CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)

北海道・苫小牧市のCCS実証試験風景

北海道・苫小牧市のCCS実証試験

気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」が、いよいよ2020年から運用開始となりました(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。協定に基づき、温室効果ガスの削減目標を達成するためには、これまでにない技術革新が必要です。そのひとつとして注目されているのが、CO2を回収し貯留する技術である「CCS」と、さらにそれを利用する「CCUS」です。今回は、北海道の苫小牧でおこなわれた、我が国初の大規模なCCSの実証試験について、2回に分けてご紹介します。

CCS・CCUSはCO2削減のために不可欠な技術

パリ協定の目標を達成するためには、環境技術へのさまざまな投資が必要です。2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」では、世界のCO2排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになる「カーボンニュートラル」を実現するような技術、さらには過去に排出された大気中のCO2をも削減する「ビヨンド・ゼロ」を可能とするような革新的技術を、2050年までに確立することを目指しています。

その革新的技術のひとつが、産業活動から排出されるCO₂を回収して貯留するCCSと、これを有効に利用する技術、CCUSです(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる『CCUS』」参照)。国際エネルギー機関(IEA)のレポートによれば、CCUSは2070年までの累積CO2削減量の15%を担い、カーボンニュートラル達成時に約69億トン/年の削減貢献をすることが期待されています。

世界のエネルギー起源CO2排出削減貢献量
2019年のCO2排出削減量を基準として、2070年カーボンニュートラルを実現するために必要な追加の削減量をグラフであらわしています。

(出典)IEA “Energy Technology Perspectives 2020”

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苫小牧でおこなわれた日本初のCCS実証試験

日本のこれからのエネルギー政策をさだめた「第5次エネルギー基本計画」においては、2020年ごろのCCUSの実用化を目指した研究開発や、国際機関との連携を進めることが明記されています。そこで、まずはCCSについて、北海道・苫小牧で日本初の大規模な実証試験がおこなわれました。

これまで、CO2を分離・回収して貯留するまでの各要素の技術は、すでにそれぞれの分野
で確立されていましたが、今回の試験では、それらが統合した一貫システムとして機能するかを確認しました。経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本CCS調査株式会社(JCCS)が中心となり、2012年度から設備の建設を始めました。2016年4月から、海底下の地中深くにCO2を貯留する作業(圧入)を開始。2019年11月、目標としていた累計CO2圧入量30万トンを達成して圧入を停止しました。実証試験は2020年度末に終了する予定で、圧入停止後も計画通り監視を続けています。

海底下の地中にCO2を圧入する作業とは、どのようなものでしょうか。苫小牧の場合、製油所の水素製造設備から供給されるCO2を含むガスを、隣接するCO2分離・回収/圧入設備までパイプラインで輸送。その後、そのガスからCO2を分離・回収して、海岸から3~4km離れた海底下の貯留層へ圧入・貯留しました。

苫小牧CCS実証試験センターの設備を図解しています。

(出典)JCCS

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今回の実証試験では、次のような成果が得られました。

①累計圧入量30万トンを達成し、システムを実証

実用プロジェクトと同じような設備構成で、大規模排出源である製油所のCO2を、分離・回収から貯留までの一貫システムとして実証試験し、目標であった圧入量30万トンを達成しました。

②安全性の実証

実証試験により、分離・回収から圧入・貯留までの一貫システムの操業および安全性や環境管理も確認されました。各種モニタリングおよび海洋環境調査を通じて、CCSが安全かつ安心できるシステムであることが確認できました。

また、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震のときは、実証実験をおこなっている苫小牧CCSセンターでも震度5弱程度の揺れを観測しましたが、地上設備に異常はなく、CO2の漏洩を示すデータも確認されませんでした。地震発生の翌月には、地震学などの専門家を含む有識者を招いて、この地震とCCSの関係について検討会を開催。この地震によるCO2の漏洩がないこととともに、CO2を地中に貯留することとこの地震との因果関係があるとは考えられないという共通認識を得ました。この検討結果はJCCSのWebサイトにも掲載されています。

③情報を公開し、CCSの理解をはかる

苫小牧や周辺地域をはじめ、広く国内への情報発信活動を実施することで、住民に理解を深めてもらうように努めています。CCSの現場見学会には、のべ1万人以上が来場し、例年おこなっているCCS講演会への出席者も、のべ2500人を超え、地元でのCCSへの認知度の向上につながっています。また、苫小牧市役所に設置したモニターを利用して実証試験のデータを公開するなど、地元での信頼を得るための活動もおこないました。

また、実用化に向けた操業技術を獲得できたことも成果といえるでしょう。このような都市圏の近辺で、住民の理解を得ながら、安全・安心にCCSの操業を完了できたのは、世界で唯一のことです。

実用化がせまるCCSについて、もっと深く知ろう

ここで、CCSについてよくある疑問にお答えしましょう。

Q.地中に埋めたCO2は、地上に漏れてこないのでしょうか?

CCSを実施するためには、CO2を貯留するすき間のある地層(貯留層)があること、その上がCO2を通さない地層(遮へい層)でおおわれていることが必要です。この遮へい層が、CO2が漏れないよう、フタの役目をします。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査では、地層を適切に選定し、適正な管理をおこなうことで、貯めたCO2を1000年にわたって貯留層に閉じ込めることが可能であると、報告されています。

CO2の貯留に適した地層と、設備を図解しています。

(出典)JCCS

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Q.貯留したCO2はどうなるのでしょうか?

CO2の貯留層は、主に砂岩(砂が押し固められた岩石)でできており、岩石の砂粒の間に、塩水で満たされたすき間があります。このすき間に、CO2を圧入します。貯留層の上部には遮へい層があるため、長期間にわたり安定して貯留することができます。長い年月を経過したCO2は、塩水に溶解したり、岩石のすき間で鉱物になると考えられています。

Q.CCSをおこなうことで、かえってCO2が排出されることはないのですか?

CCSにともなうエネルギー消費によって、一定量のCO2は排出されますが、苫小牧の施設では省エネ型の分離回収などを実施しているため、CCSにかかわるCO2排出量は圧入量の15%程度となっています。

Q.CO2を地下へ貯留することで地震が発生したりはしないでしょうか?

CCSをおこなう場合には、事前に地層の調査や評価をおこない、活断層などが近くにない安定した地層を選定するとともに、その地層が破壊されない圧力条件が維持されていることを確認しながら圧入をおこないます。このように、断層帯を避け、CO2が浸透しやすい地層に、地層を破壊しない条件を維持してCO2を閉じ込めているので、CCSによって地震が誘発されることはないと考えられています。

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次回は、CCSの今後の方向性についてご紹介します。

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