「エネルギー基本計画」をもっと読み解く②:技術開発から社会実装へ!水素社会実現をめざして前進

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日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」が2025年2月に閣議決定されました。世界では今、ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機や、それにともなう各種コストの増大など、エネルギー安全保障の問題に直面しています。そのなかで、脱炭素化に向けても取り組むと同時に、今後増えると予想される電力需要に対応する必要にも迫られています。将来的なエネルギー動向が不透明な状態で、日本はどのようなかじ取りをしていくのか、シリーズで解説していきます。今回は注目を集める、水素・アンモニアなどの次世代エネルギー について取り上げます。

第7次エネ基では、次世代エネルギーの積極的な導入を打ち出す

水素と、その化合物であるアンモニア、合成メタン、合成燃料といった次世代エネルギー(日本の政策上、これらはまとめて「水素等」と呼ばれます)は、2050年カーボンニュートラルに向けて、鉄鋼、化学、運輸、産業熱、発電など幅広い分野での活用が見込まれるエネルギーです。とくに、これまでの技術からの転換がむずかしく、CO2排出削減が困難な産業での活用が期待されています。

第7次エネルギー基本計画でも、これら次世代エネルギーの導入を推進し、供給体制を強化していく方針が明記されています。

今後の日本の政策の方向性を、主に水素とアンモニアに焦点を当てて、諸外国の動向とあわせて見ていきます。

世界的に技術開発から商用化へ移行

世界においては、これまでの技術開発支援のフェーズから、低炭素水素等(製造時のCO2排出量が一定値以下などの要件を満たした水素等)の製造や、設備投資への支援をおこなう段階に入りつつあります。

最近では、インフレに伴う開発費の増大や政策の不透明感による水素プロジェクトへの投資の停滞などにより、急激な盛り上がりを見せた水素ブームはゆるやかになってきました。その一方で、欧州を中心に長期間の政府支援は着々と継続しており、水素関連プロジェクトは、着実に進展しています。一時のブームでなく、真剣な事業者は、2030年よりも早い商業運転開始をめざしています。

たとえば、欧州連合(EU)では、グリーン水素(「次世代エネルギー『水素』、そもそもどうやってつくる?」参照)生産への投資と普及をめざす「欧州水素銀行」を立ち上げているほか、英国やドイツにおいて、政府支援が着実に進展しています。また、米国では、「インフレ削減法(IRA)」による水素製造時の税額控除が用意されています。

各国で動き出す水素政策(支援と規制)
EU、英国、ドイツにおける水素政策について、表にまとめています。

また、「水素協議会」(Hydrogen Council:水素に対して共通のビジョンを持つ企業が連携を図る、CEO主導のグローバルイニシアチブ)のレポートでも、現在、500件超のプロジェクトが最終投資決定到達済み、または建設・稼働済みであり、1,100億ドル以上の投資が今後見込まれる一方で、過去18ヶ月間で正式に中止となったプロジェクトは約50件に過ぎないとされています。実際、水素の生産能力、導入容量は、ここ数年でともに大きく拡大しており、海外では、数十メガワット(MW)規模の水電解装置が稼働した例が出てきています。数百MW規模、ギガワット(GW)規模の水電解装置導入プロジェクトの発表や、量産体制構築などの動きもあります。さまざまな課題はありますが、水素社会推進に向けたフェーズは、技術開発段階から社会実装段階へと、着実に変わってきています。そして、日本もその流れに乗り、水素社会実現に向けて歩みを進めています。

水素社会実現に向けて、さまざまな支援策で後押し

日本は、2017年に、世界で初めての「水素基本戦略」を策定しました(「カーボンフリーな水素社会の構築を目指す『水素基本戦略』」参照)。2023年にはこの戦略を改訂し、これまでの技術確立を主体とした政策から、商用段階を視野に入れ、産業戦略と保安戦略を新たに位置づけています。さらに翌2024年には、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)」が成立し、低炭素水素等の導入拡大に向けて、規制と支援を一体化した制度をつくり、水素社会をめざすための環境を整備してきました。

水素等を巡るこれまでの流れ
2017年から2025年2月までの水素等を巡る日本の政策について、フローチャートで示しています。

技術面においても、日本は、水素 の製造や輸送技術、燃焼技術などの複数の分野で先端を行き、世界をリードしてきました。今後、世界規模で拡大していく市場でビジネスでも勝っていけるよう、日本が強みを持つ分野でさらに競争力を高めていくべく、先行的な企業への設備投資を促進していきます。

また、今後、これらの技術を実社会で活用していくためには、国内・国外含め、水素をはじめとする次世代エネルギーを「つくり」「運び」「利用する」という大規模なサプライチェーンの構築が欠かせません(「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (前編)サプライチェーンの現状は?」参照)。

水素等サプライチェーンの拡大と強み
水素等を「つくる」から「はこぶ(ためる)」、「つかう」までの サプライチェーンにおいて、それぞれに必要な技術や主なプレイヤー、日本の立ち位置などを表にまとめています。

現在、商用化されたサプライチェーンの構築に向けてさまざまな支援策が打ち出されています。

たとえば、水素 はまだコストが高く、既存の原料・燃料と大きな価格差があり、これが課題となっています。そこで、国内製造にかかるコストや、海外製造・海上輸送にかかるコストなどを支援対象とし、水素の価格と化石燃料の価格との差に着目して助成金を交付する「価格差に着目した支援」が、3兆円規模で進められています。

また、水素を製造するための水電解装置の技術開発、輸送・貯蔵する際に必要なタンクやパイプラインなどのインフラ整備、商用車FCVの導入、水素ステーションの普及拡大など、技術開発から社会実装に至るまで幅広い支援が進められています。

水素等サプライチェーンの構築に向けた支援策
水素等 のサプライチェーン構築に向けて、研究開発、社会実装に向けた大規模開発や実証、設備投資と社会実装のそれぞれの分野における支援策を表にまとめています。

アンモニアの活用は、アジアへの展開も視野に

アンモニアは、肥料や化学製品の原料として使われており、規模は小さいものの、すでにサプライチェーンが存在しています。欧州ではおもに水素を運ぶ際の「キャリア(輸送媒体)」として、アジアではCO2排出量を抑えるため石炭火力発電に混ぜて燃やす(混焼)燃料として、また国際海運では船舶用燃料としても注目を集めています。国内だけでなく、アジアを中心とする海外市場への早期の展開も見すえて、製造・利用の両面で技術開発と実証を進めていきます。また、アンモニアは水素から合成されますが、今、世界でその製造プロジェクトが立ち上がりつつあります。

水素やアンモニアのコストの低減と利用の拡大を両輪で推進

第7次エネルギー基本計画では、水素社会推進法に基づいて低炭素水素等 の大規模なサプライチェーンの構築を強力に支援しつつ、諸外国や企業の動向も踏まえ、規制と支援との一体的な政策を講じることで、コストの低減と利用の拡大を両輪で進めることが明記されました。

水素等は、カーボンニュートラルの実現に向けて鍵となるエネルギーです。さらに水素社会を広げていくためには、国際的に「需要創出」を図っていくことが不可欠です。2025年9月15日に開催された「水素閣僚会議」の場でも、世界各国・国際機関とともに取り組んでいくことを確認しました。引き続き、日本の持つ先進的な技術を活用して市場を獲得し、「技術で勝って、ビジネスでも勝つ」ことをめざして、産業競争力を強化していきます。そして、世界の脱炭素化に貢献するために、取り組みを促進していきます。

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