再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは「火力発電」!?
導入の拡大が期待されている、再生可能エネルギー(再エネ)。しかし、再エネには季節や天候などによる出力(発電)の変動が大きいという課題がつきまといます。その課題をクリアして再エネの導入をさらに進めるためには、変動を「調整」して緩和することが必要です。今回は、そうした「調整力」と再エネについて見ていきましょう。
1.再エネを支える火力発電
再エネの変動を調整するしくみ
これまでの特集では、再エネに関する、コスト(「再エネのコストを考える」)や「系統制約」の問題(「再エネの大量導入に向けて ~『系統制約』問題と対策」)を紹介してきました。今回取り上げる「調整力」もまた、再エネ導入拡大のためには重要な要素です。
電気は需要と供給のバランスがくずれると、停電につながってしまいます。天候によって発電量が左右される太陽光や風力など再エネ由来の電気の場合、需給バランスをコントロールするためには、安定的に発電できる「電源」(発電する方法)を別に持っておいて、再エネ由来の電気の出力を補い、バランスを調整する必要があります。
高い調整力を持つ火力発電
火力発電は、燃料の投入量を変化させることなどにより、出力をコントロールすることができる電源です。 天候などの要因によって太陽光や風力などの再エネ由来の電力が計画通りに発電ができず、供給力が不足して需給バランスが崩れるといった場合には、火力発電による出力を増加させることで需給バランスを調整しています。
電力需要と発電量のイメージ
火力発電は、これまで、電力の供給源として大きな役割を担ってきました。同時に、火力発電には、出力をコントロールすることで供給力を調整できる能力があり 、需給バランスの調整に重要な役割を果たしています。再エネの導入が進めば進むほど、その変動をカバーして需給バランスを調整するための調整力がますます必要となります。将来は、技術革新による、蓄電池の調整力としての活用も期待されますが、現状においては、火力発電は、電力を安定的に供給するための重要な電源のひとつであるといえるでしょう。
調整力適正と限界費用
2.減少する火力発電とその理由
稼働率の低下が見込まれる火力
ところが、現状のままでは火力発電は先細りになってしまう、と指摘されています。どのような問題が起こっているのでしょう。
火力発電の建設には、多額の費用と一定のリードタイム(建設から稼動までの時間)が必要です。建設後は、長い期間の中で少しずつ投資を回収していきます。投資に踏み切るかどうかの判断にあたっては、将来の資金回収がどのように行われるかの見通しが重要となります。
こうした発電にかかる投資は、電力小売自由化以前であれば、コストをベースにして電気料金を決める「総括原価方式」による規制料金によって、安定的に回収することができました。
ところが、今後は、電力の小売全面自由化に伴い、事業者間の競争が活発化することになりました。消費者向けの電気料金は 小売事業者間の競争の中で決まっていきますし、小売事業者はより安い電源を調達しようと競争するため、発電事業者の小売事業者に対する卸電力価格も、変動していきます。 発電所投資の回収がどのように行われていくか、正確に予測することがむずかしくなりました。
その上、再生可能エネルギーの導入によって、火力発電の稼働率自体も、低下する可能性があります。たとえば、電力需要が低いにも関わらず、再エネ由来の電力が多く発電されることが見込まれる場合、需給をバランスさせるために、電源の出力を抑制することが必要になる場面が出てきます。このとき、抑制する電源の順番は「優先給電ルール」で決められており、再エネ由来の電力よりも先に、火力発電を抑制することとされています。これにより、火力発電の設備稼働率は低下するおそれがあります。将来的な設備稼働率の低下が見込まれると、発電所投資の回収の見通しにも影響が出てきます。
イギリスでは、再エネの導入が進むいっぽうで、ガス火力(GTCC)の稼働率は大きく低下しています。いずれ日本も同じ道をあゆむ可能性があります。
イギリスの総発電電力量と再エネ割合
イギリスの発電所設備利用率の現状と見込み
このように、電力の小売自由化や再生可能エネルギーの導入によって、設備投資の費用を回収する見通しが立ちにくくなることで、発電所への投資が減っていくおそれが出てきているのです。一方で、火力発電所は、老朽化すると故障が増えます。追加投資による補修やリプレース(建て替え)がなければ、閉鎖されていきます。事業者の中で、火力発電を新設あるいはリプレース(建て替え)しようという意欲が失われれば、将来的に火力発電が減少していく可能性があるのです。
電源別の設備利用率
火力への投資が行われないとどうなるか?
