安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策⑦ ALPS処理水に関する専門家からの提言

「増設ALPS A系 出口水」というラベルが貼られたボトルを持った手の写真です。

2011年に起こった東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故にともなって発生した、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」。現在、放射性物質を取り除く浄化処理が進められており、浄化処理した水は「ALPS処理水」と呼ばれています。その取扱いに関しては、専門家により構成された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で検討がおこなわれてきました。今回は、2020年2月10日、小委員会から政府へ提出された報告書のポイントを見てみましょう。

あらためて知る、「ALPS処理水」とは何?貯まり続けるALPS処理水はどうなるの?

これまでスペシャルコンテンツでは、福島第一原発の汚染水の問題と対策についてさまざまな記事でご紹介してきました。

汚染水から放射性物質を取り除く浄化処理は、汚染水対策の3つの基本方針「①漏らさない ②近づけない ③取り除く」のうち「取り除く」対策にあたるもので、汚染水に含まれる放射性物質のリスクを下げるためにおこなわれています。浄化処理は複数の設備でおこなわれますが、「多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)」と呼ばれる除去設備では62種類の放射性物質を取り除くことができます。浄化処理が終わった水は「ALPS処理水」と呼ばれます。

多核種除去設備(ALPS)の写真です。

「多核種除去設備(ALPS)」

ALPS処理水が入ったボトルを手で持っている写真です。

「ALPS処理水」

現在、ALPS処理水は、福島第一原発の敷地内に設置されたタンクに保管されています。しかし、汚染水は今も発生し続けており(「汚染水との戦い、発生量は着実に減少、約3分の1に」参照)、それにともなってALPS処理水の量も増え続けています。タンクを増設するため、土地の造成やタンクの並べ方の工夫などがおこなわれてきたものの、現在の建設計画の範囲内では、2022年夏頃にはタンクが満杯になる見通しとなっています。

福島第一原子力発電の敷地内にあるタンクの写真です。

(出典)東京電力ホールディングス ホームページ

このALPS処理水の取扱いは、福島第一原発の廃炉において重要な課題のひとつです。そこで、2016年11月から、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)」が開催され、科学的な側面はもちろん、風評被害などの社会的な観点も含めた、総合的な検討が専門家によっておこなわれてきました。

小委員会は約3年間17回にわたって開催。2020年2月10日に、政府がALPS処理水の処分方法を決定するための判断材料を提供するものとして、報告書がまとめられました。

ALPS小委員会の報告書のポイント

報告書では、どのような提言がなされたのでしょうか?ポイントを見てみましょう。

リストアイコン 「復興と廃炉の両立」の下で、ALPS処理水の処分は、廃炉作業の一環。
リストアイコン 基準を超えているALPS処理水は確実に二次処理を行い、基準を満たす。
リストアイコン 処分方法は、技術的には海洋放出および水蒸気放出が現実的。
リストアイコン 処分による人体への影響は、自然放射線の1000分の1以下。
リストアイコン 処分をおこなう際には、徹底的に風評被害対策を講じるべき

「『復興と廃炉の両立』の下で、ALPS処理水の処分は、廃炉作業の一環」

報告書では、「福島第一原発の廃炉」と「福島の復興」は両立しながら進めていくことが大原則であるとあらためて言及されています。この観点に立つと、福島第一原発の廃止措置が終わる時には、汚染水対策のひとつであるALPS処理水についても処分を終えていることが必要です。一方、処分を急ぐことで、風評被害を拡大し復興を停滞させることもまたあってはなりません。

「基準を超えているALPS処理水は確実に二次処理を行い、基準を満たす」

以前にもご紹介したとおり、現在タンクに保管されているALPS処理水の約7割には、トリチウム以外の放射性物質も排出時の規制基準を超える濃度で含まれています。これは、浄化処理が始まった当初は、まずは規制基準を守るため、敷地境界(原発敷地内と外の境界)における追加の被ばく線量を下げることを重視していたためです。ただし、このような十分に浄化処理がおこなわれていない水については、タンクに保管している状態では規制基準をクリアできていますが、環境中に放出される際には、ALPSなどによる浄化処理(二次処理)をおこなって、放射性物質を規制基準以下にすることとなっています。

ALPS処理水の二次処理のイメージをあらわした図です。

ALPS処理水の二次処理のイメージ

「処分方法については、技術的には海洋放出および水蒸気放出が現実的」

処分方法については、「地層注入」「水素放出」「地下埋設」「水蒸気放出」「海洋放出」の5つの方法について検討がおこなわれました。

このうち、「地層注入」「水素放出」「地下埋設」については、規制・技術・時間の観点から、それぞれに難しさがあることが述べられている一方、前例のある「水蒸気放出」と「海洋放出」が現実的な選択肢である、とされています。

