2023―日本が抱えているエネルギー問題(後編)

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福島の復興

2011年の福島第一原子力発電所の事故以降、福島第一原子力発電所の各種対策については、中長期ロードマップにもとづいて安全かつ着実に取り組みを進めています。

① 廃炉
各号機は安定した状態を維持しており、使用済燃料プールからの燃料取り出しなどに向けた作業を続けています。燃料デブリ(燃料が溶けてさまざまな構造物と混じりながら固まったもの)の取り出しのために、2022年2月から2023年3月にかけて1号機の原子炉格納容器内部調査をおこないました。また2号機での試験的取り出しに向けて、2023年10月には原子炉格納容器内部につながる貫通孔のハッチを開放し、2024年1月からは貫通孔内部の堆積物の除去作業を始めています。試験的取り出しの着手時期は、遅くとも2024年10月頃を見込んでいます。

② 汚染水・処理水対策
福島第一原子力発電所で1日あたりに発生する汚染水の量は、凍土壁などの重層的な対策により、対策開始前の6分の1程度(対策開始前2014年5月:540㎥→2023年度:80㎥)に低減しています。汚染水は、複数の浄化設備で処理し、可能な限り放射性物質を除去してタンクに貯蔵しています。しかし、大量のタンクが敷地を圧迫し、今後の廃炉作業に支障が生じかねない状況となっています。こうした状況を踏まえ、2021年4月にALPS処理水(トリチウム以外の放射性物質について安全基準を満たすまで浄化した水)を海洋放出する基本方針を決定し、2023年8月に海洋放出が開始されました。引き続き、安全確保や風評対策に取り組みながら、汚染水・処理水対策にあたっていきます。

③ 避難指示解除
現在、「帰還困難区域」を除いて、すべての地域で避難指示が解除されています。また、帰還困難区域内においても、「特定復興再生拠点区域」(5年を目途に避難指示を解除し、住民の帰還を目指す区域)が設定され、除染やインフラ整備などの取り組みが進められました。その結果、JR常磐線全線開通に合わせて駅周辺を先行解除したのに続き、2022〜23年にかけて、6町村(葛尾村、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、飯館村)の「特定復興再生拠点区域」の全域で、避難指示が解除されました。

さらに、2023年6月の「福島復興再生特別措置法」改正により、帰還意向のある住民の帰還とその生活の再建を目指す「特定帰還居住区域」を帰還困難区域内に定めることが可能となりました。これを踏まえ、2024年2月までに、大熊町、双葉町、浪江町、富岡町の4町について、「特定帰還居住区域」を設定しました。2020年代をかけて、帰還意向のある住民の方々が帰還できるよう、今後、除染・インフラ整備などをはじめとした避難指示解除に向けた取り組みを進めていきます。

避難指示区域の概念図(2023年5月1日時点)
2023年5月1日時点の避難指示区域について、地図上に示しています。

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福島の復興には、住民の帰還だけでなく、産業の復興も必要となります。事業・なりわいの再建に加えて、「福島イノベーション・コースト構想」や「福島新エネ社会構想」を推進し、新たな産業集積を進めるほか、食品の安全性の確保など、福島の地域再生に向けた取り組みを推進していきます(「あれから10年、2021年の福島の『今』(前編)」参照)。

原子力発電の展望

国内にエネルギー資源がとぼしい日本では、電力の安定供給やコストの引き下げ、温室効果ガス(GHG)の排出抑制に貢献する原子力発電は欠かせない電源です。2024年1月現在、日本全国で12基の原子炉が稼働しています。原子力については、安全性の確保を最優先に、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、地元の理解を得ながら、原子力発電所の再稼働を進め、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現の両立を目指します。

日本の原子力発電所稼働状況
日本全国の原子力発電所について、2024年1月時点での稼働状況を地図上に示しています。

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資源の有効活用のためには、「核燃料サイクル」(「使用済核燃料を有効活用!『核燃料サイクル』は今どうなっている?」参照)と「地層処分」の問題も考えていかなければなりません。核燃料サイクルは、原子力発電所の使用済燃料を再処理し、回収されるウランとプルトニウムを再利用しつつ、放射性廃棄物の発生量を抑えるものです。再処理後に残る廃液は、ガラス原料と溶かし合わせてガラス固化体とし、地中深くに埋設して隔離する地層処分をおこないます。

