G7札幌でも合意、重要鉱物の安全保障を目指す「5ポイントプラン」とは?

オーストラリアのグリーンブッシュリチウム鉱山の写真です。

オーストラリアのグリーンブッシュリチウム鉱山

G7広島サミットに関連して、2023年4月に札幌でおこなわれた「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」(G7札幌)。パリ協定の精神をふまえ、クリーンエネルギー中心の社会・産業構造に移行するために、「グリーントランスフォーメーション(GX)」のグローバルな推進などについて議論されました。G7札幌ではさまざまな成果がありましたが、そのうち、今回は「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」をご紹介します。重要鉱物とは希少な金属鉱産物で、脱炭素社会ではさらに重要性が高まると考えられています。重要鉱物の安全保障について、国際社会ではどのように取り組んでいくのでしょうか。

世界で重要性を増す鉱物資源の課題

社会全体がクリーンエネルギーに移行するために、よりいっそう重要となるのが重要鉱物です。たとえば、電気を動力源とする電動車(xEV)の電池などに使われるリチウム、ニッケル、コバルトなどはその代表例です。また、風力・太陽光・地熱発電や大容量蓄電池など再生可能エネルギー部門においても、重要鉱物は欠かせない資源です。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2022年の主要な重要鉱物の市場規模は、5年前の2倍の3200億ドル(約45兆円)に拡大しており、その需要がますます高まっています。

カーボンニュートラル社会の実現に必要な鉱物資源
カーボンニュートラル社会の実現のために、再生可能エネルギー部門と自動車部門それぞれのシステムと要素技術にどのような種類があり、必要となる鉱物資源が何かを表で示しています。

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一方で、重要鉱物の供給にはさまざまな課題があります。特に多くの重要鉱物のサプライチェーンが一部の国に依存していることは、強靱な重要鉱物サプライチェーン構築の最大の課題となっています。このサプライチェーンにおける依存は、鉱物の産出国の集中だけでなく、製錬工程が特定国にかたよっていることが大きな特徴となっています。

重要鉱物サプライチェーンにおける集中
2019年における6種類の重要鉱物の産出および製錬工程について、それぞれを担ったトップ3の国名とそのシェアについて棒グラフで比較し、サプライチェーンが特定国に集中していることを示しています。

(出典)IEA「Critical Minerals Market Review 2023」

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世界中で需要が増加している重要鉱物について、責任あるサプライチェーンを構築し、地域社会の利益の確保、イノベーションと競争力の強化、あわせて環境への影響抑制を実現するために、G7札幌で合意されたアクションプランが「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」です。

課題克服のための5つのポイント

G7札幌の合意文書では、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を重視して、トレーサビリティを備えた重要鉱物のオープンで透明性のあるルールや市場構築を目指すこと、また、重要鉱物の独占あるいは市場操作などの政策に反対し、生産国、消費国の対話をうながしていく方針をかかげました。それを実現するためのアクションプランとして、次の5つのポイントを整理しています。

ポイント1:長期的な需給予測

クリーンエネルギー移行に不可欠であり、今後需要の高まる重要鉱物については、中長期的な需給見通しを正確につかむことが必要です。IEAは、2021年に重要鉱物に関する初めての包括的なレポート「The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions」を出しました。これによると、重要鉱物の需要は今後、大きく伸びることがうかがえます。

IEAによる重要鉱物の需要見通し
2021年のIEAのレポートにおいて示された、コバルトやリチウムなど各重要鉱物の今後の需要見通しの棒グラフです。

(出典)IEA「The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions (2021)」

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このレポートは画期的なレポートとして評価されていますが、将来見通しについては、需要サイドでは技術進展の取り込みが不十分であり、また、供給サイドもより精緻な検討が必要となっています。そこで、新たに、鉱業生産および消費の両部門の専門的知識にもとづき、より精度の高い中長期的な需給見通しを立てることを目指します。IEAに各国の専門家を入れた会合を立ち上げ、新たな技術開発動向なども取り入れつつ、IEAの重要鉱物作業部会と協力して、需給予測に関する分析および検証を実施していきます。

