くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する「容量市場」

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2016年に電力の小売全面自由化がスタートして以降、多くの小売電気事業者が参入して電力分野のビジネスが活発化し、一般家庭でも電気の契約先や料金メニューを自由に選ぶことができるようになりました。その一方で、新たな課題も生まれています。そこで、将来にわたって電力を安定的に供給していくために、2020年から「容量市場」というしくみが取り入れられました。少々難解なこの制度について、あらためてわかりやすくご説明しましょう。

再エネ拡大と電力調達の多様化にともなう新たな課題

電気を各家庭に届けるための電力供給システムは、発電所で電気をつくる「発電部門」、発電所から消費者に電気を送る「送配電部門」、消費者への料金メニュー設定や契約の手続きなどのサービスをおこなう「小売部門」で成り立っています。電力の小売自由化によって、小売部門に、家庭などへ電気を販売する事業者(小売電気事業者)が新たに参入しました。

小売電気事業者は、家庭などへ電気をとどけるため、発電事業者とあらかじめ年間の購入量と価格を決めた取引(相対契約)により電力を調達するほか、「卸電力取引市場」と呼ばれる市場から電力を購入するケースもあります。一般的に電力の調達は相対契約や卸電力取引市場などでバランスを取りながらおこなわれますが、相対契約を結ばず、卸電力取引市場からのみ調達する事業者もいます。

こうした電力の小売の自由化によって、小売電気事業者がさまざまなセットプランやメニューを用意し、より手ごろな料金プランも登場するようになりました(「電力小売全面自由化で、何が変わったのか?」参照)。一方で、FIT制度などで太陽光・風力発電といった再生可能エネルギー(再エネ)が拡大しているなかで、課題も生まれています。

ご存じの通り、FITとは「固定価格買取制度」のことで、再エネで発電した電気を、国が決めた価格で買い取るよう、電力会社に義務づけた制度です(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)。FITで費用が負担されている再エネの電源(電気をつくる方法)が市場に売り出される時間帯(たとえば、太陽光発電であれば、晴れた日の日中など)は市場価格が低下し、すべての電源にとって発電した電気を売って得られる「売電収入」が少なくなるといった新たな問題が起こることも想定されています。

こうなった場合、発電部門、つまり電気をつくり出す発電所の設備を維持するのが困難になる懸念があるのです。これにより、どのような問題が起こるのでしょうか?

それは、電気が、需要と供給のバランスがくずれると停電につながってしまう性質をもっていることに関係しています。再エネは、季節や天候などによって出力(発電)が大きく変わる電源ですから、それによって需要とのバランスが崩れないように手当てしておかなくてはなりません。安定的に発電できるほかの電源によって、再エネの出力変動に対して出力を調整し、バランスがとれるようにする必要があります。現在、その役目を担っているのは、おもに火力発電です。

こうした発電所の設備を維持するためには、人件費や修繕費など、さまざまなコストがかかります。施設が老朽化し、新設もしくはリプレースする場合には、長い期間も必要です。たとえば、火力発電所の新設は、計画から運転開始まで標準的な期間で10年ほどかかります。しかし、電力の市場価格が低下する傾向にあると、卸電力取引市場などでの電力(kWh)の取引や相対契約では、新設やリプレースにかかったコストを将来的に回収できるという予測がたてづらくなるため、新たな投資が進まなくなってしまうのです(「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは『火力発電』!?」参照)。

出力を調整できる発電所の設備が維持できなければ、そうした発電所に調整をまかせている再エネも増やすことが難しくなりますし、電力需要に見合った供給ができなくなるおそれがあります。その結果、再エネの出力が下がったときや需給がひっ迫したときに電力が不足したり、需要に対して供給力が不足することで電気料金の上昇につながったり、最悪の場合、停電するおそれもあります。

安定した電力供給のために「容量市場」を導入

こうした課題を解決し、電力供給の長期的な安定をはかるために、導入が検討されてきたのが、「容量メカニズム」です。

「容量」というのは、少々わかりづらい言葉ですが、「必要な時に発電することができる能力(kW)」のことを意味しています。たとえば火力発電のような、電力が必要となった時すぐに発電できる設備を持っている発電事業者は、その能力があるといえるでしょう。

