持続可能燃料と水素の国際会議が大阪で開催!万博視察も交えて日本の取り組みを世界へ発信(前編)
脱炭素と経済成長を同時に実現!「GX政策」の今
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「エネルギー基本計画」をもっと読み解く②:技術開発から社会実装へ!水素社会実現をめざして前進
日本は、石炭や石油などの化石エネルギー中心の産業構造・社会構造から、CO2を排出しないクリーンエネルギー中心に転換する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」を目指し、さまざまな次世代エネルギーや脱炭素技術の開発と利活用に取り組んでいます。その普及には、国際的な協力や官民連携が欠かせません。そこで、2025年9月15日、大阪・関西万博に沸く大阪市で、「持続可能燃料閣僚会議」と「第7回水素閣僚会議」という2つの国際会議が開かれました。次世代エネルギーに関する日本のさまざまな取り組みも発信された会議のようすを、2回にわたってレポートします。
毎年秋になると、日本では、「東京GXウィーク」として、GXに関連する国際会議が集中して開催されます。2つの国際会議も、2025年の「GXウィーク」の一環として実施されました。
このうち「持続可能燃料閣僚会議」は、今年初開催されたもので、航空、海運、道路交通、産業などさまざまな分野における「持続可能な燃料」をテーマとしています。「持続可能燃料」とは、バイオ燃料、水素、アンモニア、合成燃料、合成メタンといった、従来の化石燃料に比べてCO2削減効果があるサステナブル(持続可能)な次世代燃料のこと。たとえば、航空分野ではバイオジェット燃料など「SAF」の導入拡大が進められています(「飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料『SAF』とは?」参照)。また、自動車分野では、バイオエタノールやバイオディーゼルといったバイオ燃料に加えて、CO2と水素を合成してつくる「合成燃料」も期待されています(「ガソリンに代わる新燃料の原料は、なんとCO2!?」参照)。カーボンニュートラル実現のためには、こうした持続可能燃料の生産や利活用を拡大することが重要です。そこで、2024年5月の日ブラジル首脳会議において立ち上げられた「持続可能な燃料とモビリティのためのイニシアティブ:ISFM(アイスファム)」の一環として、日本とブラジルにより、「持続可能燃料閣僚会議」が共催されたのです(ブラジルは、2025年11月開催予定の「COP30」の議長国でもあります)。
武藤経済産業大臣
村瀬資源エネルギー庁長官
コルテス在日本ブラジル大使
シルヴェイラ鉱山エネルギー大臣のビデオメッセージ
会議に集まった、34の国や機関は、カーボンニュートラルの実現には多様な道筋をとることが必要であり、その文脈で、持続可能燃料は重要な役割を果たすという認識を共有しました。特に、持続可能燃料は、温室効果ガス排出の削減につながるほか、エネルギー安全保障や経済成長、雇用確保への貢献といった観点からさまざまな利益をもたらします。また、既存のインフラなどが活用でき、インフラ導入コストが抑えられるほか、輸送・貯蔵が比較的容易で、災害時にも活用しやすく、エネルギー安全保障にも貢献するというメリットがあります。
このような持続可能な燃料の生産と利用の拡大に向けては、各国の異なる出発点や状況も考慮しながら、航空や船舶、道路交通、産業などさまざまな分野において連携することが必要です。目標やロードマップの策定、公共調達の活用を通じた需要創出、GHG排出・削減量に関する透明性の高い測定ルール策定に向けた協力、主要な技術やインフラのコスト削減に向けた研究・イノベーション支援、新興国や発展途上国の利用を拡大するための資金調達メカニズムなどといった具体的な取り組みも求められます。また、航空の領域では国際民間航空機関(ICAO)が、船舶の領域では国際海事機関(IMO)が、それぞれの領域で脱炭素化を目指していることから、こうした各領域のコミットメントにも留意しながら取り組みを進めていく必要があります。