ポイント2:責任ある資源・サプライチェーンの開発

希少資源を巡っては、国際競争が激化しています。そのため、重要鉱物の新たな鉱山やサプライチェーンの開発については、透明性とトレーサビリティを備えた責任ある方法でおこなうことが必要です。2022年3月には、米国主導で「鉱物セキュリティパートナーシップ(MSP:Minerals Security Partnership )」が立ち上げられました。これは、高いESG基準にもとづいて資源・サプライチェーン開発への共同投資を推進する枠組みで、G7各国・欧州委員会のほか、豪州、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、韓国、インドの14カ国・地域が参加しています。各国の財政支援を活用しながら、こうした国際共同投資を推進していきます。

具体的な財政支援措置としては、G7全体で、国内外のプロジェクトに活用できる130億ドルの準備があります。日本は、探鉱や鉱山開発、精錬などの事業に対するJOGMEC(独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構)の出資による支援が1,100億円、さらに技術開発にも活用できる経済安保推進法による支援が1,058億円、あわせて2,158億円の支援措置を用意しています。

ポイント3:さらなるリサイクルと能力の共有

廃棄された電気・電子機器のことを「e-Waste」と呼びます。金・銀・銅のほか、アンチモンやパラジウムなどの重要鉱物をはじめとするリサイクル可能な資源を含むことから都市鉱山ともいわれています。国連は、2019年に排出されたe-Wasteの価値を570億ドルと推計しており、活用が重要な課題となっています。一方で、十分なリサイクル技術や設備がない発展途上国などでは、e-Wasteが未利用のままとなっていたり、環境に悪影響をおよぼす不適切な処理がなされていることもあります。

廃棄されたコンピューターのイメージ画像です。

廃棄されたコンピューター(イメージ)

そこで、国・地域を超えたe-Wasteの再利用やリサイクル処理を促進するため、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)などと連携して、東南アジア諸国でのリサイクル処理の技術指導やシステム構築のための人材育成を支援します。またこの取り組み結果を、MSPを通じて各国と共有し、e-Wasteのリサイクルに関するMSPのパイロットプロジェクトの立ち上げも検討します。

将来的には、EVのスクラップなどにより大量に廃棄されることになる使用済みリチウムイオン電池やネオジム磁石(現在最強の磁石で、EVのモータや風力発電の発電機などに活用)のリサイクルに、今回の手法を適用していくことも検討していきます。

ポイント4:技術革新による省資源

限られた重要鉱物をより効率的に活用していくことも大切です。そのためには、各国の産業状況に応じて、重要鉱物の省資源や代替技術のイノベーションを推進していく必要があります。たとえば日本では、高性能蓄電池・材料の開発や、蓄電池のリサイクル関連技術開発といった次世代蓄電池の研究開発に、GI(グリーンイノベーション)基金から1,205億円の支援がおこなわれています。

蓄電池のリサイクル関連技術開発
左に蓄電池の無害化処理工程の写真、右に蓄電池のリサイクル工程の写真が並んでいます。

(左)電池の無害化処理工程、(右)リサイクル工程

また、2010年のレアアース価格高騰などをきっかけに、重要原材料・鉱物に関する政策や研究開発に関する情報交換の場として、2011年「クリティカルマテリアル・ミネラル会合」が立ち上げられました。当初のメンバーは日・米・EUでしたが、その後カナダと豪州が参加。今般の5ポイントプランの議論を通じて日本がG7+豪州にメンバーを拡大することを提案し、各国が合意しました。重要鉱物に関する政策情報・技術情報を共有するための枠組みとして機能しています。

ポイント5:供給障害への備え

重要鉱物の安定供給が損なわれる「供給障害」も解決すべき課題のひとつです。2022年3月のIEA閣僚コミュニケにおいて、重要鉱物の短期的な供給障害に備えるための「重要鉱物の自主的なセキュリティプログラム」の立ち上げについて言及されました。G7ではこの取り組みを歓迎し、IEAに必要な情報を提供する方針です。2023年3月には、IEA鉱物資源作業部会(CMWP)が、2つのタスクフォースを立ち上げており、今後、セキュリティプログラムの検討を進めていく計画です。

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「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」は、G7広島サミットでも言及され、今後は5つのアクションプランを実行に移していくことが求められます。

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