世界の温室効果ガス排出量と削減目標の「今」を知ろう――「エネルギー白書2025」から(前編)

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世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量は、増加傾向が続いています。2023年の世界全体の排出量は、CO2に換算して前年比で約1.3%増加し、過去最高水準に。各国とも、パリ協定(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)の「1.5℃目標」に向けてGHG排出削減に取り組んでいますが、その状況や取り組みの内容には違いがあります。日本をはじめ、主な国々のGHG排出削減目標やカーボンニュートラル実現に向けた取り組みについて、最新の「エネルギー白書2025」からピックアップし、2回に分けてご紹介します。

主要5か国・地域のGHG排出削減とカーボンニュートラル実現に向けた動向

前編では、日本を含めた主要5か国・地域(日本・米国・EU・英国・韓国)について、それぞれのGHG排出削減率の目標と進捗、その背景にある「最終エネルギー消費量」(最終的に消費者が使うすべてのエネルギー量から発電や輸送中のロスなどを差し引いたもの)の削減率、「非化石電源比率」(発電に占める再生可能エネルギー〔再エネ〕と原子力の比率の合計)をグラフで見ていきましょう。

なお、削減実績や排出実績については、森林によるCO2の取り込みや土地利用変化にともなうCO2の放出など(LULUCF分野)を考慮する、削減率の基準年および年度を各国の排出削減目標(NDC、「気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した『COP28』の結果は」参照)基準年および基準年度と合わせるなど、一定のルールのもとで算出しています。詳しくは「エネルギー白書2025」をご覧ください。

主要5か国・地域におけるGHG排出削減率・最終エネルギー消費量削減率・非化石電源比率
日本、米国、EU、英国、韓国のGHG削減の進捗状況について、それぞれ2050年に向けた 排出削減率の進捗と目標、2022~2023年までの最終エネルギー消費量削減率の推移、2022~2023年まで の非化石電源比率の推移を、それぞれ折れ線グラフで示しています。

※韓国は、UNFCCCに提出しているGHG排出量の最新データが2021年のため、GHG排出削減率は2021年までを記載。2021年以前は、GHG排出量をUNFCCCに提出している年のみ記載

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日本

これまでの進捗

日本のGHG排出量は減少傾向で、2023年度の削減実績は2013年度比で約24%です。産業別にみて、排出量が最も多いのはエネルギー転換部門(発電や石油精製など、輸入・生産されたエネルギー源をより使いやすい形に転換する工程)、2番目が製造・建設部門で、2部門の合計で排出量全体の約6割を占めています。最終エネルギー消費のうち、約3割を電力が占めていますが、電力部門における非化石電源比率は上昇傾向にあり、2023年度時点で31%となっています。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

日本は2050年カーボンニュートラル(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)実現に向けて、GHG排出量を2013年度比で2035年度に60%削減、2040年度に73%削減することをめざすと表明しました。今後は、2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」に基づき、省エネルギーや非化石転換を促進するとともに、脱炭素電源の拡大と系統整備などを進める方針です。

また、次世代エネルギーの確保に向けて、幅広い分野での活用が期待される「水素等」(アンモニア、合成燃料、合成メタンを含む)の社会実装を進めるとともに、電化や水素等を活用した非化石転換においては、脱炭素化が困難な分野でも脱炭素を進めるために、排出されたCO2を集めて地中に貯留するCCS(「日本でも事業化へ動き出した『CCS』技術(前編)〜世界中で加速するCCS事業への取り組み」参照)などを推進します。

米国

これまでの進捗

米国のGHG排出量は、2000年代後半をピークに減少傾向で、2022年時点の削減実績は2005年比で約17%となっています。産業別にみて、排出量が多いのは運輸部門とエネルギー転換部門で、2部門の合計で排出量全体の約6割を占めています。最終エネルギー消費量は2000年頃から横ばいで推移。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めていますが、電力部門における非化石電源比率は2010年頃から増加し、2022年時点で39%となっています。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

前バイデン政権は2050年カーボンニュートラルを宣言し、2035年に2005年比で61~66%のGHG排出削減目標を掲げ、省エネの促進、再エネや原子力のさらなる導入拡大、電化やネガティブエミッションなどの取り組みに向けた各種政策を実施してきました。

