鉄鋼業で進むGX―「グリーン鉄」普及へ政府も支援

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2050年カーボンニュートラルを実現するためには、エネルギーをクリーンにするだけでなく、CO2 の主要な排出源である産業の脱炭素化がカギとなります。日本では、製造業のCO2 排出量が多く、そのうち鉄鋼業が3分の1を占めているため、この分野でのGX(グリーントランスフォーメーション)推進がひじょうに重要です。ただ、鉄鋼の製造プロセスは排出削減がむずかしく、解決すべきさまざまな課題があります。今回は、官民を挙げて取り組む鉄鋼業の脱炭素化の現状と、いま打ち出されている支援策についてご紹介します。

CO2排出削減が難しい鉄鋼業も、脱炭素化へ

鉄鋼業は、CO2の排出削減が難しい産業のひとつです。鉄の製造方法にはいくつかの種類がありますが、CO2が多く発生するのは、鉄鉱石を「高炉」と呼ばれる炉で還元する(鉄鉱石に含まれる酸素を取り除く)プロセスです。

これに対し、鉄スクラップを「電炉」と呼ばれる電気を使った炉で溶解し再利用する方法では、CO2の排出量を抑えることができます。しかし、鉄スクラップの供給量には限りがあり、これからますます増えると見込まれている世界の鉄需要をまかなうことはできません。また、従来の電炉プロセスでは、不純物が除去しきれないという技術的な問題があり、自動車などに利用するような薄くて強い高級鋼を生産することができないのが現状です。

国際エネルギー機関(IEA)による世界の鉄の投入量予測(2050ネットゼロシナリオ)
今後の世界における鉄の投入量について、鉄鉱石由来と鉄スクラップ由来の2種類に分け、それぞれ2022年、2030年、2050年を取り上げて予測し、棒グラフで比較しています。

(出典)国際エネルギー機関(IEA)

鉄の需要を満たしながら、同時にCO2の排出削減を進めていくには、水素を使った還元技術(「水素を活用した製鉄技術、今どこまで進んでる?」参照)など、現在すすめられているさまざまな脱炭素技術の開発をさらに促進し、実装を進めていくことが不可欠です。

国内鉄鋼業の脱炭素化のイメージ
鉄の需要を満たすと同時にCO2の排出削減を進めるために、今後どのような技術を使ってどの程度の鉄を生産していくのか、そのイメージを図で表しています。

(出典)経済産業省「 GX推進のためのグリーン鉄研究会 とりまとめ」(2025年1月)

しかし、こうした技術転換には莫大なコストがかかります。また、このコストが加算されるため、製造された鉄の売価も高くなります。

鉄1トン製造に関わる原料・エネルギーコストの試算
鉄1トンを製造するためにかかる原料とエネルギーコストを、高炉・転炉、電炉、直接還元と電炉の併用、高炉・転炉とCCSの併用という4つの製造法で比較し、棒グラフで表しています。

(出典)経済産業省「 GX推進のためのグリーン鉄研究会 とりまとめ」(2025年1月)

一方で、こうして生み出された鉄は、既存の製品とくらべて機能的な違いはありません。そのため、製造時のCO2排出量を従来の鉄より大幅に削減した鉄の「環境価値」が需要家に認識されなければ、市場で購入されることが難しくなります。

そこで、技術転換のコストをまかなうために、その転換によって生み出された「グリーン鉄」の環境価値(GX価値)の「見える化」を進め、購入への支援をおこなったり、購入の際のインセンティブ(動機付け)を付与することが重要です。

また、CO2排出量を大幅に削減した鉄のGX価値は、国際的にも通用するものであることが必要です。たとえば、この鉄を購入する業界として自動車産業や建設業などが考えられますが、これらの産業は、海外に製品を輸出したり、海外からの投資を呼び込むニーズがあります。世界で勝負するには、国際的にもGX価値が認められ、標準化されることが欠かせません。

「GX推進のためのグリーン鉄」の普及を政府も支援

こうした課題に対応するため、官民を挙げて取り組んでいくことが必要です。そこで政府と、有識者、供給側・需要側企業が参加して、2024年10月~2025年1月に、グリーン鉄の需要家への情報発信のあり方や、市場拡大に向けた課題について検討し、今後のアクションを整理するため、「GX推進のためのグリーン鉄研究会」が計5回開催されました。

現在、国内外において、さまざまな形でグリーン鉄を販売する動きが広がりつつあります。ただ、現時点でグリーン鉄に明確な定義はなく、その内容も各社で異なります。

国内外の企業から販売されているグリーン鉄
国内外の企業から販売されているグリーン鉄について、企業名、ブランド、手法を表にまとめています。

(出典)経済産業省「 GX推進のためのグリーン鉄研究会 とりまとめ」(2025年1月)

このグリーン鉄研究会では、企業が直接的な排出削減行動をとることで環境負荷が大きく低減し、これにともなうコストを上乗せした場合に価格が大きく上がる鋼材を「GX推進のためのグリーン鉄」と位置づけ、重点支援をおこなっていく方針を打ち出しました。

① GX価値の意義を知ってもらい、国際標準に反映する

鉄鋼業のGXを進めるためには、GX製品の生み出す環境価値が、需要家に理解されるとともに、それを購入するための市場の整備が必要です。この環境価値の指標としては、従来から「CFP(カーボンフットプリント)」が世界でも広く用いられてきました。CFPとは、製品のライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)の総量のことです。

自動車業界や不動産業界など、鉄鋼製品の需要家のニーズをふまえると、GX価値を持つ鉄鋼製品が、国内だけでなく、国際的にも製品のCFPが低いものと評価されることが重要です。

② 鋼材のCFPの活用をさらに拡大する

また、需要家側にCFPの活用を促すことで、環境負荷が低い鋼材の利用拡大を促していきます。

③ 鋼材の需要側に対して働きかけをおこなう

さらに、「GX推進のためのグリーン鉄」については、政府の公共調達において優先的に購入するなど、政府による購入支援の施策を重点的におこなって、市場拡大をはかっていきます。

GX推進のためのグリーン鉄及び低CFPの鋼材の支援の考え方
「GX推進のためのグリーン鉄」と「低CFPの鋼材」について、それぞれの支援方法を図で示しています。

(出典)経済産業省「 GX推進のためのグリーン鉄研究会 とりまとめ」(2025年1月)

④ 生産者側への支援をおこなう

「GX推進のためのグリーン鉄」の生産について、とりわけ初期においては従来製品よりも価格が高くなる傾向があります。引き続き多様な技術開発や設備投資支援、税制措置など生産者側への支援をおこなうとともに、さらなるコストの低減に向けた対応を検討していきます。また、鉄スクラップの有効利用も促進していきます。

なお、こうした政府の方針を受けて、鉄鋼業界では2025年10⽉、各鉄鋼製品のCFP算定に関する業界共通のルールを整備するため、「鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン」を新たに策定しました。

今後も、「GX推進のためのグリーン鉄」の市場拡大に向けた行動を進めていく予定です。

GX推進のためのグリーン鉄の市場拡大に向けた今後のアクション(イメージ)
「GX推進のためのグリーン鉄」の市場を拡大していくにあたり、今後のタイムスケジュールのイメージを図で表しています。

出典:経済産業省「 GX推進のためのグリーン鉄研究会 とりまとめ」(2025年1月)

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