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エネルギーや地球温暖化問題のニュースを見ていると、「国際エネルギー機関(IEA)」という組織の名前を耳にすることが多くあるでしょう。つい最近も、「パリ協定」(「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)の目標を遵守するため取り組むべき対策について提言を発表したことが、世界中で報じられています。今回はそんなIEAが毎年発表する「World Energy Outlook」とはどのようなものかについてご説明しましょう。
IEAは、1974年、当時の西側先進国を中心にして、経済協力開発機構(OECD)の枠内に設立された国際組織です。設立のきっかけは、1970年代に2度にわたり、世界中で混乱を引き起こしたオイルショック(「【日本のエネルギー、150年の歴史④】2度のオイルショックを経て、エネルギー政策の見直しが進む」参照)。この時の学びを活かし、石油を輸入している「石油消費国」が互いに協力することで、石油の安定供給を図るための取り組みを始めたのです。現在では、石油に限らず、液化天然ガス(LNG)、再生可能エネルギーを含むさまざまなエネルギーに関するグローバルな協力を推進しています。加盟には、①OECD加盟国であり、②純輸入量の90日分の石油備蓄をおこなっていることが条件となっています。2019年12月現在の加盟国は、オブザーバーである欧州委員会を含め30カ国です。
IEAがおこなっている取り組みのひとつが、国際エネルギー情勢に関する分析と政策提言です。毎年発行している「World Energy Outlook」は、IEAを代表する刊行物であり、エネルギーの需給や技術開発に関する見通しなどを示したレポートとして、世界的に権威のあるものとなっています。2019年のレポートは11月13日に発行されました。下記サイトでは無料で簡易版「エグゼクティブ・サマリー(日本語版)」をダウンロードすることもできます(IEA「World Energy Outlook 2019」)。
「World Energy Outlook」では、以下の3つのシナリオに基づいた分析をおこなっています。シナリオ分析とは、行動を起こすこと/起こさないことによって生じる可能性がある、それぞれの未来の姿を分析しているものです。この分析は、その年のエネルギー情勢や各国の政策などさまざまな因子を反映しながら毎年更新されるため、経年で見ると、過去の時点で未来の姿として分析された“今”の姿が、実際の“今”とは異なっているという現象も起こります。IEAも、このシナリオ分析は「これから起きることを予測しているものではない」と明言しており、注意が必要です。
「現行政策シナリオ」は、世界各国が今の政策を何も変更せずに、現在の道をそのまま歩み続けた場合にどうなるかを示したシナリオです。「World Energy Outlook 2019」の本シナリオによれば、エネルギー需要は2040年まで毎年1.3%ずつ増加。また、エネルギー関連のCO2排出量は2018年の「2.3%」という伸びは大きく下回るものの、たえまない増加を続けることになると分析しています。
「公表政策シナリオ」は、世界で公表されている政策イニシアティブなど、各国政府の現在の計画を組み込んだシナリオとなっています。ただし、政策の方向性が将来どのように変わっていくかを推測しているものではありません。IEAは、3種類のシナリオのうち、このシナリオを中心シナリオ(Central Position)と位置づけています。「World Energy Outlook 2019」の本シナリオによれば、エネルギー需要は2040年まで毎年1%ずつ上昇し、その需要の伸びの半分以上を太陽光発電を始めとするCO2排出量の少ないエネルギー源が、3分の1をLNGを含む天然ガスが供給すると分析しています。
「持続可能な開発シナリオ」は、「パリ協定」で定められた下記の目標を完全に達成するためには、どのような道筋をたどることになるかを分析したシナリオです。
このシナリオは、上記の目標を達成するだけでなく、「あらゆる人々がエネルギーを利用できる」ようにし、同時に「大気汚染を改善する」という目標を満たすものになっています。すべての目標を達成するために、このシナリオでは、エネルギーシステムのあらゆる部分で急速かつ幅広い変化が求められています。また、単一の解決策ではなく、利用可能なすべての燃料およびすべての技術を利用していくことが必要と分析しています。
2019年版の「World Energy Outlook」ではさまざまな見通しが示されていますが、アジアについては以下のようなことが示されています(「公表政策シナリオ」による)。今後、米国のシェールオイルの増産もあるものの、世界が石油供給を中東に大きく依存する構造は変わらない。特に、燃料を輸入に依存する度合いの高いアジアにとって、ホルムズ海峡は引き続き重要な場所となる中国やインド、東南アジア、中東、アフリカなどの国・地域では、経済成長と共にエネルギー需要の増加が見込まれる。最大の需要国は引き続き中国だが、インドは国単位での需要増は最大幅に
一次エネルギー需要量
(出典)World Energy Outlook 2019
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一次エネルギー需要変動量
2040年になっても、世界の一次エネルギー全体の7割以上は化石燃料(石炭・石油・天然ガス)に依存。
エネルギー源ごとのシェア
また、分析では、「持続可能な開発シナリオ」で示される2050年のCO2排出量を「パリ協定」遵守ベースまで削減するという“理想”と、「公表政策シナリオ」で示される“現実”のギャップを埋めるには、すべてのエネルギー源およびすべての技術を総動員させる必要があることも示されています。下のグラフを見ると、CO2削減のためには、省エネルギーや再生可能エネルギーのさらなる推進だけでなく、原子力発電や水素など、CCUSなどあらゆる選択肢を追求する必要があることがわかります。なお、この分析は、変化することでかかる社会的コストが最小化されるシナリオとなっています。
「公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario)」と「持続可能な開発シナリオ(Sustainable Development Scenario)」の間のギャップを埋めるために必要な取り組みとその貢献度(出典)World Energy Outlook 2019
IEAでは、2年に1回、各国の閣僚が集うIEAの最高意思決定機関である「閣僚理事会」を開催し、今後のIEAの活動に関する方向付けをおこなっています。2019年12月に開かれたIEAの閣僚理事会では、その方向性を示す「閣僚声明」が10年ぶりに合意されました。声明では、①エネルギー安全保障の強化、②持続可能なエネルギーシステムの構築、③アソシエーション参加国(加盟国とは別に閣僚理事会に参加している新興国)との連携強化(インドとの交渉開始)について、閣僚だけでなく産業界もまじえて議論がなされました。閣僚理事会の成果文書である「閣僚コミュニケ」では、「すべての燃料と技術による貢献を模索することにより、主導的なグローバルなエネルギー機関としてのIEAの役割のさらなる強化に向けた、IEAの継続的な活動を奨励する」と記載されました。このように、IEAが現在おこなっているバランスのとれた分析は、加盟国からも高く評価されており、世界のエネルギー政策を検討するにあたってIEAは引き続きとても重要なピースであるという認識が各国間で共有されました。IEAは、そもそもの設立の経緯ゆえに、エネルギー安全保障、経済成長、環境保全(3E)を同時に達成することを目指しています。この姿勢は、「3E+安全性(S)」を重視してエネルギー政策を進める日本とも非常に親和性の高いものです。IEAのレポートを読みときながら、あるべき未来のエネルギーの姿を考えてみてはいかがでしょうか。
長官官房 国際課長官官房 総務課 需給政策室
長官官房 総務課 調査広報室
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