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碧南火力発電所 (出典)JERA HP
昔ながらの肥料としての利用にとどまらず、次世代エネルギーとしての大きな可能性が期待されているアンモニア。「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」では、アンモニアについての基礎知識と、燃料としての利用方法について簡単にご紹介しました。後編では、燃料として利用する際の技術や、課題とされる安定供給への取り組みについてご紹介しましょう。
燃料としてのアンモニアは、「燃焼時にCO2を排出しない」という特性から、CO2排出量削減に役立つ可能性がある次世代エネルギーとして、近年になって注目を集めるようになりました。期待されている用途は、発電分野から、工場などで利用する産業分野、輸送分野まで幅広いものです。
燃料アンモニアの直接燃焼利用
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中でも現在もっとも技術開発が進んでいるのが、石炭火力発電のボイラーにアンモニアを混ぜて燃焼させる「火力混焼」です。火力発電のCO2排出量は、日本国内のCO2総排出量の約4割を占めていることから、CO2排出量の少ない「低炭素社会」を実現するためにはその対策が欠かせません。そのための取り組みのひとつが、アンモニアの混焼、そしてその先の専焼なのです。「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」でご紹介した通り、アンモニアは肥料などの用途ですでに世界中で広く使われていることから、既存の製造・輸送・貯蔵技術を活用したインフラ整備が可能で、安全対策も確立されています。火力発電のボイラーにアンモニアを混焼する場合にも、バーナーなどを変えるだけで対応できるため、既存の設備を利用することができ、新たな整備や初期投資を最小限に抑えながらCO2排出を削減することができます。アンモニアの火力混焼については、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」によって2014~18年に技術開発がおこなわれ、一定の成果を出しています。窒素を含むアンモニアは、燃焼すると窒素酸化物(NOx)を排出するという課題がありますが、この点も制御可能であることが証明されました。これまでの実証試験では、アンモニアを20%混焼しても、排気中のNOx値を石炭だけを燃やした専焼の場合と同じ程度に保てることが示されています。ただし、これまでの試験炉は小規模なものだったため、実用化するには規模を拡大し、実際の設備を活用した実証試験が必要です。2021年度からは、国内最大の火力発電会社であるJERAが愛知県に保有する碧南火力発電所(100万kW)で、20%混焼の実証試験を実施する予定です。前編でもご紹介しましたが、CO2排出削減量については、石炭火力発電所を20%アンモニア混焼にすると1基で約100万トン、国内の大手電力会社の保有するすべての石炭火力発電所では約4000万トンになると試算されています。さらに、国内の大手電力会社の保有するすべての石炭火力をアンモニア専焼に転換すると、電力部門での排出量の半分に当たる約2億トンのCO2が削減できると見込まれています。
※1 国内の大手電力会社が保有する全石炭火力発電で、混焼/専焼を実施したケースで試算。※2 日本の二酸化炭素排出量は年間約12億トン、うち電力部門は年間約4億トン。
石炭火力のボイラーで混焼する以外にも、燃料アンモニアはさまざまな活用法が検討されています。ひとつは、アンモニアを直接燃焼させてガスタービン発電に使う方法です。以前は燃焼効率に課題がありましたが、近年は東北大学や産業技術総合研究所、トヨタエナジーソリューションズ、IHIといった組織がそれぞれ技術開発に取り組んでいます。ガスタービン発電では、液化天然ガス(LNG)などの燃料を燃やした際に発生する高温・高圧ガスでタービンを回し、電気をつくります。このように、石炭火力発電の場合と同じように、LNGなどの燃料とアンモニアを混焼して使う方法も考えられており、現在は50~2,000kW級の中⼩規模ガスタービンで研究開発がなされています。また、燃料アンモニアだけを燃やして発電する専焼技術についても研究開発が始まっています。さらに、数10万kW級の大型ガスタービンでは、液体アンモニアをガスタービンの排熱で水素と窒素に分解し、ガスタービンで燃焼して発電するという研究開発も進んでいます。もし大型ガスタービンでのアンモニア燃焼の研究が進み、55万kW級のガスタービンでアンモニアを燃料として発電することに成功すれば、一基につき年間で110万トンのCO2排出削減効果があるとされています。ただ、アンモニアは燃焼の際にはCO2を排出しないものの、アンモニアの原料となる水素を石炭や天然ガスなどの化石燃料から製造する場合、製造過程でCO2が発生します。そこで、化石燃料から水素を製造する過程で生じるCO2を回収し地下に貯留する方法(CCS)や、CO2を再利用するカーボンリサイクルのほか、再生可能エネルギー(再エネ)を使って作った水素を使うことで、真の「カーボンフリー」の実現を目指す動きがあります。福島県の福島再生可能エネルギー研究所では、再エネ由来電力で作った水素からアンモニアを合成する実証研究が行われています。将来的には、カーボンフリーの燃料アンモニアを使った電力を普及させていくことも考えられています。
(出典)国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)
そのほかの活用法としては、「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」と呼ばれる燃料電池で利用される水素を燃料アンモニアに置き換えるための研究開発が、京都大学やIHIなどによりおこなわれています。また、船舶⽤のディーゼルエンジンや工業炉で燃料アンモニアを利用する技術開発および実証試験なども行われています。
まだ始まったばかりの燃料アンモニアに関する取り組みですが、各方面からは大きな期待が寄せられています。前編でもご紹介したように、民間企業が立てている計画では、さまざまな実証事業を積み重ね、大規模供給に向けたサプライチェーンを構築しながら、2030年頃には社会実装して本格運用を始め、2040年代には専焼を目指すというロードマップが描かれています。
ただし、本格運用を始めるにあたっては、アンモニアの供給体制に課題があると考えられています。「アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先」で見たように、世界で生産されているアンモニアの8割は肥料として利用され、そのほとんどが生産国で自家消費されています。アンモニアが燃料として使われるようになれば、すぐに供給不足になることが予想されます。不足すれば価格の高騰もまねく恐れがあります。こうした事態に対応し、燃料アンモニアの安定したサプライチェーンを構築するために、2020年10月に発足したのが「燃料アンモニア導入官民協議会」です。民間企業と政府機関で構成され、燃料アンモニアを利用する発電会社、供給をになう商社、技術面を支える設備メーカーなどが参加しています。協議会では燃料アンモニアのサプライチェーン構築に向けた課題を共有した上で、導入に向けた道筋についても話し合われる予定です。
また協議会に先立って、「一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(旧グリーンアンモニアコンソーシアム)」も設立されています。アンモニアの研究開発から社会実装に向けた取り組みを検討する組織で、2021年1月現在で国内企業67社、外国企業14社、その他大学や研究機関など、産官学の組織・団体が参加しています。現在はサウジアラビアから燃料アンモニアを輸送する実験的な取り組みも始まっており、今後はアメリカや中東、オーストラリアなど世界各地で新たに生産し、輸入することも考えられています。日本がいち早く安定的なサプライチェーン構築に取り組み、アジアを中心にアンモニア燃焼の技術を展開することで、世界の燃料アンモニアのマーケットをリードすることが期待されます。
資源・燃料部 政策課
長官官房 総務課 調査広報室
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