火力発電を“ゼロ・エミッション”に!日本が開発・実施事業に取り組む最新技術を世界へ発信

国際展示会「POWERGEN International 2022」のジャパンブースの写真です。

世界で排出されるCO2など温室効果ガスの多くは、石炭や石油など化石燃料のエネルギー利用から発生しています。そのため、エネルギーの問題とカーボンニュートラルの実現は、密接な関係にあります。エネルギー事情は国によってさまざまであることから、日本は、現在あるいは中長期的なエネルギー安定供給をじゅうぶんに確保しつつ気候変動にも対応する、バランスのとれたエネルギーの移行(トランジション)を進める必要があると考え、世界に提言しています。火力発電のゼロ・エミッション化は、そうした移行を進めるにあたって重要となる要素です。今回は、火力発電のゼロ・エミッション化を世界に広めるため、日本がおこなっている情報発信の様子をご紹介しましょう。

なぜ、火力発電をゼロ・エミッション化するの?

バランスのとれたエネルギートランジションのためには、トランジションをおこないながらエネルギーの「S+3E(安全性+エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合)」も追求していくことが基本方針となります。

化石燃料を使用した火力発電は、CO2を多く排出することから抑制策が求められていますが、一方で、「S+3E」において重要な役割をはたしています。たとえば「供給力」です。

現時点で火力発電は日本の電源(電気をつくる方法)構成の7割以上を占めており、その「供給力」は圧倒的です。さらに、火力発電は、天候などに左右される再生可能エネルギー(再エネ)の出力(発電量)をおぎなう「調整力」も持っています。CO2削減のために火力発電を急激に減らせば、こうした機能がそこなわれ、電力の安定供給に支障が出るおそれもあります。

そこで、現在火力発電がはたしている役割はそのままに、日本がめざす「2050年カーボンニュートラル」(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)の実現も狙うべく、日本で研究が進められているのが、火力発電をゼロ・エミッション化するさまざまな技術です。

国際展示会「POWERGEN International 2022」でゼロ・エミッション技術を世界に発信

日本の“バランスのとれたエネルギートランジション”という考え方と、それを実現するためのゼロ・エミッション化技術は、さまざまな場で世界に向け発信されています。

2022年5月23日〜25日には、米国・ダラスで開催された電力業界向けの国際展示会「POWERGEN International 2022」に日本もJapanパビリオンを出展し、「ゼロ・エミッション火力プラント(発電所)」をテーマにさまざまな技術を紹介しました。

「POWERGEN International」とは、世界から電力業界に関する企業や人々が集まる大規模な見本市です。2022年は、24ヶ国から集まった53の企業・団体が出展しました。

国際展示会「POWERGEN International 2022」のジャパンブースの写真です。

ゼロ・エミッション火力プラントを支える4つの技術

Japanパビリオンでは、以下の4つのゼロ・エミッション化技術が展示されました。

水素エネルギー

発電における燃料として活用が期待されています。天然ガスの火力発電に混ぜたり(混焼)、水素だけを燃料とする火力発電(専焼)を開発することで、発電時にCO2を排出せず、また調整力などの機能もそなえることができます。「CCS」「CCUS」技術と組み合わせれば、実質的にCO2排出ゼロの火力プラントが実現可能です。

燃料アンモニア

発電における燃料として活用。石炭との混焼がかんたんであることから、まずは石炭火力発電への利用が見込まれています。アンモニア専焼(アンモニア火力発電)が実現すれば、火力発電設備からの大幅なCO2排出量削減が見込まれます。

CCS

火力発電所で発生するCO2を分離、回収して貯留することでCO2を削減する方法です。今後、燃料としての活用が期待されている水素や燃料アンモニアが、製造時に排出するCO2を削減する方法としても利用が考えられており、ゼロ・エミッション火力プラント実現にかかせない技術といえます。

カーボンリサイクル/CCUS

火力発電所で分離・回収したCO2を、工業製品やプラスチックなどの原料として利用する方法です。将来的に、この回収したCO2と再生可能エネルギー由来の水素とを反応させ、燃料となるメタンを低コストで生成できるようになれば、CO2自体をエネルギーとして活用することも可能になると考えられます。

来場者の反応

来場者の反応はおおむね好評で、日本が提案する「ゼロ・エミッション火力プラント」を通じて、世界のエネルギー事業者たちの「カーボンニュートラル」実現に向けた熱意と関心の高さをうかがわせるものとなりました。

中でも、定評のある水素エネルギーやCCUSに加えて、燃料アンモニアに対する関心が高かったのが特長的でした。安全性やコスト面などの具体的な質問が数多くよせられ、活発な意見交換がなされました。また、既存設備を生かしながら火力発電でのCO2排出量を低減できるというコンセプトに対し、好意的な反応を示す来場者もいました。これらの反応を見ても、燃料アンモニアを含む日本の新たな提案は、火力発電依存の高い日本が2050 年までにCO2 排出ゼロを実現する具体的な道筋として、来場者からは一定の評価を得たと考えられます。

展示会へのJapanパビリオン出展にあたっては、ゼロ・エミッション火力プラントを実現する上で必要な技術を持つ15の日本企業からの協力を受け、タッチパネルやセミナーでプロジェクトを具体的に紹介しました。その多くは、実証実験を経て2030年の実用化をめざしています。

アジア全体のカーボンニュートラルにも必要なゼロ・エミッション火力発電

安価な石炭などの化石燃料を使った火力発電は、アジアなど開発途上国でも多く使用されており、火力発電のゼロ・エミッション化は、そのような開発途上国のCO2排出削減にも役立ちます。また、開発途上国における火力発電所のゼロ・エミッション化を支援することは、長期的には日本企業が大規模なエネルギー市場を獲得する機会ともなります。

このような背景から、日本は、増加するアジア地域のエネルギートランジションをサポートしていくことを表明しています。2021年5月には、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」として、アジアの持続的な経済成長とカーボンニュートラルの同時達成を支援する、具体的な支援策をパッケージ化し、ASEAN諸国に提示することを発表しました。また、2021年10月から11月にかけて開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、岸田総理がアジアにおけるゼロ・エミッション火力発電への転換支援を約束しました。

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世界全体でのカーボンニュートラルを達成するため、そのカギをにぎるアジアのゼロ・エミッション化に向け、日本は、技術開発や制度構築の成果・ノウハウをアジア全体で活用し、貢献することで、国際社会に対する役割をはたしていきます。

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