さらに、航空、船舶に加え、道路交通の領域においても、持続可能燃料と高性能モビリティの組み合わせによって脱炭素化を進めることが重要であるという認識も共有され、この会議の大きな成果となりました。会議では、国際エネルギー機関(IEA)のレポート「持続可能燃料の供給―2035年への道筋」も初めて発表されました(※会議後2025年10月13日付で公表)。冒頭、IEAによる同レポートのプレゼンテーションにおいて、「持続可能な燃料の生産と利用は、2035年までに2024年比で少なくとも4倍になる」という見込みが示され、その実現に向けて、各国・各機関が必要な取り組みや協力のありかたについて議論しました。また、民間部門でも、日・ブラジルの自動車業界による取り組みとして、一般社団法人日本自動車工業会が、ブラジル自動車工業会との共同ステートメントを発表するなど、持続可能燃料の拡大に向けたイニシアティブが動き出していることが紹介されました。
今回の「持続可能燃料閣僚会議」と「第7回水素閣僚会議」では、会議の内容以外でも日本の次世代エネルギーの取り組みを世界に伝えるべく、さまざまな展示物が会場に用意されました。両閣僚会議の会場には、トヨタ自動車がブラジルで生産している、ガソリンとバイオエタノールいずれの燃料でも走行可能で、電気との併用により低燃費を実現した「フレックス燃料ハイブリッド車」と、水素を燃焼して走るカワサキモータースの「水素エンジンモーターサイクル」の実物を展示。
会場に展示されたトヨタ自動車の「フレックス燃料ハイブリッド車」
カワサキモータースの「水素エンジンモーターサイクル」
大きな自動車やバイクの実物展示に、閣僚や代表団が内部をのぞき込んだり写真を撮ったりする姿が見られました。ほかにも、燃料電池と蓄電池のハイブリッド動力で航行する水素燃料電池船「まほろば」の模型や、日本初の水素供給事業として水素パイプラインや純水素型燃料電池を整備した住宅・商業施設「HARUMI FLAG」のジオラマなどを展示。また、会議場やランチ会場には持続可能燃料や水素・アンモニアに関するパネルや燃料も展示されました。特にランチ会場では、道路交通部門における持続可能燃料についての具体的な取り組みが日系企業から紹介され、会議参加者の関心を惹いていました。
「HARUMI FLAG」のジオラマ
日本企業の持続可能燃料や水素・アンモニアの取り組みを紹介するパネル展示
興味深そうに説明を聞く会議出席者
会議場やランチ会場のパネル前ではあちこちに人の輪が
さらに、会議の間のランチブレークでは、水素の持つ可能性を伝えるべく、水素を燃料として調理した料理がふるまわれました。H2&DX社会研究所が販売する世界初の「水素コンロ」は、水素を燃焼させることで水蒸気を生じさせ、食材を蒸し焼き状態にします。このコンロで調理した地鶏は、食材の水分・旨味を閉じ込めたジューシーな焼き上がりになっていることが紹介され、一般的なガスコンロ調理との食べ比べもおこなわれました。
手前が水素コンロ、奥が一般的なガスコンロ
水素コンロで調理された鶏肉を味わう武藤経済産業大臣
また、UCC上島珈琲のグリーン水素を使った「水素焙煎コーヒー」もふるまわれました。水素焙煎は焙煎時の温度調整の際、従来の都市ガス焙煎よりも細やかに、幅広いバリエーションの焙煎を可能とし、それにより水素焙煎ならではのフルーティな味わいが楽しめることが紹介されました。
水素焙煎コーヒーを説明するパネル
実際に味わえるコーヒーサーバも用意
水素焙煎コーヒーの説明を聞く武藤経済産業大臣
コーヒーを片手に談笑する会議出席者
会議出席者は鶏肉やコーヒーに舌鼓をうちながら、各社の語る水素調理の将来性について耳を傾けていました。後編では、「水素閣僚会議」で話し合われたポイントと、会議後に実施された関西・大阪万博の視察の様子をご紹介します。
資源・燃料部 燃料供給基盤整備課省エネルギー・新エネルギー部 水素・アンモニア課長官官房 国際課
長官官房 総務課 調査広報室
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2025年2月、第7次エネルギー基本計画と同時に、国家戦略としてGX2040ビジョンが閣議決定されました。今回は、GXを推進するための今後の見通しや支援策など、日本のGX政策の今をご紹介します。