安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策⑥ALPS処理水の処分による放射線の影響は?

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【ポイント】
リストアイコン 実績のある海洋放出・水蒸気放出について、すべてのALPS処理水を仮に1年で処分した場合の放射線影響を評価。
リストアイコン どちらの方法も、自然放射線による被ばく線量と比べると、1000分の1以下という結果になりました。
リストアイコン なお、水蒸気放出と比較して、海洋放出の影響は半分以下という結果になりました。

スペシャルコンテンツでは、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)で発生している高濃度の放射性物質を含む「汚染水」とその対策に関して、理解に役立つ基本的な情報や最新情報などをご紹介してきました。今回は、汚染水を浄化した「ALPS処理水」の問題に関し、さまざまな処分方法を検討する際に基本となる、「処分による放射線の影響をどのように評価するか」という問題についてご紹介します。

あらためて、福島第一原発の「汚染水」と「ALPS処理水」をおさらい

2011年に福島第一原発で起こった原発事故の影響で、今も一定量が発生している、高い濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」。この汚染水は、①漏らさない ②近づけない ③取り除くという3つの基本方針のもと、さまざまな対策が進められています。

発生した汚染水は、62種類の放射性物質を取り除く「多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System、ALPS)」など複数の除去設備を使った浄化処理がなされて、「ALPS処理水」となり、福島第一原発敷地内にあるタンクに継続的に貯蔵されています。その放射性物質の濃度は、汚染水と比較して100万分の1程度です。

ALPS処理水の中には、ALPSでも取り除くことのできない放射性物質「トリチウム」が含まれています。ALPS処理水の今後の取り扱いについては、国の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(ALPS小委員会)」で検討が進められています。

ALPS処理水を処分した場合の「放射線による影響」を評価してみる

2016年に報告書を取りまとめた「トリチウム水タスクフォース」では、さまざまな処分方法の選択肢について技術的に評価がおこなわれました。整理・分類された処分方法の選択肢は、次の5種類です。

「トリチウム水タスクフォース」が整理した5つの処分方法
① 地層注入
② 海洋放出
③ 水蒸気放出
④ 水素放出
⑤ 地下埋設

ALPS小委員会では、これらの方法をとった場合にどのような放射線による影響が起こると考えられるかについて、評価が示されました。

安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策③トリチウムと『被ばく』を考える」では、被ばくや放射性物質について考える時は、単なる放射線の「あり・なし」やベクレルの数値だけではなく、シーベルト、つまり人体が受ける「被ばく線量」について注目し、議論することが重要であるとお伝えしました。このように、ある放射性物質がもたらす影響の度合いについて評価をおこなうことを、「被ばく評価」あるいは「放射線の影響評価」と言います。

トリチウム水タスクフォースでは、放射性物質についてさだめられた規制基準を守り、私たちの生活圏への科学的な影響が出ないということを前提にして、処分方法の選択肢が検討されてきました。そのため、いずれの方法であっても、放射線の影響は、1ミリシーベルト/年よりもじゅうぶんに小さくなると予測されます。

一方で、さまざまな選択肢のもたらす放射線の影響を、横に並べて比較することのできる方法は存在しません。5つの処分方法のうち、これまで放出実績があるのは海洋放出と水蒸気放出だけで、それ以外の処分方法については、ひじょうに大胆な仮定をおいて考えることになってしまうためです。

ただ、実績のある海洋放出と水蒸気放出については、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」が、比較可能なモデルを公開しています(“SOURCES,EFFECTS AND RISKS OF IONIZING RADIATION”の付属書類A: “METHODOLOGY FOR ESTIMATING PUBLICEXPOSIRES DUE TO RADIOACTIVE DISCHARGES”(PDF形式:1.96 MB))。そこでALPS小委員会では、このモデルを使った、海洋放出と水蒸気放出に関する放射線の影響評価が示されました。

UNSCEARの計算モデルを使って、水蒸気放出と海洋放出の影響を検討してみる

UNSCEARは、放射性物質があたえる環境や健康への影響を調査するために設立された機関です。科学的・中立的な立場から影響の調査や評価をおこなっており、27カ国が加盟しています。

