成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(後編)動きだす産官学パートナーシップ
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成長志向の資源循環経済システム「サーキュラーエコノミー」(前編)どんな課題を解決するの?
(出典)東京電力ホールディングス株式会社
「現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~」でご紹介したとおり、現在、東京電力福島第一原子力発電(福島第一原発)では、2011年の原発事故にともなって発生した、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」への対策が進められています。さまざまな専門用語が飛び交うこの問題、今ひとつわからないと感じている方も多いかもしれません。また、これまで、東京電力も国も浄化処理をした汚染水の状況について、わかりやすく丁寧な情報発信が十分にできていなかったという反省があります。そこで今後、シリーズで、汚染水問題への理解を深めるための基礎情報や、対策の検討状況などの最新ニュースをご紹介します。
汚染水は、原子炉の内部に残る、溶けて固まった燃料(「燃料デブリ」と呼ばれます)を冷却し続けるために水を使うことなどから発生しています。汚染水対策は ①漏らさない ②近づけない ③取り除くという3つの基本方針のもとで進められていますが(「現場で進む、汚染水との戦い~漏らさない・近づけない・取り除く~」参照)、そのうち「取り除く」対策としては、汚染水に含まれる放射性物質のリスクを下げるための浄化処理がおこなわれています。汚染水は複数の設備で浄化処理がおこなわれていますが、中でもカギとなっているのは、「多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)」と呼ばれる除去設備です。ALPSは、「多核種除去設備」という名称があらわす通り、62種類の放射性物質を取り除くことができます。
「多核種除去設備(ALPS)」
実は、東日本大震災が発生してから2年後の2013年頃までは、このALPSが開発中であったため、「セシウム」以外の放射性物質を取り除くことができていませんでした。その結果、「セシウム」以外の放射性物質を含んだ高濃度の汚染水を、敷地内のタンクで貯蔵することとなっていました。しかし、ALPSが稼動した2013年以降は、高濃度汚染水からさまざまな放射性物質を取り除くことができるようになりました。この、ALPSを使って浄化処理をおこなった水は、「ALPS処理水」と呼ばれ、敷地内のタンクに継続的に貯蔵されています。敷地内にあるALPS処理水は、貯蔵にあたって二重の堰(せき)を設け、定期的にパトロールをおこなうなどして、漏洩を防ぐように努めています。ALPS処理水は、ALPSでも取り除くことのできない「トリチウム」を含んではいるものの、前述したように大部分の放射性物質を取り除いており、「セシウム」のみを取り除いた事故発生直後の汚染水とは、安全性の面で大きく異なるものです。なお、「トリチウム」については、今後シリーズの中で詳しく解説していきます。
原発では、「敷地境界」、つまり原発の敷地の境界における放射線量がどのくらいあるかという「敷地境界線量」が、安全管理の基準のひとつにされています。原子力規制委員会は、原発の敷地から敷地境界に追加的に放出される線量(自然界にもともとあった線量を除いて、原発施設から新たに放出されて増えたぶんの線量)を「年間1ミリシーベルト(1mSv/年)未満」という低さに抑えることを求めています。
高濃度汚染水は、たとえタンク内にあっても放射線を発し、周辺に影響を与えてしまいます。2013年にALPSが稼動する前、つまりセシウムのみを取り除いた状態の高濃度汚染水を原発敷地内で貯蔵していた頃には、敷地境界の放射線量は前述の基準を大幅に超過し、10mSv/年にも達していました。一方、ALPSの稼動後は、ALPSによる放射性物質の浄化処理が功を奏し、2016年3月に、敷地境界線量の基準を達成することができました。これにより、敷地内で処理水をタンクに「貯蔵」する際の規制基準を満たしている状態になったのです。
敷地境界線量「評価値」
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ところが、この福島第一原発の敷地内で貯蔵されているALPS処理水について、「基準を満たしていない処理水が8割を超えているのではないか」という声があります。これは一体どういうことなのでしょうか。実は、汚染水に関する「規制基準」には、
の2つがあります。前述したように、現在、福島第一原発の敷地内タンクに貯蔵されているALPS処理水は、そのすべてで①の基準を満たしています。一方、②については、当然、①よりもさらに厳しい基準となっています。「基準を満たしていない処理水が8割」という場合の「基準」は、この②の基準のことを指しているのです(環境へ処分する際の基準については、「告示比総和」という基準が「1を超えているか、いないか」という点がカギとなってきますが、それについては今後シリーズの中で詳しく解説していきます)。①と②の基準を同時に満たせればベストなのですが、②の基準を達成するまで浄化するには時間がかかります。そこで、それよりもまずは①の基準を早く達成して原発敷地内のタンクに安全に貯蔵することを優先し、ALPSを運用したのです。このため、貯蔵している現段階において、ALPS処理水の8割は②の基準を満たしてはいないものになっています。そのことは、下記の東京電力の資料でも示されています。難しい専門用語が並んでいるグラフですが、簡単に言うと、「A」は取り除くことのできないトリチウム以外で②の基準値を満たしている処理水、A以外は①の基準を満たしているものの②の基準値を満たしていない処理水のタンク貯留量を示しています。中でもBは高い濃度で放射性物質が混じっている処理水で、これはALPSが不具合を起こした際に浄化しきれなかった処理水が混じっているためです。
ただ、これらのALPS処理水は、そのまま環境中へ放出されるわけではありません。今後、環境中へとALPS処理水を放出する場合は、②の規制基準を満たすことが当然おこなわれます。さらに東京電力は、ALPS処理水を環境中へと処分する場合には、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)をおこなうことによって、取り除くことのできないトリチウム以外で②の基準値を満たすようにする、という方針を示しています。この二次処理は、安全を守ることはもちろん、皆さんに安心していただくためにという観点から取り組むものです。二次処理には、ALPSなどの装置を使用する方法が検討されています。
ALPS処理水の二次処理のイメージ
いずれにしろ、タンクに貯蔵されているALPS処理水を今後どのように取り扱うかということについては、まだ何かしらの決定がなされたわけではなく、議論の途上にあります。地元の人々や専門家の意見を丁寧に聞き、さまざまな議論を重ね、安全・安心を第一に、対策に取り組んでいきます。
電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室
長官官房 総務課 調査広報室
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