「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(前編)安定供給を前提に脱炭素を進める

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2022年12月22日に、今後10年を見据えて、エネルギー安定供給・経済成長・脱炭素を同時に実現する政策をまとめたロードマップ「GX実現に向けた基本方針」がまとめられました。この基本方針には、「エネルギーの安定供給」と「脱炭素社会への移行と経済成長の同時実現」に向けて、省エネルギーの徹底、再生可能エネルギー(再エネ)や原子力発電などのクリーンエネルギーの活用をはじめ、それらを進めていくための政策パッケージについて具体的な方法が盛り込まれています。世界的にエネルギー情勢が変化しているなかで、日本が打ち出したエネルギー安定供給・経済成長・脱炭素を同時に実現する政策の方向性はどのようなものでしょうか。その内容を2回に分けてご紹介します。

「エネルギーの安定供給」「経済成長」「脱炭素」を掲げた基本方針

今回、取りまとめられた「GX実現に向けた基本方針」の「GX」とは、「グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)」のことです。これまでの化石エネルギー(石炭や石油など)中心の産業構造・社会構造から、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心に転換することを意味します。

脱炭素社会を実現することは世界中の重要課題であり、「2050年カーボンニュートラル」という国際公約を掲げる日本にとっても、クリーンエネルギーへの転換は避けて通れない道です。

しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変しました。それ以前から続くコロナ禍などさまざまな影響もあって、世界各国でエネルギーのインフレーションが起きており、日本でも電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰が生じています。そもそも日本はエネルギー資源にとぼしい国であることから、安定供給の確保の重要性が改めて認識されました。

そこで、脱炭素社会の実現と、エネルギーの安定供給を両立させるために、エネルギーの需給構造を転換させるとともに、日本経済をふたたび成長軌道に乗せていくことが最重要課題として位置づけられました。とくに、日本が強みを持つ脱炭素関連技術を活用して産業競争力強化・経済成長を実現し、同時にCO2排出削減を実現するために、国を挙げて取り組むことが重要であるとして、「GX実現に向けた基本方針」が取りまとめられたのです。

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GX実行会議

基本方針では、大きく分けて、エネルギー政策の全体論と、GXを進めるための方法論の2つが盛り込まれています。

リストアイコン 【エネルギー政策】エネルギーの安定供給の確保を前提とした、GXに向けた脱炭素に取り組む
リストアイコン 【GXを進める方法】経済成長と脱炭素を同時に達成するための投資促進策、「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行に向けた政策パッケージができる

今回は「エネルギー政策」についてのポイントを見ていきましょう。

エネルギーの安定供給確保を大前提として、GXに向けた脱炭素に取り組む

私たちの生活や社会・経済活動を守るためには、エネルギーが安定的に、安価に供給されることが欠かせません。将来にわたって安定供給を確保するためには、緊急避難的な緩和措置に頼るだけでなく、エネルギー危機に耐えうるエネルギー需給構造に根本的に変えていく必要があります。これは、脱炭素へ向かう場合でも同様です。

安定供給のしくみを再構築しながら、脱炭素へと向かうための方策として、次のような取り組みが示されました。

省エネルギーを徹底し、製造業の構造を転換する

脱炭素社会の実現を考えると、そもそもエネルギーを使う量そのものを減らしていくことが、まずはもっとも大事です。

家庭では、省エネ効果の高い断熱窓への改修など「住宅の省エネ化」、地域の実情に応じた「省エネ家電の買い替え」などに補助金を交付するなどの支援をおこないます。企業では、非化石エネルギーへの転換を進めるために、情報開示のしくみを導入したり、革新的技術の開発・導入や生産体制の転換などそれぞれが省エネ目標を立てて取り組むことを、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(改正省エネ法)」などの規制でうながし、それに対する支援も一体的におこなっていきます。

脱炭素効果の高い、再エネの主力電源化を進める

再エネの導入をさらに拡大するために、全国規模で電力系統(発電・変電・送電・配電を統合したシステム)の整備を進めます。そのために、地域間を結ぶ送電線について今後10年間程度で、過去10年間とくらべて8倍以上の規模で整備を加速します。また、広大な土地があり再エネのポテンシャルの高い北海道から、電力需要の多い本州へ電力を送るための海底直流送電を、2030年度を目指して整備していきます。

電力系統の整備<マスタープラン策定に向けた長期展望(案)>
今後の全国の電力系統の整備について、新設・増強する地域や必要投資額などの展望を地図上に示しています。

(出典)第21回 広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会 資料1 地域間連系線および地内増強の全体イメージ(ベースシナリオ)より事務局作成

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脱炭素効果の高い、原子力を活用する

原子力は出力が安定的で自律性が高く、安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立に向けて、脱炭素のベースロード電源(季節や天候、時間を問わず、電力を安定的に供給できる電源)として重要な役割を担っています。そのため、安全最優先で再稼働を進めます。

まず、既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、運転期間については、現行制度と同様に「運転期間40年、延長を認める期間は20年」という実質的な運転期間の「60年」という上限は維持した上で、安全規制の変更や、裁判所の仮処分などにより発電所が停止していた期間については、原子力規制委員会の厳格な安全審査がおこなわれることを前提に、一定の期間に限り、「60年」の運転期間のカウントから除外することを認めます。

また、廃止を決定した原発の敷地内での建て替えを対象として、新しい安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組みます。

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このほか、新たな脱炭素燃料として注目される水素・アンモニアの導入の促進や、カーボンニュートラル実現に向けた電力・ガス市場の整備なども進めます。また、各産業分野でGXに関する目標を立て、取り組みを促進していきます。

次回は、GXを進める具体的な方法として、経済成長と脱炭素を同時に達成する「成長志向型カーボンプライシング構想」についてご紹介します。

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後編の公開に際し、文言を統一するため一部テキストを変更しています。(2023/5/26 10:00)

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