成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
SAFの導入拡大をめざして、官民で取り組む開発と制度づくり
なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
世界各国で「脱炭素化」に向けた技術開発が進む今、脱炭素技術の「知的財産(知財)」を取り巻く環境は大きく変化しています。日本企業も脱炭素に役立つさまざまな技術開発に力を入れていますが、「知財」の観点から見た場合、その競争力は世界でどのようなポジションにあるのでしょうか。「『知財』で見る、世界の脱炭素技術(前編)」に引き続き、後編でも分野ごとに解説します。
「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、民間企業のイノベーションと新たな挑戦を支援するために、2020年12月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(「カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?」参照)。この中で、今後、重点を置いて取り組むべき14の重要分野が設定されました(※今回の分析対象は、2020年12月策定時点の戦略内容。同戦略は2021年6月18日に改定)。
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2021年版「エネルギー白書」では、この14分野について、日本の知財競争力がどの程度なのか、主要7カ国・地域(米国、中国、韓国、台湾、英国、ドイツ、フランス)と比較したデータを紹介しています。知財とは、人が生み出したアイデアや創作物のうち、新しさや独自性といった理由により、「特許権」など一定の価値が認められ、法律で保護されるものです。知財競争力をはかる指標にはさまざまなものがありますが、エネルギー白書では、2010~2019年の10年間に各国に出願された特許を対象に、・各分野の特許数・特許への注目度(他社閲覧回数、情報提供回数など)・特許の排他性(他社拒絶査定引用回数、無効審判請求回数など)などを評価のベースにしています。これらのスコアを、それぞれの特許の残存年数(あと何年権利が認められるかの年数)とかけあわせ、こうして企業ごとに集計した指標「トータルパテントアセット」を企業国籍別で再集計することにより、国・地域別の特許競争力の順位づけを試みています。
特許競争力の国別比較
(出典)アスタミューゼ株式会社「令和2年度エネルギーに関する年次報告書に係る脱炭素関連技術の日本の競争力に関する分析作業等」の分析
この手法で分析した結果、日本は「水素」「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「食料・農林水産」などをはじめ、多くの分野で比較的高い知財競争力を保有しているという結果となりました。
「『知財』で見る、世界の脱炭素技術(前編)」では、知財競争力を分析したグリーン成長戦略の14分野のうち、①~⑦の分野についてご紹介しました。今回は、残り⑧~⑭の分野について、個別に概要を見ていきましょう。
この分野では、陸上運輸に関わっている自動車や重電機器(大型電気機械)の企業、物流部門の企業が上位にランクインしています。中国は特許出願数が多く、特許の注目度や排他性なども高く、首位となっています。2位が米国、3位が韓国で、日本は4位です。
植物は温室効果ガスのひとつであるCO2を吸収して育つため、こうした植物を育成する農林畜産技術や関連機具の技術も、脱炭素技術のひとつとされています。この産業分野の特許を分析した結果、日本が首位となりました。これは農産品の技術というより、省エネルギー(省エネ)化などを進める日本の農機具メーカーの特許が強いためで、欧米の化学メーカーなどを抑えてトップに立っています。2位に米国、3位に韓国、4位に中国が続いています。
航空機の脱炭素では、バイオマスなどからつくったカーボンニュートラルな燃料や、省エネ機材、運航の工夫技術などが研究されています。ここでは米国のボーイング、フランスのエアバスなど、やはり航空機メーカーが強いことから、首位が米国、2位がフランスとなっています。3位が中国で、日本は4位です。
CO2を資源として有効活用する技術である「カーボンリサイクル」の分野では、現在、実用化されているものがCO2の分離・回収技術や、CO2を燃料に転換するバイオ燃料の特許であるため、これらの特許を有する企業や国が上位を占めています。日本は、中国、米国に次いで3位となっています。カーボンリサイクルに関わる特許の出願人ごとのトータルパテントアセットを見ると、現在実用化されているCO₂の分離・回収技術(CCS)やバイオ燃料に強い米国のExxon Mobile Corporationが首位ですが、日本企業も2位にCCS技術に秀でた三菱重工業株式会社が入っていることをはじめ、5位、9位、17位と、計4社がランクインしています。
カーボンリサイクルに関わる特許の出願人ごとのトータルパテントアセット 上位企業20社(2010―2019年間)
(出典)アスタミューゼ株式会社
一方、CO₂の分離・回収技術(CCS)やバイオ燃料に続き、拡大が期待されるのが太陽光エネルギーを使って水から水素を作り出したり、CO2を化学品に変換したりする「人工光合成」の分野です。ここでは、日本が強みを発揮しています。企業・研究機関別に見ても、日本の企業・研究機関が上位5位を独占する結果となっています。こうした分野で今後も日本企業の強みを生かしていけるよう、産業化支援を継続的に実施していく必要があります。
人工光合成の知財競争力の国別比較
人工光合成の知財競争力のトータルパテントアセット 上位5社・機関
※三菱ケミカル、富士フィルム、INPEX、ファインセラッミクスセンター、三井化学、TOTOによる技術研究組合(出典)アスタミューゼ株式会社「令和2年度エネルギーに関する年次報告に係る脱炭素関連技術の日本の競争力に関する分析作業等」の分析結果より経済産業省作成
この分野では、太陽光発電関係の特許が上位を占めています。中国は特許出願数が多く、特許の注目度や排他性なども高く、首位に立っています。日本も太陽光発電関係企業を中心に健闘しており、2位に入っています。続いて3位が米国、4位が韓国です。
ゴミや汚泥処理などに関わる技術の特許を分析した結果、特許出願数の多い中国が首位に立っています。次いで米国が2位、韓国が3位、日本は4位です。この分野では、大学・研究機関が上位を占めています。
たとえば、さまざまな分野で広がっている「シェアリングエコノミー」は、省エネにつながることから、CO2削減にも役立つと考えられています。そのようなCO2削減にかかわる行動変容や、気候変動予測などにかかわる技術の特許を分析した結果、特許出願数の多い中国が首位に立っています。2位が米国、3位が日本です。******今回の分析は、あくまで知財競争力の一面を評価したものですが、グリーン成長戦略の進展にともない、各分野のポテンシャルを見ていくうえでの参考になると考えられます。こうした知財競争力を、今後は産業競争力に変えていくことが必要です。そのためには、インフラの側面からの支援や国際ルールづくりなどの環境整備が重要となります。
長官官房 総務課 調査広報室
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