具体的には、「水蒸気放出」は、処分量は異なるものの、事故が起こった海外の原子炉で実施された事例があります。通常の原子炉でも、換気をおこなう際に、じゅうぶん管理されたかたちでおこなわれています。ただし、液体を気体の状態に蒸発させて水蒸気放出をおこなった例は日本にはありません。また、ALPS処理水に含まれるいくつかの核種は固まって残ることが予想され、環境に放出される核種は減るものの、固まった残りは放射性廃棄物になります。

また、「海洋放出」も実績のある手法です。前述したように、日本を含む世界の原子力施設では、トリチウムを含む液体の放射性廃棄物が希釈され、各国の規制基準を守る形で、海洋などへ放出されています。また、水蒸気放出とくらべると、設備が簡易で、モニタリングもしやすいので、処分を確実に実施することができます。ただし、排出量とトリチウム放出量は、福島第一原発の事故前とは同等ではないことに留意が必要です。

「処分による人体への影響は、自然放射線の1000分の1以下」

小委員会では、海洋放出または水蒸気放出をおこなった際に放射線によって起こる人体への影響についても検討しています。

そこで参照されたのが、「原子放射線の影響に関する国連科学委員(UNSCEAR)」による比較モデルを使った評価です。このモデルによれば、海洋放出と水蒸気放出のどちらの場合も、仮に現在タンクに貯蔵されているすべてのALPS処理水(トリチウム量は約860兆ベクレル)を1年間で処分し、それを毎年継続したとしても、自然に存在する放射性物質から受ける影響(2.1ミリシーベルト/年)の1000分の1以下の影響にとどまるという計算結果が得られました。

年間放出量ごとに、海洋放出と水蒸気放出のそれぞれの放射線の影響評価を表でまとめています。

水蒸気放出、海洋放出による放射線の影響と、自然放射線からの放射線影響をグラフで比べています。

※トリチウムの科学的性質や人体への影響については、以下の記事で解説しています。

「処分をおこなう際には、徹底的に風評被害対策を講じるべき」

処分をおこなう際には、風評被害への徹底的な対策が必要です。人々が少しでも安心できるような処分方法を検討することが重要で、トリチウム以外の放射性物質について確実に二次処理をおこなうことはもちろん、処分の開始時期や処分量・処分時間・処分濃度について、関係者の意見もふまえながら決定することが重要です。

また、報告書では、処分前の濃度の確認や、処分時に放射線モニタで異常値を検出したり、処分設備に異常が生じた場合の処分の緊急停止などの工夫をおこなうことなども、風評被害を抑えるのに役立つと提言しています。また、周辺環境のモニタリング強化や、測定結果のわかりやすく丁寧な情報発信も求められます。

その上でさらに、情報を正確に伝えるためのリスクコミュニケーションの取り組みや、風評被害の防止・抑制・補填のための経済対策の双方をおこなうべきであるとしています。

「幅広い関係者の意見を聞きながら、政府方針を決定すべき」

報告書は、最後に、次のような提言を掲げています。

政府には、本報告書での提言に加えて、地元自治体や農林水産業者を始めとした幅広い関係者の意見を丁寧に聴きながら、責任と決意をもって方針を決定することを期待する。その際には、透明性のあるプロセスで決定を行うべきである。

この提言を受け、政府は現在、関係者の御意見を伺う場を開催しており、地元関係者や、経済・観光・流通に関係する全国団体からご意見を伺っています。また、広く一般の方からご意見をいただけるよう、書面での意見も募集しています(2020年7月15日まで募集が延長されています ※さらに2020年7月31日まで延長されました(2020年7月10日追記))。引き続き、このような場を通じ、広く意見を伺った上で、今後の政府としての方針決定につなげていきます。

お問合せ先

記事内容について

電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室

スペシャルコンテンツについて

長官官房 総務課 調査広報室

ALPS処理水の取り扱いにかかわる書面での意見募集については、より丁寧にご意見をうかがう観点から、募集期限を2020年7月15日まで延長することが6月12日に発表されています。これにともない、本記事についても、「6月15日」と記載していた募集期限を「7月15日」に変更しております。
(2020/6/12 16:30)
ALPS処理水の取り扱いにかかわる書面での意見募集については、より丁寧にご意見をうかがう観点から、募集期限を2020年7月31日まで延長することが7月10日に発表されています。これにともない、本記事についても、募集期限を「7月31日」と追記しております。また「意見募集期限を延長します」のリンク先を変更しております。(2020/7/10 17:30)