UNSCEARの評価モデルは、「放射性物質が環境に放出された場合、一般公衆がどれくらい放射線の影響を受けるか」を評価するためにつくられたモデルです。その特徴は、①水蒸気放出と海洋放出について、放出した地点の近くの地域に暮らす人々が受ける放射線の影響(1人あたり)を評価することができる、②「放射性物質を100年間放出し続けた状態」、つまり、現実的にはありえないほどの厳しい状態を仮定して、その状態における1年間の放射線の影響を評価することができる、③評価にあたっては、水蒸気放出と海洋放出それぞれで、下記のような被ばく経路を考慮することができるという点です。

リストアイコン 水蒸気放出の場合:大気からの外部被ばく、堆積後の土壌からの外部被ばく/吸入摂取による内部被ばく、陸生生物を摂取することによる内部被ばく
リストアイコン 海洋放出の場合:砂浜からの外部被ばく/海洋生物を摂取することによる内部被ばく

さらに、今回の影響評価をおこなうにあたっては、以下の条件などが前提としておかれました。

リストアイコン アジア太平洋地域の人々の食習慣(水蒸気放出の場合は肉や穀物などの年間摂取量、海洋放出の場合は魚や甲殻類などの年間摂取量)を参照する
リストアイコン 処分する廃棄物に含まれるトリチウムの濃度は「1リットルあたり100万ベクレル」と仮定。なお、規制基準を満たすため、必要な希釈をおこなってから処分することは前提である
リストアイコン そのほかの核種(放射性物質)については、「告示濃度比1」未満まで処理ができている、つまり、国のさだめた規制基準を満たしているタンクの実測値を適用する(「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策④放射性物質の規制基準はどうなっているの?」参照)

上の表は、UNSCEARの評価モデルを使って、水蒸気放出もしくは海洋放出による放射線の影響をそれぞれ評価したものです。1年間でどれだけの量のトリチウムを放出するかという「処分速度」については、放出量が年間約860兆ベクレルの場合、年間約86兆ベクレルの場合、年間約8.6兆ベクレルの場合を仮に置いて評価をおこなっています。

約860兆ベクレルという数値は、2019年10月31日時点で、福島第一原発の敷地内にあるタンクに貯蔵されているトリチウムの総量です。

ALPS処理水タンクに貯蔵されているトリチウム量の内訳を、実測と推定の値でそれぞれ表にまとめています。

*1:測定未実施・移送中のALPS処理水タンク及びストロンチウム処理水タンクを含む。
*2:推定値であるため、今後、実測の結果によって値を見直す可能性がある。

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つまりこのモデルによれば、現時点で貯蔵されている、トリチウムを含んだALPS処理水すべてを1年間で処理した場合、放射線による影響は、海洋放出であれば年間約0.000052ミリシーベルト~0.00062ミリシーベルト、水蒸気放出であれば年間約0.0013ミリシーベルトという計算結果になるわけです。

日常生活の中で空気中にある放射性物質などから受ける「自然被ばく」は、日本の平均値で年間2.1ミリシーベルトですから、たとえ約860兆ベクレルを1年間で処分したとしても、その放射線による影響は、自然被ばくにくらべてじゅうぶんに小さい値になる(自然被ばくの約1000分の1)という計算結果が得られました。また、このモデルによれば、海洋放出がもたらす放射線による影響は、水蒸気放出とくらべて半分以下という結果になります。

年間約860兆Bq放出した場合の放射線影響と自然放射線による放射線影響の比較
水蒸気放出、海洋放出による放射線の影響と、自然放射線からの放射線影響をグラフで比べています。

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ALPS小委員会では、こうした科学的な事実に加えて、風評被害対策など、社会的な観点も含めて、有識者による議論が進められています。今後取りまとめられる有識者の提言をふまえて、「復興」と「廃炉」を両立して進めていくため、最適な処分方法について政府として検討していきます。

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