持続可能燃料と水素の国際会議が大阪で開催!万博視察も交えて日本の取り組みを世界へ発信(後編)
持続可能燃料と水素の国際会議が大阪で開催!万博視察も交えて日本の取り組みを世界へ発信(前編)
脱炭素と経済成長を同時に実現!「GX政策」の今
最新の「エネルギー白書2025」で日本と世界のエネルギー動向を知ろう!
日本は、石炭や石油などの化石エネルギー中心の産業構造・社会構造から、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心に転換する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を目指し、さまざまな次世代エネルギーや脱炭素技術の開発と利活用に取り組んでいます。その普及には、国際的な協力や官民連携が欠かせません。そこで、2025年9月15日、大阪・関西万博に沸く大阪市で、「持続可能燃料閣僚会議」と「第7回水素閣僚会議」という2つの国際会議が開かれました。会議のようすを現地レポートも交えてご紹介するシリーズの2回目は、水素閣僚会議と万博視察の様子をお伝えします。
「水素閣僚会議」は、初開催となった2018年から数えて(「世界初!水素社会の実現に向けて閣僚レベルで議論する『水素閣僚会議』」参照)2025年で第7回目を迎える、「東京GXウィーク」の中でもっとも初期から実施されている国際会議のひとつです。今回も、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共催により、30の各国閣僚と代表団が会議に参加。「需要創出」をキーワードに、各国の水素政策の進捗共有や、政策連携・国際協力の可能性が議論されました。
水素は、カーボンニュートラル実現に向けカギとなるエネルギーであり、かつ、エネルギー安全保障の観点から重要な供給源の多様化にも役立つものです。2017年以降、世界では次々に「国家水素戦略」が策定され、現在では65か国が、2030年およびそれ以降の目標達成に向けて具体的な取り組みを進めています。今回の会議冒頭では、IEAから「Global Hydrogen Review 2025」が発表され、2030年までに低炭素水素の生産量は37百万トンとなる見込みであり、そのうち、稼働中または最終投資決定(FID)済の低炭素水素プロジェクトは4.2百万トン/年(前年比5倍。2024年は新規に1900万トンが長期供給契約[オフテイク契約]済)と報告されました。また、出席した各国・代表団から水素政策などの進捗の共有がおこなわれ、水素協議会(Hydrogen Council)からは「世界では500件超のプロジェクトがFID済または建設・稼働済となっており、これらの投資額は1,100億ドル超がコミット済。一方で、過去18ヶ月間で正式に中止となったプロジェクトは約50件に過ぎない」といった共有がなされるなど、水素利活用の着実な歩みが確認されました。このような水素の導入拡大を、今後いっそう加速していくことが必要です。一方、近年世界的に進むインフレの影響もあり、水素供給コストは化石エネルギーにくらべて高水準にとどまっており、コスト競争力を持たせるための政策的支援が求められています。そこで今回の会議のテーマとなったのが、水素に関する世界的な「需要の創出」です。水素の利用が拡大すれば、取引規模も拡大し、それによる水素の供給コストの低下、さらなる需要の創出…というサイクルが生まれます。このサイクルを成立させるには、世界各国が水素利用拡大に向けた政策を引き続き進めていくこと、水素サプライチェーンにおける各分野のイノベーションをうながすことが重要です。
会議に出席した各国代表・機関に水素の需要創出が必要であることを訴える武藤経済産業大臣
加えて、ひとつの国が単独でサプライチェーンを構築するのは不可能であるため、グローバルな「需要創出」が必要となります。より多くの国が水素の需要家となり、各国需給の点と点を繋いでいくことにより、国際的なサプライチェーンに成長させていくことが求められているのです。水素閣僚会議では、これらの「需要創出」の重要性が確認されました。また、水素閣僚会議に出席した各国閣僚と代表団は、IEA、世界銀行、国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)などの組織が、課題に対して取り組むことを求めると宣言しました。COP、G7、G20などの枠組みにおける協力が重要であることも合意されました。なお、今回の「水素閣僚会議」からは、「燃料アンモニア国際会議」を統合することで、水素とその派生物に関する利用拡大に向け、統合的に政策の議論を推進していくこととなりました(「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先 」参照)。
