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(出典)東京電力ホールディングス株式会社
2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故。現在、廃炉に向けた取り組みが進められていますが、課題のひとつが、原子炉格納容器の内部にある「燃料デブリ」と呼ばれる物体をどのようにして取り出すかということです。このシリーズでは、燃料デブリについてあらためておさらいするとともに、燃料デブリを取り出すための取り組みについて、2020年春現在の状況を見ていきましょう。
福島第一原発の廃炉が、世界でも例のない困難な取り組みとなっている理由のひとつは、「燃料デブリ」の存在です。2011年3月、福島第一原発で事故が起こった際、原子炉の内部にあった核燃料が溶け、さまざまな構造物と混じりながら、冷えて固まりました。これが燃料デブリです。ここで、あらためて、福島第一原発の1号機から4号機の事故の内容と、事故後の取り組みをふりかえってみましょう。1号機と3号機、さらに3号機からの水素が流れ込んだ4号機は、水素爆発が起こったために建屋が大きく損壊しました。なお、2号機は、1号機の水素爆発の衝撃により、あらかじめ設置されていた「建屋の圧力逃がしパネル」(ブローアウトパネル)がはずれたため、水素が外へ排出され、爆発をまぬがれたと考えられています。
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このうち、燃料デブリが存在しているのは、1号機、2号機、3号機です。4号機は地震発生時にちょうど定期検査をおこなっていたため、運転を停止しており、原子炉内にあった燃料はすべて使用済燃料プールに取り出されていました。これにより、原子炉内で燃料が溶けることを回避することができました。次に、燃料デブリの現在の状態についてみてみましょう。現在、1~3号機の燃料デブリは、継続的な注水がおこなわれています。これにより、燃料デブリが持つ熱は事故の後から大幅に減少しており、安定した状態を保っています。現在、原子炉内の温度は約15~35℃で維持されています。もし注水が停止したとしても、制限温度(80℃)に達するまでには約2週間かかる見込みのため、時間的な余裕を持って対応することが可能です。また、燃料に含まれるウランが連鎖的に核分裂する「臨界」が再び起こる「再臨界」を検知するため、再臨界が起こった際に増加する「希ガス」の量を24時間常に計測し、監視をおこなっています。現在、希ガスの発生量は安定していることから、再臨界にはいたっていないと考えられます。さらに、万が一、再臨界が起こったとしても、ホウ酸水を注入する設備によって、核分裂を抑制する対策をとっています。
燃料デブリの取り出しを含む福島第一原発の廃炉・汚染水対策は、東京電力自らが責任をもっておこなうことが原則です。一方で、世界でもこれまでに例のない技術的に困難な取り組みであることから、政府も前面に立って、安全かつ着実に作業を進めることが求められます。2011年12月に、政府は「中長期ロードマップ」の初版を策定し、廃止措置完了について30~40年後を目標とさだめました。廃炉作業は、この中長期ロードマップに基づいて、安全確保を最優先に、リスクを低減することを重視するという姿勢をしっかりと守りながら進められています。この「中長期ロードマップ」は、廃炉・汚染水対策の進捗や、それにともなって明らかになった現場の状況をふまえながら改訂がおこなわれており、2020年2月時点で5回の改訂が実施されています。現行の中長期ロードマップの主要な工程は以下の通りです。
中長期ロードマップにおけるマイルストーン(主要な目標行程)
2019年12月の中長期ロードマップの5回目の改訂では、燃料デブリ取り出しについて、「初号機の燃料デブリの取り出し方法を確定し、2021年内に2号機で試験的取り出しに着手し、その後、段階的に取り出し規模を拡大していくこと」を示しました。現在、取り出し方法としてロボットアームの開発が進められています(下の図)。今後、このシリーズの中で詳細をご紹介する予定です。
燃料デブリ取り出し装置のイメージ
また、燃料デブリ取り出しを始める最初の号機としては、安全性・確実性・迅速性や、使用済み燃料の取り出し作業に影響を与えることを避け廃炉作業全体を最適化するという観点から、2号機に確定しました。現在、2021年内の燃料デブリの取り出しの開始に向けて、さまざまな技術開発や検討が進められています。では、デブリの取り出しには、どのような難しさがあるのでしょうか?シリーズ第2回で解説します。
経済産業省 大臣官房 福島復興推進グループ 原子力発電所事故収束対応室
長官官房 総務課 調査広報室
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