「容量メカニズム」とは、そのような「容量」に応じて、対価が支払われるしくみです。海外では、すでにさまざまな容量メカニズムが導入されています。

容量メカニズムの海外での導入状況
容量メカニズムの海外での導入状況を表にしています。「容量市場」「容量支払い」「戦略的予備力」「価格スパイク」などがあります。

(出典)ACER/CEER “Annual Report on the results of monitoring the internal electricity markets in 2019” IEA “Re-powering Markets – Market Design and Regulation during the Transition to Low-Carbon Power Systems” 等

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日本でも、海外の制度を参考に、2020年に「容量市場」のしくみが導入されました。電力に関する市場としては、前述したとおり、「電力量(kWh)」を取引する「卸電力取引市場」がありますが、容量市場で取引されるのは、「将来にわたって見込める供給力(kW)」です。発電事業者が持っている「容量」に対して、小売電気事業者が、市場メカニズムで決まった額を支払うのです。

発電事業者は、電気が必要なときに発電できる能力(供給力)を提供し、その供給力の提供に対して対価が得られるとあらかじめ想定できるようになります。実際に発電した電気を売ることで得られる不安定な「売電収入」の想定だけに頼る必要がないため、設備投資をおこなって、発電設備を維持できるようになります。一方、小売電気事業者も、将来電気が必要な時に電気を供給してもらう「供給力」を調達しやすくなり、安定した事業運営を見込めるようになります。

さらに、需要が最大(ピーク)になったときでもじゅうぶんにまかなえるような容量をあらかじめ確保しておくことで、発電量が需要に追いつかずに停電したり、調達する電力が足りずに卸電力価格が高騰するなどの事態が起きにくくする狙いもあります。

容量市場の価格はどうやって決まる?

では、容量市場とは、具体的にどのようなしくみになっているのでしょうか。容量市場で取引されるのは、「4年後の電力の供給力」です。

まず、「電力広域的運営推進機関(広域機関)」が、4年後使われる見込みの電気の最大量(最大需要)を試算。その需要を満たすために必要な「4年後の電力の供給力」を算定します。その際、「気象や災害によるリスク」も含めながら「調達すべき電力」の目標容量を算定します。

次に、その調達量をまかなうために、「4年後に供給が可能な状態にできる電源」を募集します。これはオークション方式でおこなわれ、価格が安い順に落札されます。

容量市場のしくみ
容量市場における「小売」「広域機関」「発電」の関係を図であらわしています。

発電事業者は電力を供給可能な状態とするよう発電所のメンテナンスなどをおこない、広域機関から対価を受け取ります。小売電気事業者は、将来必要となる電源の容量を確実に確保する対価として、広域機関にその費用を支払います。

2020年7月、2024年度に供給が可能な状態にできる電源を確保することを目的に、第1回オークションがおこなわれました。

容量市場を導入するメリットは?

容量市場をつくることのメリットのひとつは、前述したように、再エネの調整力として必要な電源を確保しておくことで、出力の不安定な再エネを支え、再エネの主力電源化に役立てることにあります。

また、小売電気事業者にとっては、発電所をもたなくても電力を調達しやすくなること、事業環境を安定化させられることも利点です。

2021年1月、日本国内で電力需給がひっ迫し、卸電力取引市場で高値が続くという事象が発生しました。また国外では、米国テキサス州で2021年2月、記録的な大寒波による電力の供給不足によって大規模な停電が発生し、それにともなう卸市場価格の急激な上昇がありました。このような状況も起きるなかで、容量市場の創設は、将来の電力供給の安定化を目指すことも目的としているのです。電力の安定供給は、消費者にとっても大きなメリットと言えます。


容量市場は、まだ導入されたばかりです。今後も、確実な供給力の管理・確保の方法や、価格水準の決定方法について、さらにはカーボンニュートラル(「『カーボンニュートラル』って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」参照)との両立も考えながら、適宜見直しをおこない、よりよい制度にしていくことが求められています。

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