次世代エネルギーにおいても、クリーン水素の製造や、CCUSにおける税額控除などの支援を講じてきました。現在のトランプ政権では、クリーンエネルギー政策の大幅な転換を進めています。再エネや水素、CCUSなどの関連支出の一時停止を決定する一方で、原子力や地熱発電については促進する方針がうかがえます。

EU

これまでの進捗

EUのGHG排出量は2000年代半ばから減少傾向で、2022年時点の削減実績は1990年比で約33%です。産業別にみて、排出量が多いのは運輸部門とエネルギー転換部門で、2部門の合計で排出量全体の約5割を占めています。最終エネルギー消費量も2000年半ばから減少しています。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は2010年頃から増加し、2022年時点で61%となっています。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年には1990年比で少なくともGHG排出を55%削減する目標を掲げています。目標の実現に向けて、EUはエネルギーの脱ロシア依存を加速化しつつ、米国や中国などに対抗するため、欧州域内におけるグリーン産業支援を強化しています。2030年NDC(自国の温室効果ガスの排出削減目標)の更新版において、最終エネルギー消費量削減目標をこれまでの「EUリファレンスシナリオ(現行政策を前提としたエネルギー、温室効果ガス排出などの動向を示す基準シナリオ)2020」からさらに11.7%の削減を目標に掲げるなど省エネを進めるとともに、最終エネルギー消費における再エネの割合を2030年までに少なくとも42.5%とする目標も掲げています。

原子力については、その利用の可否を含めて各政府にゆだねられていますが、一部の国で原子力利用への回帰の動きも見られます。また、水素などの次世代エネルギーやCCUSについても、取り組みを促進しています。

英国

これまでの進捗

英国のGHG排出量は、1990年以降減少傾向で、2022年時点の削減実績は1990年比で約50%です。産業別にみると、運輸部門、家庭・業務部門、エネルギー転換部門の順に排出が多く、3部門の合計で排出量全体の約7割を占めています。最終エネルギー消費量は、2000年代前半に「気候変動税」や「排出量取引制度」といった経済的手法が相次いで導入されたことで、2000年代後半から減少傾向にあります。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は2010年頃から増加して、2022年時点で57%となっています。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2050年カーボンニュートラルに向けて、2035年に1990年比でGHG排出を少なくとも81%削減する目標を掲げています。2030年の最終エネルギー消費量15%削減(2021年比)を目標に、省エネ技術開発の促進、住宅・建築物における低炭素暖房システムの導入、EVの導入などの省エネを推進。また、「エネルギー安全保障戦略」(2022年)に基づいて、再エネの拡大と原子力の活用による電源の非化石化を進めています。

次世代エネルギーについては、2030年までの低炭素水素の生産能力の目標を10GW(うち6GWはグリーン水素)と掲げ、水素の製造プロジェクトへの支援を継続。CCUSについては、2030年までに年間2,000〜3,000万トンの回収を目標としています。

韓国

これまでの進捗

韓国のGHG排出量は、2018年をピークに減少しており、2021年時点の削減実績は2018年比で約0.4%です。産業別にみて、排出量がもっとも多いのはエネルギー転換部門で、排出量全体の約4割を占めています。最終エネルギー消費量は一貫して増加傾向でしたが、省エネなどによって2010年代後半から横ばい状態となっています。最終エネルギー消費のうち約3割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は2010年代半ばから増加し、2022年時点で36%です。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年に2018年比でGHG排出を40%削減する目標を掲げています。省エネについては、産業分野における高効率機器の導入支援、住宅・建築物の省エネ基準の引き上げや公共建築物の改修、EVの導入などを進める方針を示しています。再エネと原子力をバランスよく拡大させる方針のもと、再エネでは洋上風力の拡大を進め、原子力では2038年までに大型原子炉と小型モジュール炉の建設を計画しています。

次世代エネルギーについては、2030年に100万トン、2050年に500万トンのクリーン水素を生産する目標を掲げているほか、CCUSについては、2030年までに12億ドルの支援を発表しました。

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後編では、カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・中国の5カ国についてご紹介します。

主要5か国・地域の数値出典
日本・米国・EU・英国・韓国の数値出典一覧を記載しています。

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長官官房 総務課 調査広報室

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