今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~
TOPICS
2017年6月、米国のドナルド・トランプ大統領が脱退を表明するなど、最近なにかと話題になっている「パリ協定」。
しかし、そもそもパリ協定ではどのようなことが決められ、世界各国にはどのような取り組みが求められているのか、またパリ協定がビジネスや生活にもたらす影響とはどのようなものなのか、はっきりとは答えられないという方も、実は多いのではないでしょうか。今回は、「今さら聞けないパリ協定」と題して、そのポイント、日本のビジネスや社会に与える影響などをわかりやすくご説明しましょう。
1.温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」
パリ協定の合意と発効
パリ協定とは、2020年以降の気候変動問題に関する、国際的な枠組みです。1997年に定められた「京都議定書」について覚えておられる方は多いでしょうが、パリ協定はこの京都議定書の後継となるものです。
パリ協定は、2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意されました。こうした取り決めは合意されるとすぐに効力を発揮するものではなく、発効するための条件が設けられます。パリ協定では、以下の2つが発効条件でした。
専門家の間では条件が満たされるには時間がかかるだろうと考えられていましたが、当時の米国・オバマ大統領が中国やインドに批准を働きかけるなどした結果、2016年11月4日に発効しました。それだけ世界各国の地球温暖化に対する関心が高まっているといえます。
結果、パリ協定には、主要排出国を含む多くの国が参加。締結国だけで、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159か国・地域をカバーするものとなっています(2017年8月時点)。2016年11月に開催されたCOP22では、2018年までに協定の実施指針などを策定することが合意されました。
パリ協定における長期目標
パリ協定では、次のような世界共通の長期目標を掲げています。
日本も批准手続きを経て、パリ協定の締結国となりました。この国際的な枠組みの下、主要排出国が排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長の両立を目指していきます。
なお、米国のトランプ大統領による脱退表明に話を戻しますと、パリ協定は、規定上、発効から3年経過して以降、国連に脱退の通告をすることができます。また、その通告が効力を有するまでに1年かかる規定になっているので、米国の脱退が可能となるのは、最速でも2020年11月4日以降になります。
2.パリ協定が画期的といわれる2つのポイント
パリ協定は歴史的に重要な、画期的な枠組みであるといわれます。その理由には、次のようなポイントが挙げられます。
途上国を含む全ての主要排出国が対象
パリ協定が歴史上、最も画期的である点は、途上国を含む全ての参加国に、排出削減の努力を求める枠組みであるということです。
京都議定書では、排出量削減の法的義務は先進国にのみ課せられていました。しかし、京都議定書が採択された1997年から今日までの間に、途上国は急速に経済発展を遂げ、それに伴って排出量も急増しています。実際、2016年の温室効果ガス排出量シェアを国別で見ると、中国が23.2%で1位、インドが5.1%でロシアと並んで同率4位となっています(日本の温室効果ガス排出量シェアは2.7%)。
<各国別の温室効果ガス排出量シェア>
(注)条約によって、排出削減を義務づけられている国のリスト
(出典)CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION2016(IEA)
途上国に削減義務が課せられていないことは、参加国の間に不公平感を募らせる要因となりました。それが一因となって、京都議定書は当時最大の排出国であった米国も批准せず、議定書の実効性に疑問符がつくこととなっていました。
そこでパリ協定では、途上国を含む全ての参加国と地域に、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることを求めています。加えて、長期的な「低排出発展戦略」を作成し、提出するよう努力すべきであることも規定されています。
日本の提唱で採用されたボトムアップのアプローチ
パリ協定が画期的な枠組みとされるもう1つの理由は、ボトムアップのアプローチを採用したことです。
