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2021年4月13日、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)で発生している「ALPS処理水」の処分方法を海洋放出とする基本方針が決定されました。大きなニュースとしてTVなどでも報道されたので、ご存じの方も多いでしょう。今回は、あらためて「ALPS処理水」に関する基本情報をおさらいしていきましょう。
福島第一原発では、原子炉内に残る、原発事故で溶けて固まった核燃料「燃料デブリ」を冷やすため、常に水がかけられています。この水は、高い濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」となるため、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などの設備にかけて浄化処理がおこなわれています。
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浄化処理された水は、現在、福島第一原発の敷地内に貯蔵されています。この浄化処理した水をどのように処分するかについては、これまでもご紹介してきたとおり、2013年から議論が重ねられてきました。
さまざまな議論と検討の結果、専門家により構成された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)は、2020年2月、現実的な処分方法として「海洋放出」と「水蒸気放出」が考えられるとする報告書を発表しました。
その後、報告書を基に、地元自治体などさまざまな関係者へのヒアリングや、書面での意見の募集がおこなわれました。こうした議論を受け、2021年4月13日、「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」が開催され、「2年後をめどに海洋放出する」という基本方針が決定されたのです。また、今回の基本方針決定にあわせて、これまでは単にALPSで浄化処理された水のことを指していた「ALPS処理水」という言葉の定義を、変更することとなりました。スペシャルコンテンツでも、2021年4月13日以降の記事については、この定義を適用していきます。
この新しい定義では、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす」という文言が付け加えられています。これはいったいどういうことなのでしょう?
これまでの記事でもご紹介してきたように、タンクに保管している水には、ALPSで浄化処理しても取り除くことができない「トリチウム」と呼ばれる放射性物質が含まれています。現在福島第一原発の敷地内でタンクに保管されている水125万トンのうち、大さじ1杯分にあたる量です。
しかし、「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策⑦ ALPS処理水に関する専門家からの提言」でもご紹介したとおり、タンクに保管されている水のうち約7割には、トリチウム以外の放射性物質(核種)も、「環境に放出する場合の規制基準」を超える濃度で含まれています。
タンクに保管している水の性状(2021年3月時点)
これは、①ALPSを運用し始めたころは、現在と比較して、当時のALPSの浄化性能が劣っていたこと、②現在にくらべて大量の汚染水が発生していたことから、放射線リスクをできるだけ早く低減させるため、「敷地内で保管する場合の規制基準」をまず満たすことを重視して作業を進めたことなどが原因です。
そこで、海洋放出する際には、「敷地内で保管する場合の規制基準」よりもさらに厳しい「環境に放出する場合の規制基準」を満たすよう、再度ALPSを使った浄化処理、つまり二次処理がおこなわれます。定義変更後の「ALPS処理水」とは、この水のことを指すわけです。二次処理については、東京電力が性能試験をおこない、結果を2020年12月に公表しています。試験では、トリチウム以外の核種について、「環境に放出する場合の規制基準」以下まで問題なく浄化できることが確認されています。
二次処理による処理前後の放射性物質の濃度比較
(出典)東京電力「多核種除去設備等処理水の二次処理性能確認試験の状況について」(PDF形式:0.50MB)
海洋放出に当たっては、放射性物質の濃度について丁寧に測定することが定められています。また、こうした測定結果については随時公表することとされており、第三者による確認も得ていきます。もちろん、二次処理をおこなう場合についても同様です。こうした取り組みをおこなうことで、透明性・客観性を高めていきます。
ここで、放射性物質に関する「規制基準」もおさらいしておきましょう。放射性物質は「あるか/ないか」や「含まれている個数」ではなく、「追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)を、年間で1ミリシーベルト未満にする」ことを基本に規制基準が作成されています。複数の放射性物質の影響が考えられる場合、規制基準は、1つの放射性物質ではなく、水に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して考えられています。つまり、「この核種が含まれているから危険だ」とか、「あの核種はほかの核種とくらべて多く含まれているから危険だ」ということにはならず、総和として規制基準を満たしていれば問題ありません。このために「告示濃度比総和」という考え方が定められており、これが1を下回っているかどうかで判断されます。
この考えかたと規制基準は、どの原子力施設でも一律に適用されるものです。事故を起こした原子炉だからといって、違う考えかたが適用されるわけではありません。規制基準も、ほかの放射線の規制基準と同一の考えかた(「追加的な公衆被ばく線量を、年間で1ミリシーベルト以下にする」)で設定されています。たしかに、福島第一原発からの排水には、事故を起こした原子炉特有の放射性物質(セシウムなど)も存在します。しかし、ここでも問題となるのはどんな核種が含まれるかではなく、水に含まれるすべての放射性物質の告示濃度比の総和が、規制基準を満たすかどうかです。環境放出などをおこなう際は、当然、規制基準にあわせて濃度を低減する処理がおこなわれます。前述したように、トリチウムについても、それ自身を含むすべての放射性物質の告示濃度比を1未満にするために、濃度を下げるための希釈がおこなわれます(海水で100倍以上に希釈)。これは、二次処理後の処理水中に存在する規制基準以下の「そのほかの核種」をさらに100倍以上に希釈することにもつながるため、より安全性を確保できるようになります。
処分される放射性物質の「量」による影響が気になる人もいるかもしれません。規制基準にしたがって二次処理をおこなったALPS処理水を、今回決まった基本方針にしたがった量で海洋放出する場合には、その放射線影響は自然被ばくの10万分の1以下となる見込みで、きわめて小さな影響にとどめることができるとされています。
資源エネルギー庁では、これからも、「ALPS処理水」や「海洋放出」について、できるだけわかりやすく情報を発信していきます。「ここがよくわからない」「ここをもっと詳しく解説してほしい」などのご希望がありましたら、ぜひ「記事のリクエスト」をお送りください。
電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室
長官官房 総務課 調査広報室
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