同日には、川崎重工業、トヨタ自動車、関西電力の日本企業3社と、ダイムラートラック、ハンブルク自由港倉庫建築組合(HHLA)のドイツ企業2社による、「日独連携による水素サプライチェーン構築に向けた覚書」が、資源エネルギー庁長官とドイツ経済・エネルギー省第二総局長の立ち合いのもと締結されました。
日本企業3社・ドイツ企業2社により水素サプライチェーンに関するMOU締結
覚書を締結した各企業は、水素の大量輸送の要となる液化水素や、水素需要の核となるモビリティおよび電力分野における世界のリーディング・カンパニーです。また、HHLAは水素の運搬において重要な港湾のインフラ整備を担っています。この覚書により、5社が協働して、水素のグローバルな利活用推進のため日独の需要国としての連携に取り組み、水素製造および出荷拠点の開発を通じた、経済性の高い水素サプライチェーンの構築を目指します。
2つの国際会議終了後は、希望者による大阪・関西万博へのエクスカーションを実施しました。万博会場には、まずは日本初となる合成燃料で走行するバスで移動。バス内では、合成燃料の製造フローや日本企業による合成燃料に関する取り組みなどが紹介されました。
日本初となる合成燃料バス
合成燃料の製造フローをわかりやすく伝える動画
さらに、水素燃料電池船「まほろば」に乗って、海から万博会場へアプローチ。
水素燃料電池船「まほろば」と視察に参加した会議出席者
燃料のにおいや騒音がなく静かな船内では、「まほろば」のしくみや水素について解説するムービーも上映されました。参加した各国代表・機関の人々は、ユニークな建物も並ぶ大阪の風景を海上から眺めながら、30分程のクルーズを楽しみました。
水素燃料電池船「まほろば」船内では、あちこちで記念撮影や国を超えた談笑が
到着した万博会場内では、まず、博覧会協会と12の企業・団体がアトラクションを提供する「未来の都市パビリオン」を訪問。さまざまなアトラクションを通じてシミュレーション体験できる「Society 5.0」の未来社会の姿や、水素関連の技術の展示を視察しました。
さまざまな視覚技術を使って「Society 5.0」を表現した「未来の都市パビリオン」
川崎重工業の水素で動くオフロードパーソナルモビリティ「CORLEO」のコンセプトモデル展示を撮影する視察参加者
商船三井の洋上風力発電+水素生産設備が融合した次世代船「ウインドハンター」模型にも興味津々
また、一般社団法人日本ガス協会が出展する「ガスパビリオン おばけワンダーランド」では、「未来のエネルギー技術が集結!大阪・関西万博の見どころをチェック ~カーボンリサイクル編」でもご紹介したXR空間を実際に体験。GHG削減の大切さや合成メタンの可能性を子どもたちにわかりやすく理解してもらえるよう、かわいらしいオリジナルキャラクターやワクワクするストーリーといった工夫がこらされた展示を楽しみました。
視察参加者はVRやARなど先端映像技術を実際に体感
さらに、大阪・関西万博会場が臨む港には、ちょうど日本に着岸していた液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の姿も!視察参加者は、水素サプライチェーンの最前線の姿を写真に納めながら、説明に聞き入っていました。
「すいそ ふろんてぃあ」
「すいそ ふろんてぃあ」の説明を聞いたり撮影したりする視察参加者
2025年9月15日は、世界各国が集まって持続可能燃料や水素に関する重要な政策を議論し、また次世代エネルギーの利活用に最先端で取り組む日本の技術を体感する一日となりました。次世代エネルギーのこれからに注目しましょう!
省エネルギー・新エネルギー部 水素・アンモニア課資源・燃料部 燃料供給基盤整備課
長官官房 総務課 調査広報室
※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。
2025年5月22日より、新たな燃料油価格支援策をおこなうことが決まりました。今回の支援策について、Q&A方式でご紹介します。