安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策⑤ALPS処理水の貯蔵の今とこれから

福島第一原子力発電の敷地内にあるタンクの写真です。

(出典)東京電力ホールディングス ホームページ

2021年4月13日より、「ALPS処理水」という言葉の定義が変更となっています。
この記事は定義変更前に書かれたものです。新しい定義については、以下のページをご覧ください。
東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の定義を変更しました
「復興と廃炉」に向けて進む、処理水の安全・安心な処分②~「二次処理」と処理水が含む「そのほかの核種」とは?
【ポイント】
リストアイコン ALPS処理水は敷地内のタンクに貯蔵されていますが、現在の計画では2022年夏頃に満杯になる見通しです。
リストアイコン タンクの増設だけでなく、今後必要になる施設の設置も含めて、敷地全体の使い方を考える必要があります。
リストアイコン 福島の復興と福島第一原発の廃炉を両立して進めていくという観点から、処理水の取りあつかいについて今後議論を深めていきます。

スペシャルコンテンツではこれまで、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)で発生している高濃度の放射性物質を含む「汚染水」とその対策に関して、理解に役立つ基本的な情報や最新情報などをご紹介してきました(「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策①『ALPS処理水』とは何?『基準を超えている』のは本当?」など参照)。今回は、浄化処理をおこなった「ALPS処理水」の保管状況についてご紹介します。

敷地内に貯められているALPS処理水

「汚染水」は、2011年に福島第一原発で起こった原発事故の影響で発生しているものです。今も原子炉の内部に残っている、溶けて固まった燃料(燃料デブリ)を冷却し続けるために水を使うことなどから、高い濃度の放射性物質を含んだ一定量の水が生じているのです。

この汚染水は ①漏らさない ②近づけない ③取り除くという3つの基本方針のもと、さまざまな対策が進められており、発生量は対策前の3分の1ほどに減少しています。一方、発生した汚染水については、放射性物質のリスクを下げるための浄化処理がおこなわれています。浄化処理には、62種類の放射性物質を取り除く「多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System、ALPS)」など複数の除去設備が使用されており、ALPSを使って浄化処理をおこなった水は「ALPS処理水」と呼ばれており、放射性物質の量は、「汚染水」と比較すると100万分の1程度となっています。

このALPS処理水は、ALPSでも取りのぞくことのできない「トリチウム」を含んでいるものの、大部分の放射性物質を取り除いたことで、原発の敷地の境界における放射線量(敷地境界線量)の規制基準を満たすものとなっており、敷地内のタンクに継続的に貯蔵されています。

2022年夏には敷地がいっぱいに?

このALPS処理水を貯蔵しているタンクは現在も増え続けています。燃料デブリを水で冷やし続けるかぎり、汚染水の発生は量が減ったとはいえ続くためです(「汚染水との戦い、発生量は着実に減少、約3分の1に」参照)。

これまで、敷地の南側では、森林を伐採するなどしてタンク設置エリアを広げてきた結果、現在では敷地の南側の多くをタンクが占めています。

タンクエリア周辺を上から撮った2018年12月撮影の写真に、2013年3月のタンクエリアを書き込むことでエリアを比較しています。タンクエリアが敷地の南側に広がったことがわかります。

(出典)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第13回)資料より資源エネルギー庁作成

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また、敷地の北側は、廃棄物貯蔵施設などの建設や、建設時に掘り出した土の置き場として活用する計画で、タンクを建設するために適した用地は限界を迎えつつあります。2019年9月18日時点のALPS処理水のタンク容量は112万立方メートル、ALPS処理水保有水量は107万立方メートルとなっています。2020年末までに137万立方メートル(ALPS処理水用:約134万立方メートル+ストロンチウム(Sr)処理水用:約2.5万立方メートル)の容量を確保する計画ですが、それも2022年夏頃には満杯になる見通しです。

ALPS処理水用の貯槽容量と保有水量を2017年10月から2023年4月までの折れ線グラフで比較しています。

※別途、Sr処理水が約2.5万m3必要 (出典)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第13回)資料より資源エネルギー庁作成

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もっとタンクを増やすことはできないの?

今後、タンクの置き場所を増やす余地はまったくないというわけではありません。しかし、これから廃炉作業が進展していくにつれ、福島第一原発の敷地内には、“置いておくべきもの”がほかにも出てきます。

たとえば、使用済燃料を納めた「乾式キャスク(保管容器)」や、原子炉内から取り出した燃料デブリを一時保管するための施設が必要になります。これらの施設の建設に必要な敷地面積を試算すると、合わせて約81,000平方メートルの敷地が必要となり、これはタンクでたとえると約38万立方メートルぶんの容量となります。こうしたことから、タンクの増設も含めて敷地全体をどうやって利用していくのか、長い目で検討していくことが求められます。

使用済燃料や燃料デブリの一時保管施設
乾式キャスク一時保管施設と、燃料デブリ一時保管施設を設置するために必要な面積を表しています。合計で81,000m2となります。

福島第一原発の構内図
福島第一原発の構内図です。南側がタンクの設置エリア、北側がそのほかの施設を設置するエリアになります。

(出典)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 説明・公聴会資料より資源エネルギー庁作成

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なお、原発から敷地外へALPS処理水を持ち出すということは、別途で守るべき規制基準がある、運搬方法や運搬ルートの検討が必要となるなど、容易なことではありません。

ALPS処理水はこれからどうなるの?

ここまでの状況をまとめてみましょう。

リストアイコン ALPS処理水を貯蔵するタンクは今後も増えるが、タンクは2022年夏ごろには満杯になる見通し
リストアイコン 貯蔵を継続するにはタンクの増設が必要だが、他にも廃炉作業のため福島第一原発の敷地には置くべきものや建設すべき建物がある
リストアイコン ALPS処理水を福島第一原発の敷地外に持ち出すことは容易ではない

さらに、もうひとつ考慮にいれておくべきポイントとして、「原発の廃炉とは、福島を復興することの前提条件である」ということがあげられます。一方で、廃炉を急ぐあまり、復興がないがしろになるようなことはあってはなりません。この“廃炉”には、燃料デブリを取り出したり原子炉を解体したりすることだけでなく、ALPS処理水のタンクをどうするか?ということも含まれます。

つまり、ALPS処理水の処分とは、廃炉作業の一環なのです。そのため、廃炉作業が完了する頃にはタンクもなくなっているという状態にすることが求められます。

リストアイコン 廃炉は福島の復興の前提条件
リストアイコン 廃炉作業が完了する頃にはALPS処理水の処分も終わっていることが必要

貯蔵を継続することや今後の処分方法など、これからどのようにALPS処理水を取りあつかっていくかについては、これらのすべてのポイントをふまえながら考えることが必要となります。

現在、政府の「汚染水処理対策委員会」の下に設けられている「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で、有識者により議論が続けられています。「復興」と「廃炉」を両立して進めていくために、風評への影響について、議論を深めていきます。

2020/5/1追記:「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の報告書が、2020年2月10日に政府に提出されました。現在、政府として、同報告書を踏まえ、幅広い関係者から御意見を伺っています。関係者の御意見を伺う場および書面による御意見の募集についての最新情報は、参考2をご参照ください。
(参考1)小委員会報告書について
(参考2)関係者の御意見を伺う場について

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経済産業省 大臣官房 福島復興推進グループ 原子力発電所事故収束対応室

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長官官房 総務課 調査広報室

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