「エネルギー基本計画」をもっと読み解く③:大幅な拡大をめざす再生可能エネルギー

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(出典)左上・右下:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、右上:株式会社東芝、左下:積水化学工業株式会社

2025年2月、「第7次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。世界では、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機や中東情勢の不安定化、それにともなう各種コストの増大など、エネルギー安全保障の問題に直面しています。そのなかで、脱炭素化に向けての取り組みや、DX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)の進展により今後増えるとも予想される電力需要への対応も必須です。将来的なエネルギー動向が不透明な状態で、日本はどのようなかじ取りをしていくのか、シリーズで解説していきます。

20年ぶりに電力需要が増加の見通し、あらゆる「脱炭素電源」の最大限の活用が必要

日本では今、新たな半導体工場の設立や、データセンターの需要にともない、国内の電力需要が20年ぶりに増加していく見通しとなっています。同時に、2050年カーボンニュートラル実現に向けて脱炭素化も進める必要があります。

国内の電力需要の見通し
1965年度から2023年度までの国内の最終電力消費の推移と、2023年度から2050年度までの電力需要の見通しをグラフで示しています。

(出典)総合エネルギー統計

こうした状況を踏まえ、太陽光や風力、水力、地熱といった再生可能エネルギー(再エネ)や、原子力などの脱炭素電源の供給力を大幅に強化しなくてはなりません。

もし、脱炭素電源をじゅうぶんに拡大できなければ、国内の産業にも影響が出ることが予想され、日本経済の成長を妨げるおそれもあります。

こうした状況下では、再エネと原子力のどちらを選択すべきかといった二項対立的な議論ではなく、ともに脱炭素電源として、最大限活用することが必要です。また今後、電力を安定して供給していくために、脱炭素電源に対する大規模な投資も欠かせません。

電源構成における再エネの割合を大幅に拡大

今回は脱炭素電源のなかで、第7次エネルギー基本計画において主力電源として最大限導入することとされている再生可能エネルギー(再エネ)についてご紹介します。

第7次エネルギー基本計画および2040年度におけるエネルギー需給見通しでは、再エネについて以下のような方針が掲げられました。

「S+3E」を大前提に進める

日本のエネルギーの基本方針は「S+3E」。安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する考え方です。今までと同様、これを大前提に、脱炭素化に向けて再エネの主力電源化を徹底していきます。

太陽光発電…次世代型の導入を進める

太陽光発電の導入量は、2023年度の9.8%から、2040年度には23~29%へと、拡大を見通しています。日本の太陽光設備容量は、すでに国土面積当たりの導入量は主要国でも最大級で、地面などに平置きできる適地は減りつつあります。今後は屋根や壁面など、耐荷重性の低い場所にも設置できる、ペロブスカイト太陽電池など次世代型太陽電池の導入も進めていきます。

国土面積あたりの太陽光設備容量
主要国8カ国の国土面積あたりの太陽光設備容量を、グラフで比較しています。日本は最大級の導入量です。

(出典)外務省HP、「IEA Renewables 2023」、IEAデータベース、FIT認定量などより作成

風力発電…洋上風力の設置範囲を拡大する

風力発電の導入量は、2023年度の1.1%から、2040年度には4~8%程度へと、大幅な拡大を見通しています。陸上風力発電は、認定されながらまだ稼働していない案件を運転開始にいたらせることが課題です。洋上風力発電は、これから案件の増加が見込まれており、設置する範囲を、領海だけでなく「排他的経済水域(EEZ)」まで広げていくことをめざしています。

地熱・水力・バイオマス発電…地域との共生を緊密にはかる

地熱発電については、「独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)が先導的に資源量調査を進め、開発のリスクやコストの低減をはかりながら、温泉事業者などの地域の関係者と共生していくことをめざします。

水力発電は、新しいダムなどの大規模開発は見込めず、また、開発が可能な中小規模の水力発電の適地も、山間部などの奥地へと転じていることから、開発期間が長期化する傾向があります。こちらも開発のリスクやコストの低減をはかります。また、古い設備の効率化なども進め、農業をはじめ地域関係者との共生をはかっていきます。

バイオマス発電は、2030年度の4.1%から、2040年度には5~6%程度へと、拡大を見通しています。今後も燃料となる木材を有効に利活用し、事業の安定的な継続をはかっていきます。

再エネ導入の課題をどう克服する?

