世界の温室効果ガス排出量と削減目標の「今」を知ろう――「エネルギー白書2025」から(後編)

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世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量は、増加傾向が続いています。2023年の世界全体の排出量は、CO2に換算して前年比で約1.3%増加し、過去最高水準に。各国とも、パリ協定(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)の「1.5℃目標」に向けてGHG排出削減に取り組んでいますが、その状況や取り組みの内容には違いがあります。日本をはじめ、主な国々のGHG排出削減目標やカーボンニュートラル実現に向けた取り組みについて、最新の「エネルギー白書2025」からピックアップし、2回に分けてご紹介します。

主要5か国のGHG排出削減とカーボンニュートラル実現に向けた動向

後編では、カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・中国の5カ国について、それぞれのGHG排出削減率の目標と進捗、その背景にある「最終エネルギー消費量」(最終的に消費者が使うすべてのエネルギー量から発電や輸送中のロスなどを差し引いたもの)の削減率、「非化石電源比率」(発電に占める再生可能エネルギー〔再エネ〕と原子力の比率の合計)をグラフで見ていきましょう。

なお、削減実績や排出実績については、森林によるCO2の取り込みや土地利用変化にともなうCO2の放出など(LULUCF分野)を考慮する、削減率の基準年および年度を各国の排出削減目標(NDC、「気候変動対策、どこまで進んでる?初の評価を実施した『COP28』の結果は」参照)基準年および基準年度と合わせるなど、一定のルールのもとで算出しています。詳しくは「エネルギー白書2025」をご覧ください。

主要5か国・地域におけるGHG排出削減率・最終エネルギー消費量削減率・非化石電源比率
カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、中国のGHG削減の進捗状況について、それぞれ 2050~2060年に向けた排出削減率の進捗と目標、2022年までの最終エネルギー消費量削減率の推移、2022年までの非化石電源比率の推移を、それぞれ折れ線グラフで示しています。

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カナダ

これまでの進捗

カナダのGHG排出量は、2000年代以降は横ばいで推移しており、2022年時点の削減実績は2005年比で約8%です。産業別にみて、排出量が多いのはエネルギー転換部門、運輸部門で、2部門の合計で排出量全体の約4割を占めています。最終エネルギー消費量は2000年代前半にかけて増加した後は横ばい状態です。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は、1990年以降一貫して8割程度と高い水準にあります。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2050年カーボンニュートラルに向けて、2035年に2005年比でGHG排出を45~50%削減する目標を掲げています。目標実現に向けて、産業用設備が満たすべきエネルギー効率規制の強化や高効率設備の導入支援、住宅や建築物の省エネ基準の段階的な引き上げ、EVの導入などの省エネを推進。再エネは、水力発電が占める割合が大きく、引き続き活用を進めるともに、原子力も推進していきます。

次世代エネルギーについては、水素の製造・利活用を進めるとともに、CCUSにも取り組み、年間1,500万トンのCO2を回収・貯留することをめざして、事業支援をおこなっていきます。

フランス

これまでの進捗

フランスのGHG排出量は、1990年頃をピークに減少傾向にあり、2022年時点の削減実績は1990年比で約28%です。産業別にみて、排出量が多いのは運輸部門、家庭・業務部門で、2部門の合計で排出量全体の約5割を占めています。最終エネルギー消費量は2000年代半ばから減少傾向にあります。最終エネルギー消費のうち約3割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は、1990年以降、90%程度の高い水準で推移しています。なかでも原子力比率が2022年で63%となっており、他国と比較して高い水準にあります。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2050年カーボンニュートラルに向けて、2030年に1990年比でGHG排出を50%削減する目標を掲げています。そのために、2030年の最終エネルギー消費削減目標(2012年比で30%減)を設定し、建築物の省エネ改築などを推進。再エネについては、2035年の設備容量の目標を設定(たとえば太陽光発電は現在の3〜4倍に拡大)し、税制優遇などの導入支援をおこなうとしています。原子力は、既存原子力の運転期間の延長や原子力の容量の増強など、今後も推進する方針です。

次世代エネルギーについては、再エネや原子力から製造される脱炭素水素の製造能力を拡大し、2030年に6.5GW、2035年に10GWの水電解装置を導入する目標を設定。CCUSは、2050年までに年間3,000〜5,000万トンのCO2を回収する目標を掲げ、国内のCO2貯留地の開発などを進めるとしています。

ドイツ

これまでの進捗

ドイツのGHG排出量は、1990年以降減少傾向にあり、2022年時点の削減実績は1990年比で約41%です。産業別にみて、排出量が多いのはエネルギー転換部門、運輸部門で、2部門の合計で排出量全体の約5割を占めています。最終エネルギー消費量は2000年半ばから減少傾向にあります。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は、2022年時点で50%です。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

