あらためて振り返る、「COP26」(後編)~交渉ポイントと日本が果たした役割

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2021年10月31日から11月13日にかけて、英国のグラスゴーで、「COP」という通称で知られる「気候変動枠組条約締約国会議」の第26回目、「COP26」が開催されました。「あらためて振り返る、『COP26』(前編)~『COP』ってそもそもどんな会議?」では、COPとはそもそも何か、どんな交渉グループがあるかなどを改めてご紹介しましたが、後編では、「COP26」で決まったことの詳細と、日本がはたした役割についてお伝えしましょう。

COP26で決まったこと~野心的な削減目標の設定

気候変動に対応するため1994年に発効した「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」の締約国が集まる国際会議「COP26」には、日本の岸田首相を含む約130か国以上の首脳が集まりました。

前回お伝えした通り、全体メッセージとしては、

リストアイコン 締約国に対し、今世紀半ばの「カーボンニュートラル」を求める。また、その経過点である2030年に向けた野心的な気候変動対策を求める
リストアイコン すべての国が、排出削減対策がおこなわれていない石炭火力発電のフェーズ・ダウンや非効率な化石燃料補助金からのフェーズ・アウトを含む努力を加速する

ことが決定されました。

2019年12月に開催されたCOP25の時点では、121か国が2050年カーボンニュートラルを表明していましたが、EU以外は小国でした。その後、この野心的な目標をかかげる機運が高まり、中国や米国などが次々とカーボンニュートラル目標を表明。日本も、2020年10月に宣言をおこないました。COP26時点では、G20のすべての国を含む150か国以上が年限付きのカーボンニュートラル目標をかかげています。

「誰一人取り残さない」ための日本のコミットメント

このようなCOP26で、日本はどのような役割を果たしたのでしょうか?

まず、岸田総理が、「世界リーダーズ・サミット」で、2030年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、すべての締約国に野心的な気候変動対策を呼びかけるとともに、後述の「グラスゴー・ブレイクスルー」などへの賛同を示しました。また、気候変動問題に関する日本の考えをあらためて表明。「我々が気候変動問題に向き合う時、誰一人取り残されることがあってはならない」というスピーチをニュースで見た人も多いと思いますが、この言葉が示すように、発展途上国への以下の支援策を表明しました。

総理のコミットメントの一部
リストアイコン アジアなどの脱炭素化を支えるため今後5年間で最大100億ドルの追加資金支援をおこなう
リストアイコン 発展途上国が気候変動の影響に対応するための「適応策」に関しても資金支援を倍増させる
リストアイコン アジアにおけるゼロ・エミッション(排出をゼロにすること)火力への転換を支援する

クリーン技術、メタン排出削減…交渉議題のほかにもさまざまな取り組みが加速

COPでは後述の交渉の動き以外にも、特定分野における取り組みの加速に向け、考えを同じくする国同士で任意の「イニシアチブ(有志国連合)」を形成する動きもあります。

COP26に向けては議長国の英国を中心に、数多くのイニシアチブが立ち上がりました。たとえば、パリ協定の目標を達成するために必要なクリーン技術の開発・展開を加速するため、この10年にかけて国際的に協調することを目指す英国のイニシアチブ「グラスゴー・ブレイクスルー」には、日本を含むG7全加盟国、中国、オーストラリア、インドなど42か国・地域(2022年2月現在)が賛同しています。

ほかにも、世界全体のメタン排出量を2030年までに2020年比30%まで削減することを目標とする米欧の共同イニシアチブ「グローバルメタンプレッジ」が発足され、日本も参加を表明しています。日本はこれまで長年にわたりメタン排出削減の努力を続けてきており、1990年度比約35%削減、2013年度比でも約5.4%削減を実現しています。他国と比較しても、日本のメタン排出量は2019年時点で米国の約23分の1、EUの約15分の1となっています。メタン削減のフロントランナーである日本に対しては、特に、メタンの排出削減に成功した国内の取り組みを優良な事例として各国に共有するといったイニシアチブが期待されています。