京都議定書は、先進国のみにトップダウンで定められた排出削減目標が課せられるアプローチを採用していました。このトップダウンのアプローチに対して公平性および実効性の観点から疑問が呈されたことを踏まえて、パリ協定では各国に自主的な取り組みを促すアプローチが模索され、採用されました。この手法は、協定の合意に至るまでの国際交渉において日本が提唱して来たものです。
これにより、各国の削減・抑制目標は、各国の国情を織り込み、自主的に策定することが認められています。
3.パリ協定発効のカギは公平性と実効性
さまざまな国や地域の参加と、削減努力へのコミットを促すことに成功したパリ協定。その実現のために、公平性と実効性を担保するような工夫が行われています。
高い透明性の確保
削減・抑制目標については、達成義務を設けず、努力目標としています。ただし、進捗状況に関する情報を定期的に提供し、専門家によるレビューを受けることが定められており、透明性を確保しました。これは目標をプレッジ(誓約)し、取り組み状況などをレビュー(評価)することから、「プレッジ&レビュー方式」とよばれます。各国の目標は、5年ごとに更新し提出することが求められています。
途上国にも自主的な支援を奨励
京都議定書でも定められていた途上国に対する先進国の資金支援については引き続き義務とされましたが、パリ協定ではそれに加えて、途上国にも自主的な資金提供を奨励することとしました。
進捗状況を確認するサイクルを回す
協定の長期目標の到達度合いについては、全体的な進捗を測るために、2023年から5年ごとに、実施状況を確認することとされました。その結果をふまえて、各国の次の削減・抑制目標などが検討されます(グローバル・ストックテイク)。
4.日本の削減目標とビジネスへの影響
このパリ協定の枠組みを受けて、日本でも目標が定められ、さまざまな政策が検討され始めています。
日本の中期目標「2013年度比で26%削減」
日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められました。目標が低いのではないかという声もありますが、各国が自主的に定めた目標は基準年度や指標などがバラバラであるため、比較には注意が必要です。下記は主要排出国の年度を合わせて削減・抑制目標を比較したものですが、日本の数値は一見低いように見えて、かなり高い目標であることが分かるかと思います。
日本は2013年と比べた場合の数値、米国は2005年と比べた場合の数値、EUは1990年と比べた場合の数値を削減目標として提出
比較する年度を「2013年」に合わせて数値を比べてみると、日本の目標は高いことが分かる
(出典)主要国の約束草案(温室効果ガスの排出削減目標)の比較(経済産業省 作成)
この目標は、決して達成が楽な数値といえるものではありませんが、政府が産業界とともに検討を重ねてきたさまざまな対策が考慮されたうえで積算がなされており、具体的な対策に裏づけされた実現可能性のある内容でもあります。
5.経済と両立しながら低排出型社会を目指す
こうした野心的な目標を達成するための第一の核となるのは、再生可能エネルギー(再エネ)の導入量を増やすなど低排出なエネルギーミックスの推進と、さらなるエネルギー効率化の追求です。政府の示した2030年のエネルギーミックスにおいては、徹底した省エネルギーとともに、再エネを22~24%、原子力を22~20%とするなどの電源構成の見通しが示されています。
<エネルギーミックスにおける2030年の電源構成>
(出典)長期エネルギー需給見通し(経済産業省 作成)
企業には、これらの目標をビジネスチャンスと捉え、自社の排出量をさらに削減するだけでなく、高機能素材や低炭素・省エネ製品の開発・国内外への普及を進めることが求められます。一方、皆さんの家庭においても、生活の中でのエネルギーの使い方や消費行動を見直すことが求められていくでしょう。
その中で忘れてはいけないことは、経済と環境の両立を図っていく姿勢です。経済発展がなければ、温暖化対策に有用な革新的イノベーションも生まれませんし、画期的な省エネ製品への買い替えを促すことも難しくなります。低排出型社会実現のため、排出削減の取り組みを、経済や社会の発展に向けた取組みとセットで進めていくことが重要となります。
お問合せ先
記事内容について
経済産業省 産業技術環境局 地球環境対策室
スペシャルコンテンツについて
資源エネルギー庁 長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。