック以降は、「非財務情報」(企業の「財務諸表」に掲載されていない情報)が企業価値へ与える影響に注目が集まっており、「企業による気候変動への取り組み」もそうした情報のひとつと見なされています。

そこで、企業による非財務情報の開示や、それを調査し評価する動きが進んでいます。代表的なものとして、気候変動や水資源などの環境問題に取り組む国際NGO「CDP」による、企業の環境情報の調査や評価があげられます。日本でも、CDPが企業へ送付する質問票に回答する形で環境活動の情報を開示する企業が増えています。

2006年~2018年の日本企業の回答状況をグラフで示しています。2006年の100社未満から毎年増加しており、2018年は300社近い数値となっています。

CDPの質問票に対する日本企業の回答数

言い換えれば、気候変動への対応が、これまでのような「企業の社会的責任だからおこなうべきもの」ではなく、中長期的な事業活動をおこなう上での“リスク”あるいは“チャンス”を生み出す要素へと変化しており、企業が投資や融資を受けるにあたって重要な情報となりつつあるということです。

このように、気候関連の情報開示がグローバルに求められるようになった流れの中で発足したのが、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」です。TCFDは、銀行、保険会社、資産管理会社、大手非金融企業、信用格付機関など世界中の幅広い経済部門と金融市場のメンバー32名によって構成された、民間主導の組織です。金融システムの安定化を図る国際的組織である「金融安定理事会(FSB)」が、G20からの要請を受けて2015年に設置しました。

TCFDは、気候変動に対する企業の取り組みにかかわる情報開示について、2017年6月に提言をまとめた最終報告書を公表しました。この報告書では、企業に対して、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標の4項目について、自社への財務的影響のある気候関連情報を開示するよう勧めています。

TCFDの開示推奨項目「ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標」のそれぞれの項目について、詳細を表にまとめています。

日本企業に環境分野の情報開示をうながすため、政府として世界初の「TCFDガイダンス」作成

では、気候変動への対応に関して企業に情報開示を求める機運の高まりは、日本ではどのようにとらえられているのでしょうか。

もともと、日本企業は環境に関する取り組みに積極的で、先進的な技術を持つ企業も多くあります。日本の大手企業では、取引先を選ぶ基準として、気候変動への対応を考慮するケースもあります。

しかし、こうした情報の開示については、これまで日本企業はあまり積極的でありませんでした。金融機関からは、「将来への投資情報」など事業戦略の開示が不十分だという声もあがっていました。

そこで、経済産業省では、2018年8月に「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」を立ち上げました。研究会では産業界や金融界の有識者が集まり、日本企業からの情報発信をさらに推し進めるべく、TCFD提言にもとづいた企業の情報開示のあり方について議論をおこないました。

さらに、これらの議論をもとに、「TCFDガイダンス」を2018年末に策定しました。企業がTCFD提言にもとづく情報開示を進めることで、投資家などがそうした取り組みに資金を提供し、リターンを得ていくという「環境と成長の好循環」の実現を目指していくための手引きです。これは、政府機関が出すTCFDガイダンスとしては世界初のものです。

ガイダンスでは、情報開示の方法や進め方などに加え、業種ごとにどのように戦略を示し、情報開示に取り組んでいけばよいかを解説しています。たとえば自動車産業では、製造時の温室効果ガス(GHG)の排出量より、走行時の排出量のほうが大きくなるため、走行時のGHG排出削減につながる車種の技術開発情報などが「開示推奨項目」としてあげられています。一方、鉄鋼業では製造時のGHGの排出量が大きくなるため、製造プロセスの効率向上に向けた取り組み情報などが開示ポイントになります。

TCFDガイダンスの概要
第1章(はじめに)
本ガイダンスの目的と重要性

第2章(解説パート)
金融機関の意見や開示事例、TCFD提言策定時の議論をもとにした解説で企業や金融機関のTCFD提言への疑問点を解消

第3章(業種別ガイダンスパート)
気候変動のリスク・機会が異なる業種ごとの望ましい戦略の示し方や、推奨する開示ポイント・視点を解説

日本企業でも「TCFD」に対応しようとする企業数が増加

TCFDには、すでに世界で833の企業・機関、日本で188の企業・機関が賛同しています(2019年8月23日時点)。日本の賛同企業・機関数は世界第1位で、世界の賛同企業・機関の約2割を占めています。また日本では、製造業やエネルギー産業など非金融セクターの賛同数が多く、世界の非金融セクター全体の3分の1を占めています。

TCFDに賛同することで、気候変動に対する取り組みを外部にアピールでき、それらの取り組みに対する金融機関からの認知度向上や対話の充実化につながることなどが考えられます。賛同によって特別な義務を負うことはなく、できることから開示すればよいことになっています。非財務情報と財務情報を合わせた「統合報告書」などをすでに発行していれば、それを情報開示媒体として活用する方法もあります。

さらに、TCFDに賛同する企業や金融機関が集まり、民間主導でTCFDへの対応を推進していくための組織として「TCFDコンソーシアム」が設立され、2019年5月27日に設立総会が催されました。経済産業省は金融庁、環境省とともに、このコンソーシアムにオブザーバーとして参加しています。

集合写真

コンソーシアム設立総会での集合写真

詳しく知りたい
「TCFDコンソーシアム」

TCFDコンソーシアムでは、議論を通じて「TCFDガイダンス」のver.2.0を策定、また金融機関向けに企業の開示情報を評価する際のポイントを解説した「グリーン投資ガイダンス」を策定する予定です。コンソーシアムの活動を通じて、「環境と成長の好循環」が実現することが期待されます。

また、2019年10月8日には、日本で「TCFDサミット」の開催が予定されています。2019年のG20議長国である日本がリーダーシップをとり、世界各国から集まった関係者がTCFDを実務に定着させるための課題やアクションを話しあいます。

気候変動という世界的な課題の解決には、各国政府はもちろん、企業も積極的に環境分野に取り組むことが求められています。こうした情報開示の枠組みを整備することは、企業の取り組みをさらに促進することに役立つのです。

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