日本として、こうしたイニシアチブも含め、さまざまな取り組みを通じ、世界の脱炭素化に向けて、引き続きリーダーシップを発揮していきます。

また、COP会場ではパビリオンスペースが設けられ、セミナーのみを開催する国や団体が多い中、「ジャパン・パビリオン」では、対面とバーチャルを融合し、具体的な脱炭素化ソリューションやイノベーションの展示もおこなわれました。

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水素ガスタービン・CCUS・洋上風力・水素燃料電池・CO2を利用したコンクリートなど、スペシャルコンテンツでもご紹介しているさまざまな日本の先進技術が紹介されました。また、東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021(「脱炭素化に向けた国際連携のさらなる一歩、『東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク2021』①」参照)の成果もセミナーで発信されました。

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左:Japan’s Initiative toward Carbon Neutralityの発信/右上:米国政府要人がパビリオン訪問/右下:展示された水素ガスタービン

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COP26でおこなわれたさまざまな交渉

COPでは、毎回、国家間のさまざまな交渉がおこなわれます。COP26の大きな成果として、パリ協定に関するルールブックが決まったことを前編でもお伝えしましたが、これに関しても各国からさまざまな意見が出され、議論と交渉がおこなわれました。特に論点となったのは、パリ協定の第6条に基づく「市場メカニズム」の実施指針です。

市場メカニズムとは、温室効果ガス(GHG)の排出について、海外で削減した分を、自国の削減としてカウントし、目標達成に計上するしくみです。たとえば、省エネやCO2排出量を減らすための技術などがすでに導入されていて排出量削減の余地が少ない国が、まだまだ削減ポテンシャルが高い国に対して技術を提供して排出削減をおこない、その削減量の一部を自国の削減量としてカウントするわけです。これにより、世界の排出削減を効率的にすすめることができます。

取引される排出削減量や吸収量は「カーボン・クレジット」と呼ばれます。「2050年カーボンニュートラル」を目指す機運が世界中で高まる中で、カーボン・クレジットへの関心は増大しています。一部、クレジット市場拡大への批判もあるものの、サプライチェーンまで含めたカーボンニュートラルを目指す民間企業も活用を拡大すると見込まれています。

クレジットの活動が、かえって気候変動の悪化につながらないようなしっかりしたルールをつくることが重要です。市場メカニズムの実施にあたっては、たとえば以下のような点をどのように考えるかが議論となりました。

議論のポイントの一部
リストアイコン 日本が実施している「二国間クレジット制度(JCM)」(「『二国間クレジット制度』は日本にも途上国にも地球にもうれしい温暖化対策」 参照)のような、各国が独自に制度設計する市場メカニズムをどのように規定するか
リストアイコン CDMの後継となる「国連管理型メカニズム」の具体的な方法(監督委員会のメンバー、活動サイクル、メカニズムへの参加要件、登録簿など)
リストアイコン 京都議定書でもうけられた「クリーン開発メカニズム(CDM)」のプロジェクトや活動、クレジットをどのように移管するか

日本も積極的に交渉に参加し、特に、温室効果ガス削減量の二重計上防止の方法については、日本の打開案が反映されるなど、COP26の合意に大きく貢献しました。このほかにも、自国の削減目標を実施するための「共通の時間枠(コモンタイムフレーム)」や、排出量の報告に関する透明性の担保、技術開発・移転などが話し合われました。

気候変動問題の解決にはすべての国の協力が必要ですが、各国にはそれぞれ異なる政治・経済・環境・エネルギーなどの事情があります。異なる事情を踏まえすべての国の合意を得るためには、丁寧で細やかな議論と、地道な交渉が必須となります。専門的な話も多く全体像を理解するのがひじょうに難しいCOP26ですが、気候変動問題を一歩ずつでも解決へと導くため各国がどのような議論と交渉をおこなっているのか、スペシャルコンテンツでも引き続きご紹介していきますので、ぜひみなさんもそのゆくえを追ってみてください。

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