核燃料サイクルと地層処分
核燃料サイクルと地層処分のしくみとメリットについて図で表しています。

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地層処分については、現在さまざまな検討がおこなわれています。2017年には、火山や活断層など地域の科学的な特性を示した「科学的特性マップ」を公表し、広く社会に地層処分への理解を深めてもらうため、全国各地で対話活動を実施しています(「『科学的特性マップ』で一緒に考える放射性廃棄物処分問題」参照)。2023年には、処分地選定に当たっておこなう段階的調査の第一段階「文献調査」(地質図や学術論文などの文献・データをもとにした机上調査)の実施地域拡大を目指して、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定しました。できるだけ多くの地域で文献調査ができるよう、改定した基本方針に沿って、全国の自治体を個別訪問しています(「最終処分地を選ぶ時の『文献調査』ってどんなもの?」参照)。

科学的特性マップ
地域の科学的特性を4つの色で色分けした科学的特性マップです。

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地層処分のフロー
地層処分の施設建設地が決定されるプロセスを図で表しています。

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原子力の活用は、日本のみならず世界的な潮流です。国際エネルギー機関(IEA)は、世界各国・地域の2050年ネットゼロ実現に向けて、原子力発電の新設や投資額を増やすニーズが高まると分析しています。2023年12月にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイでおこなわれた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」においても、気候変動に対する原子力の有効性が注目され、原子力を解決策のひとつとすることが決定文書に盛り込まれました(「世界で高まりを見せる原子力利用への関心 COP28でも注目」参照)。

2050年ネットゼロシナリオにおける原子力発電容量
2050年ネットゼロ実現に向けて、G7・その他の先進国・中国・その他の新興市場国および発展途上国がそれぞれどのように原子力発電容量を増やすのか、その展望を棒グラフで表しています。

(出典)IEA(2022)「Nuclear Power and Secure Energy Transitions: From Today’s Challenges to Tomorrow’s Clean Energy System(原子力発電と確実なエネルギー移行)」

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省エネルギー(省エネ)の取り組み

日本の省エネの取り組みは世界でも進んでいますが、さらにエネルギー消費効率を高める取り組みを強化しており、現在、2030年度に6,200万kl程度、エネルギー消費を削減する目標を掲げています。エネルギー消費効率については、2012年度の実績と比較して40%程度の改善を目標としており、これは、オイルショック後の省エネの取り組みを含め、過去にない高い水準となっています。

エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要
2013年度から2022年度までの各年のエネルギーミックスにおけるエネルギー消費と、2030年度の目標を、棒グラフで示しています。

(出典)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、内閣府「国民経済計算」、日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」をもとに資源エネルギー庁作成

エネルギー消費効率の改善
1970年から1990年、1990年から2010年のエネルギー消費効率改善率と、2012年から2030年に向けたエネルギー消費効率改善目標率を折れ線グラフで示し、比較しています。

省エネの取り組みはあらゆる分野で進められていますが、たとえば業務・家庭部門では、2030年度以降に新築される住宅・建築物について、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス=家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家)・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)基準の省エネ性能の確保を目指しています。

新築注文住宅のZEH化率の推移
2016年度から2022年度の新築注文住宅のZEH化率の推移を、ハウスメーカー、一般工務店、全体平均それぞれについて折れ線グラフで示しています。

加えて、突発的なエネルギー価格の高騰への対応や、カーボンニュートラル実現の観点から、エネルギーコスト上昇に対する「省エネ支援パッケージ」に基づき、企業・家庭向けの省エネ支援を強化しています。こうした支援策を含め、各種の施策や支援策については、「省エネポータルサイト」から確認することができます。

エネルギー問題は多面的で、単純に解決できない課題がたくさんあります。さまざまなエネルギーについて最新の情報を学び、これからの日本と日本のエネルギーについて一緒に考えていきましょう。

日本のエネルギーについてさらに詳しい情報が「日本のエネルギー2023」に掲載されていますのでご覧ください。
日本のエネルギー2023

2022年版の過去記事もあります。こちらをご覧ください。
2022—日本が抱えているエネルギー問題(後編)

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長官官房 総務課 調査広報室

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