汚染水処理で発生する廃棄物「スラリー」とは?なぜ発生する?どのように保管されている?

福島第一原子力発電所のHIC

2011年3月、東日本大震災にともなう事故が起こった、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)。スペシャルコンテンツではこれまで、福島第一原発の廃炉に向けた取り組みや、放射性物質を含む「汚染水」への対策などをご紹介してきました。皆さんもニュースなどを通じてさまざまな情報を見聞きしていると思いますが、汚染水の浄化処理の途中で発生する廃棄物についても、安全をはかる取り組みが進められてきたことはご存じでしょうか。今回は、まだあまり知られていない廃棄物「スラリー」について、スラリーとはどんなものか?どのように保管されているのか?今後どのようにリスクを下げていくのか? などについてご紹介しましょう。

ALPSで汚染水を処理する段階で発生する2つの廃棄物

汚染水は、福島第一原発の原子炉の内部に残る、溶けて固まった燃料(燃料デブリ)を冷却するために水をかけ続けていること、また敷地内に流れる大量の地下水や雨水が原子炉建屋に流れ込み、建屋内の放射性物質に触れることによって発生しています。こうした汚染水については、3つの基本方針「漏らさない・近づけない・取り除く」の下でさまざまな対策がうたれ、発生量の低減や、外部への流出防止がはかられています。

また、発生した汚染水は、そのリスクを下げるために、いくつかの設備を使用した浄化処理がおこなわれています。汚染水は、まず、放射性物質の中でも「セシウム」や「ストロンチウム」を除去するセシウム吸着装置、「キュリオン」または「サリー」に通されます。

その後、「淡水化装置」を経て、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」を使った浄化処理がおこなわれます。ALPSは、汚染水に含まれている62種の放射性物質を除去することができる設備です。このALPSで浄化処理された水は「ALPS処理水」と呼ばれます。

ただし、ALPSでは「トリチウム」と呼ばれる放射性物質については取り除くことができません。

このALPSとその前処理設備で汚染水の処理を進める段階で、2種類の廃棄物が発生します。ひとつは、「スラリー」という、どろっとした液体と固体の混合物です。これは、ALPSの前処理段階において、薬剤を注入した結果生じる細かい沈殿物が水に混ざったもの(図内①)です。もうひとつは、放射性物質をこし取るために使われた「使用済吸着材」(図内②)です。

これらの廃棄物は、「HIC(High Integrity Container:高性能容器)」と呼ばれるポリエチレン製の保管容器に収納されています。

HIC(ポリエチレン部)
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HIC(補強体付加後)
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HICは、現在、福島第一原発敷地内の一時保管施設において、コンクリートの大きなボックス内で保管されています。この保管施設には、HICの内容物が発する放射線を遮へいする機能はもちろん、発生する熱や水素を逃がす機能も備えられており、スラリーや使用済吸着材を安全に保管することができます。

保管リスクのさらなる低減に向けた取り組み: 安定化処理とは

現状のHIC保管にかかわるリスクはいくつかあります。

主なものとしては、(1)HICに保管されたスラリーが内包している水の漏えい 、(2)放射線によるHICの劣化、が挙げられます。(1)は、HICの内容物から発生する放射線によって水素などのガスが生じ、それが水を押し出した結果、水が外に漏れるというリスクです。(2)は、HICそのものの劣化のリスクです。ポリエチレン製のHICは、スラリーが発する放射線によって劣化が進みます。

これらのHIC保管の課題については、それぞれ対策がほどこされています。たとえば(1)については、HICに注入する量を減らしたり、「入れ過ぎ」と評価されたHICからの上ずみ水の抜き取りをおこなっています。また、万が一、漏えいが発生した場合においても、漏えい物が施設内に留まるよう、コンクリートボックスに封じ込める工夫がなされています。さらに、保管施設内のHICに漏えいがないことも定期的に確認をおこなっています。(2)については、放射線がHICにおよぼす影響について、実験を通じて評価をおこなっており、そこから安全性がじゅうぶん担保できるような耐用年数を算出。この耐用年数を適用して、適正に管理しています。

このように現在の保管状態のリスクは非常に低い状態ではありますが、さらに安全性を高める計画が進められています。具体的には、HIC内に収納されているスラリーを抜き出して脱水処理することによって、液体状のスラリーを固体に変え、屋内の廃棄物貯蔵庫内で保管するという取り組みです。このような、スラリーをHICから抜き出して脱水をおこなう処理は、「安定化処理」と呼ばれます。固体にすれば、上記のような漏えいリスクは低減します。

スラリー脱水処理の工程は、下の図の通りに進みます。脱水前後のスラリー写真を見ると、どろりとした液体が固体になっているのがわかります。さらに、スラリーを脱水した物を、HICよりも放射線の影響を受けにくい金属製の容器に入れ替えることで、保管容器が放射線によって劣化するリスクも大幅に低減されます。

スラリー脱水処理の工程、脱水前後のスラリーの様子、脱水物の保管容器案
スラリー脱水処理の工程をあらわした図と、脱水前後のスラリーの写真、保管容器の案をあらわした図です

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現在は、スラリー安定化処理設備の設計や、それにともなう技術開発を実施しており、2022年度に安定化処理を開始する予定です。年間、HIC約600基分のスラリーを脱水する予定となっており、6年間で3,500基程度のHICが減ると見込まれるほか、2028年度頃までには、発生するスラリーを次々に安定化処理することで、スラリーの状態での一時保管を解消することを目標としています。

スラリー安定化処理によるHIC保管量の推移
2013年4月からのHIC累積発生数をグラフにしています。グラフには2022年度にスラリー安定化処理を開始してからのHIC減少の推移も含まれており、2029年には処理を終える見込みとなっています。

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今後、原発の敷地境界線(原発の敷地内と敷地外の境界線)におよぼす放射線の影響を明確にするなど、詳細をあきらかにしながら、計画的に施設を設置し、脱水処理を実施していきます。

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