汚染水との戦い、発生量は着実に減少、約3分の1に

東京電力福島第一原子力発電所の作業のようす

(出典)東京電力ホールディングス株式会社

2021年4月13日より、「ALPS処理水」という言葉の定義が変更となっています。
この記事は定義変更前に書かれたものです。新しい定義については、以下のページをご覧ください。
東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の定義を変更しました
「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分②~「二次処理」と処理水が含む「そのほかの核種」とは?

2011年、東日本大震災にともなって発生した、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故。その事故により、放射性物質を含んだ「汚染水」が生じています。これまでスペシャルコンテンツでは、この汚染水を海へ漏らさないことはもちろん、発生させないという根本的な対策が進められていることをご紹介してきました。今回は、さまざまな対策がどのような効果をもたらしているのか、“汚染水との戦い”の今をご紹介しましょう。

【ポイント】
リストアイコン 汚染水の発生は、燃料デブリを水で冷やし続けるかぎり続く。
リストアイコン ただし、汚染水の発生を抑制するさまざまな対策の効果により、発生量は対策前の3分の1ほどに減少。
リストアイコン 2020年内に150トン/日程度まで低減することを目標に、引き続き対策を進める。

あらためて、「汚染水」はなぜ発生するの?

東日本大震災にともなって発生した福島第一原発の事故では、水素爆発が起こり、原子炉内の燃料が溶け落ちてしまいました。今もなおこの原子炉内部に残る、溶けて固まった燃料は、「燃料デブリ」と呼ばれます。

この燃料デブリは常に水をかけて冷却状態を継続していますが、これにより、核燃料に触れることで高い濃度の放射性物質を含んだ一定量の水が生じています。これが、いわゆる「汚染水」です。

まず重要なことは、この汚染水が建屋の外に流れ出すことを防ぐことです。そこで、建屋の中に滞留する汚染水の水位を、建屋周辺の地下水の水位よりも低くし(内外水位差)、その状態を保つことで、汚染水が建屋外に流出することを防いでいます。ただしその結果、建屋周辺の地下水は水位の低いほう、つまり建屋内に流れ込むことになり、屋根の破損した部分などから流入する雨水とともに、汚染水と混ざりあって、新たな汚染水が生じてしまいます。そのため、燃料デブリを水で冷やし続けるかぎりは、汚染水の発生量をただちにゼロにすることはできないのです。

汚染水の発生量を減らすためのさまざまな対策

そこで、国が前面に立って、以下の3つの方針のもと、さまざまな汚染水対策を実施しています。

リストアイコン ①漏らさない
リストアイコン ②近づけない
リストアイコン ③取り除く

①は、汚染水を外へ漏らさないこと。②は、水を建屋内の汚染源に近づけないことで新たな汚染水の発生量をできるだけ抑えること。③は、発生した汚染水の放射性物質を取り除いてリスクを下げることです。

このうち「②近づけない」取り組みについては、目標として、汚染水の発生量を2020年内に1日あたり150トン程度まで低減することが掲げられています。その実現に向けて、建屋に流入する水の量を抑えて汚染水発生量を減らすための、重層的な取り組みがおこなわれています。

汚染水の発生量を減らすための主な取り組み
【地下水バイパス】
山側の高台に井戸(地下水バイパス)を設置 。建屋に近づく前に地下水をくみ上げる。くみ上げた地下水は東京電力と第三者機関で分析をおこない、放射性物質の濃度の基準(運用目標)を下回ることを確認して排出している

【サブドレン】
建屋近くに井戸(サブドレン)を設置。地下水をくみ上げることで、建屋周辺の地下水の量を減らして水位を低く抑え、建屋に流入する地下水の量を抑える。くみ上げた地下水は浄化処理し、地下水バイパスと同様に運用目標を下回ることを確認して排出している

【フェーシング】
モルタルなどで敷地を舗装することで、雨水が土に浸透して地下水になることを防ぐ

【陸側遮水壁(凍土壁)】
建屋周辺を取り囲むように地中に配置した「凍結管」という管に冷却材を送り込むことで、周辺の地盤を凍結させて壁をつくる。これにより建屋内への地下水の流入量を抑える

【建屋屋根の補修】
建屋屋根の破損部から雨水が流入することをふせぐため、補修工事を実施

2019年春の状況

「②近づけない」対策を開始する前の2014年5月には、汚染水は1日あたり約540トン発生していました。2018年7月31日に公開した「現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~」 では、さまざまな対策により、1日あたりの汚染水の発生量は、2017年度で約220トンに減っていることをご紹介しました。その後も対策は着実に進められ、2018年度では約170トンまで減りました。

汚染水の発生量(トン/日)
2014年5月から2018年度までの汚染水の発生量のグラフです。

なお、建屋周辺の井戸(サブドレン)でくみ上げた水は、浄化処理をおこない、規制基準よりもきびしくさだめた「運用目標」を下回る濃度であることを分析により確認したうえで、排水されています。

2015年9月の稼働開始以降、1日~数日に一度のペースで排水を続け、2019年6月20日には、1000回目の排出が実施されました。このように、廃炉を進めるためにととのえた設備を安定的に使い続けることも、今後も続く汚染水との戦いでは重要なカギになります。

分析作業のようす

(出典)東京電力ホールディングス株式会社
地下水バイパス・サブドレンなどでくみ上げた地下水は、東京電力と第三者機関で分析をおこなっています

【参考】地下水バイパス・サブドレンなど でくみ上げた水の「運用目標」と規制基準の比較
セシウム134・セシウム137・ストロンチウム90・トリチウムについて、運用目標・日本の規制基準・WHO飲料水水質ガイドラインの数値を表にしています。

(単位はベクレル/リットル)

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※1 10日に1回程度の頻度で1ベクレル/リットル未満を確認
※2 「ストロンチウム90」を含む、すべてのベータ線を放出する核種の濃度を分析することで確認
※3 「告示濃度限度」については、以下「詳しく知りたい」を参照

詳しく知りたい
安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策④放射性物質の規制基準はどうなっているの?

また、「現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~」の「①漏らさない」でもご紹介したように、「海側遮水壁」などの対策により、福島第一原発の近海の水質はおおきく改善しており、WHO(世界保健機関)のさだめる「飲料水ガイドライン」よりもじゅうぶん低いことが確認されています。

南放水口付近の海水モニタリング状況
周辺海域の放射性物質濃度が、約1万ベクレル/リットルから検出限界値まで下がったことを示すグラフと図です。

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汚染水対策のこれから

今後はさらに、雨水が建屋内に入り込んで新たな汚染水となることを防ぐため、壊れている建屋の屋根を補修するなどの取り組みを進め、1日あたりの汚染水発生量を2020年内に150トン程度まで抑えるという目標を目指していきます。また、建屋内に滞留している汚染水についても計画的に処理が進められており、2020年内には、燃料デブリの冷却がおこなわれている原子炉建屋以外で、建屋滞留水の処理が完了する予定です。

なお、発生した汚染水については、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」と呼ばれる設備などを使って浄化してリスクを下げた後、「ALPS処理水」として敷地内タンクに保管し、安全に管理しています。

このように、汚染水の問題は、事故が起こった直後に比べれば状況は安定化してきています。しかし、汚染水との戦いは、廃炉が完了するまで続きます。引き続き、3つの方針にそって対策を進めるとともに、津波にそなえた防潮堤の設置などの自然災害対策も進め、長期にわたる廃炉作業を着実に進めていきます。

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経済産業省 大臣官房 福島復興推進グループ 原子力発電所事故収束対応室

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