EUが2050年にカーボンニュートラルの実現をめざす中、ドイツは2045年の実現をめざすというさらに高い目標を宣言しており、2040年に1990年比で少なくともGHG排出を88%削減する目標を掲げています。最終エネルギー消費量を2030年までに2008年比で27%削減する目標を掲げ、産業分野における高効率機器の導入支援、公共部門の省エネの義務化、EVの導入などの省エネを推進しています。2023年4月には原子力を全廃。再エネをエネルギー政策の中心に位置づけ、2030年に再エネ比率を80%まで引き上げる目標を設定しました。

次世代エネルギーについては、2030年の国内の水素生産能力を10GWに倍増させる目標に加え、国外からの輸入水素については、水素の供給側と需要側のダブルオークションにより水素輸入の支援をおこなう「H2Global」や、水素の海外からのパイプライン輸送を含めたインフラ整備などを進めるとしています。CCUSは、今後、CO2の海上輸送・海底貯留を進める方針です。

イタリア

これまでの進捗

イタリアのGHG排出量は、2000年代後半から減少傾向にあり、2022年時点の削減実績は1990年比で約24%です。産業別にみて、排出量が多いのはエネルギー転換部門、運輸部門で、2部門の合計で排出量全体の約5割を占めています。最終エネルギー消費量は省エネの推進や再エネの導入などにより、2000年代半ばから減少傾向に転じた後、2010年代半ばから横ばいで推移しています。最終エネルギー消費のうち約2割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は、2022年時点で36%です。

今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2030年に1990年比で少なくともGHGの排出を55%削減というEUの目標を踏まえ、2050年カーボンニュートラルを宣言しています。省エネについては、産業分野における高効率設備の導入支援、公共部門のエネルギー効率の向上、EVの導入などを推進。再エネは、太陽光・風力発電の電源比率を2030年に2022年比でそれぞれ2倍以上とし、最終エネルギー消費における再エネの割合を2030年までに39.4%に引き上げる目標を掲げています。

原子力は1987年の国民投票により原子力発電所の廃炉が決定し、1990年から発電量はゼロとなっていますが、2024年以降、再開への動きが活発化し、2027年中に原子力再開に向けた法令などを整備する方針です。次世代エネルギーについては、2030年までに水素利用によって最大800万トン相当のCO2を削減し、2030年までに最終エネルギー需要の2%を水素でまかなうなどの目標を設定。CCUSはプロジェクトが推進中で、2030年までに年間400万トンの貯留をめざしています。

中国

これまでの進捗

中国のGHG排出量は増加傾向にあり、2021年時点の排出量実績は2005年比で約79%増加しています。産業別にみて、排出量が多いのはエネルギー転換部門、製造・建設部門で、2部門の合計で排出量全体の約7割を占めています。最終エネルギー消費量は、2000年代以降増加傾向にあります。最終エネルギー消費のうち約3割を電力が占めており、電力部門における非化石電源比率は、再エネと原子力の開発が推進されたことを背景に2010年頃から増加しており、2022年には35%となっています。

中国のGHG削減の進捗状況について、2060年に向けた排出削減率の進捗と目標、2022年 までの最終エネルギー消費量削減率の推移、2022年までの非化石電源比率の推移を、それ ぞれ折れ線グラフで示しています。

※UNFCCCに提出しているGHG排出量の最新データが2021年のため、GHG排出削減率は2021年までを記載。2021年以前は、GHG排出量をUNFCCCに提出している年のみ記載

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今後の目標とカーボンニュートラルに向けた取り組み

2060年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げており、2030年までにCO2排出量がピークを迎えられるように努めるとしています。2025年の単位GDP当たりのエネルギー消費量を2020年比で13.5%引き下げる目標に向かって、鉄鋼などの重点業種の設備改良支援や新築建築物の省エネ基準の強化、EVの導入などの省エネを進めていく方針を掲げています。再エネについては、風力と太陽光発電の合計の設備容量を2030年までに1,200GW以上に拡大するなどの目標を設定。原子力も拡大する方針で、設備容量を2025年までに70GWに引き上げるとしています。

次世代エネルギーについて、中国は世界の総需要の約3割を占める世界最大の水素生産国であり、2025年までにFCVの保有を5万台、グリーン水素を年間10〜20万トン製造するなどの目標を掲げています。CCUSは、技術実証の一環として、国内最大の石炭火力発電所におけるプロジェクトが2023年6月に稼働しました。

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地球温暖化への対応は、世界中が早急に取り組むべき課題です。日本はもちろん、各国の現状や対策を知り、その動きを今後も注視していきましょう。

主要5か国・地域の数値出典
カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・中国の数値出典一覧を記載しています。

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お問合せ先

長官官房 総務課 調査広報室

※掲載内容は公開日時点のものであり、時間経過などにともなって状況が異なっている場合もございます。あらかじめご了承ください。