これまでのエネルギー基本計画でも、再エネの導入拡大、主力電源化はうたわれてきましたが、第7次エネルギー基本計画では、電力需要の増加に向けた、再エネを含む脱炭素電源のさらなる拡大をはかる方針が示されています。再エネを主力電源として最大限導入するために克服すべき課題として、以下のものが挙げられます。

①地域との共生

太陽光パネルを傾斜地に設置するといった、安全面での懸念が増加しています。住民への説明不足により、地域トラブルが発生しているケースもあることから、FIT制度(固定価格買取制度)・FIP制度では、関係法令の遵守を求めるとともに、地域住民への説明会の実施を認定要件に求めています。こうした取り組みを進め、信頼できる再エネ事業を進めていくことが大切です。

地域のトラブル例:土砂崩れで生じた崩落
太陽光パネルを設置した傾斜地で、土砂崩れが起きたときの写真です。

②国民負担の抑制

再エネのFIT制度が始まった2012年以降、国民が再エネを買い取る費用の一部を負担しています(再エネ賦課金:2025年度3.98円/kWh)。とくに、FIT制度開始直後の相対的に高い買取価格の割合が大きいため、買取価格の引き下げや入札制度の活用などを進め、国民の負担の軽減をめざします。さらに、2022年4月より、買取価格を維持したまま運転開始の進捗が見られない、未稼働案件のFIT/FIP認定を失効させる制度を導入しました。これまでに約8万件の認定が失効となり、大幅な国民負担低減につながりました。

③出力変動への対応

電力は、つねに電気を使う量と発電する量を同じにし、バランスをとることが必要です。再エネは天候によって出力(発電した電気の量)が変動するため、需要と供給のバランスをとるための対応が必須です。そこで、地域間の連系線の整備や、発電量を調整するための蓄電池の整備などを進めていきます。

電力需給のイメージ
天候によって出力の変動する再エネについて、どのように電力需給を調整しているかを図解しています。

④使用済み太陽光パネルへの対応

2030年代後半以降、使用済み太陽光パネルの排出量は、年間最大50万トン程度と、大幅な増加が見込まれています。現在はリサイクルが義務付けられていないため、最終処分場の容量を圧迫するおそれもあります。そこで、適切なリサイクルが実施される環境づくりに取り組んでいきます。

太陽光パネルの排出量予測
2025年から2050年までの太陽光パネルの排出見込量を、グラフで示しています。

⑤イノベーションの加速

再エネの導入拡大、主力電源化に向けては、新しい技術を使った、「新しい再エネ」を導入することも必要です。そして、新しい技術の導入にあたっては、日本の産業競争力強化も視野に入れ、国内の産業チェーンの確立など、日本の「技術自給率」の向上もあわせてはかっていくことをめざしています。

ペロブスカイト太陽電池

日本では、平地においては太陽光発電設備を新たに設置できる適地が減少しつつあります。太陽光の場合は、耐荷重性の低い屋根など、これまで導入できなかった場所でも設置できる、薄くて軽いペロブスカイト太陽電池の活用が期待されます。

ペロブスカイト太陽電池の主要な原材料であるヨウ素は、日本が世界第2位の産出量(シェア約30%)であるため、強靭なサプライチェーンが構築できます。それにより、エネルギーの安定供給にも貢献できるため、今後は早期の社会実装に向けて、事業環境の整備を進めていきます。

ヨウ素の国際シェア
世界におけるヨウ素の生産シェアと、ヨウ素の用途について、それぞれグラフで示しています。

(出典)株式会社合同資源HP

洋上風力

また、洋上風力発電については、設置できる適地を広げるために、EEZで実施できる制度整備を進めます。コストの低減や大量生産に向けた技術の確立、国内のサプライチェーン構築など、社会実装に向けた取り組みをしていきます。

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今後は、以上で述べた、地域との共生、国民負担の抑制、出力変動への対応、使用済み太陽光パネルへの対応、そして「新しい再エネ」の導入に向けたイノベーションの加速といった課題を克服し、再エネを主力電源として最大限導入すべく、取り組みを進めていきます。

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