重要な調整力である火力発電の新設やリプレースが行われず、既存の発電所も閉鎖されていった場合、さまざまな問題が起こる可能性が指摘されています。
まず、電気の供給力が、中長期的に不足するおそれがあります。需要に比べて供給力が不足すれば、需要と供給がバランスしなければならないという電気の特性上、電気料金が高騰する恐れがあります。
また、第1章で見たように、火力発電は再エネの調整力として大きな役割を果たしているため、調整電源が確保できなくなれば、再エネの導入拡大に歯止めをかけてしまう恐れもあります。
再エネのために火力発電の建設をうながすというと、ちょっと不思議な感じがするかもしれませんが、その背景にはこういった事情があるのです。
3.今後の整備の方向性
供給力が不足する前に対策をたてる
大規模な電源の建設には、一定の時間が必要になります。たとえば、火力発電の建設は、計画から運転開始まで標準的な期間で10年ほどかかります。現状では十分な調整力・供給力が確保されているとしても、将来的に調整力・供給力が不足することのないよう、適切な電源投資を促す対策をたてる必要があります。
そこで検討されているのが、電源などが持つ価値を整理して、それぞれの価値で取引できる市場の創設です。
電力取引市場を多様化させる
現在の電力市場である「日本卸電力取引所」では、実際に発電された電気の量(kWh価値)にもとづいて、電気の売り手と買い手が取引を行っています。火力発電にとって、取引所の価格が燃料代などの発電コストよりも十分高ければ、設備投資の費用も回収することができます。他方で、取引所の価格が、火力発電の燃料代などのコストと同じ程度であれば、設備投資の費用をほとんど回収することができません。
実際に発電された電気の量に応じて取引されるkWhの市場においては、稼働率は低いけれども調整力として重要な役割を果たしている火力発電の設備投資費用などが、安定的に回収できるとは限らないのです。
稼働率が低い発電所であっても、「必要なときに発電することができる能力」や「需給バランスを調整する能力」を持っている発電所は、電力システム全体から見れば、停電なく電気を供給する上で重要な役割を果たしています。これらの観点から電源を評価し、その価値に対して適切な対価が得られるようにすることで、火力発電に投資を集めやすくしようという政策が進められています。
4.調整力を確保するための方策
①「必要なときに発電することができる能力」と「容量市場」
「必要なときに発電することができる能力」を「kW価値」の「容量」として評価し取引する市場を、「容量市場」といいます。この市場では、「必要なときに発電することができる能力」があれば、年間を通じた稼働率に関わらず、容量として対価が支払われます。需要が最大(ピーク)になったときにも十分にまかなえるような容量をあらかじめ確保することで、需給バランスが確保できないことによる停電や、その直前に発生するであろう卸電力価格の高騰がおきないようにすることが、この市場を立ち上げる狙いです 。
このしくみであれば、再エネ由来の電力の調整のために火力発電がフル稼働していないという場合でも、火力発電を持っていることそのものが「必要なときに発電することができる能力」として 評価され、収入を得ることができます。
また火力発電所を新設する場合にも役立ちます。容量(供給力)が持つ「kW価値」をあらかじめ取引する容量市場を通じて、一定の投資コストを回収できるということが、稼動前から予測しやすくなるためです。これによって、投資回収の見通しがつきやすくなることが期待されます。
現在、容量市場の導入に向けた制度の検討が進められています。海外では、すでに同様の制度を取り入れている国もあります。
②調整力公募と需給調整市場
もうひとつの「需給バランスを調整する能力」(調整力)は「ΔkW(デルタキロワット)価値」と呼ばれます。これを取引する「需給調整市場」の創設も検討されています。
市場創設に先駆け、公募により調整力を調達するしくみが2016年から行われています。一般送配電事業者は、調整力のある電源を持つ事業者から調整力を公募。 落札された、 調整力のある電源を持つ事業者は、電力需給バランスの調整が必要となった時、一般送配電事業者の指令に応じて、出力を変動させながら電力を供給します。
今後は海外の先行事例などもふまえながら、2020年をめどに、柔軟な調整力の調達や取引を行うことができる 「需給調整市場」を創設する計画です。
③そのほかの対策
需給バランスの調整力を増加させる方策として、そのほかにもさまざまな取り組みが進められています。
ディマンドリスポンスの活用
需要をコントロールすることで需給のバランスをとることを「ディマンドリスポンス(DR)」といいます。一般には、需要のピークが発生しそうな時期に需要を抑えることと理解されていますが、これは「下げDR」と呼ばれるものです。
これに対して「上げDR」と呼ばれるものは、供給が増えるタイミングで需要を増やす、つまり電力を使おうという取り組みです。たとえば九州電力では、太陽光の出力がピークを迎える昼間の余剰電力を利用して、揚水発電に使う水をくみあげる作業を行うことで、電力を使っています。
連系線の強化
電力の需給には地域によってバラツキがあります。地域間で電力を融通し合うことができれば、より需給のバランスがとりやすくなります。そのために、地域間の連系線の増強が検討されています(「再エネの大量導入に向けて ~「系統制約」問題と対策」参照)。
蓄電池の開発
余った電気を貯めておくことができれば、より需給のバランスはとりやすくなり、足りない場合の調整力としても活用できます。そのために開発が進められているのが蓄電池です。今後は技術開発を促進し、共同で蓄電池を設置するなどの取り組みも必要となります(「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~「蓄電池」は次世代エネルギーシステムの鍵」参照)。
こうしたさまざまな調整力となりえる方法を使い、バックアップを確保しておくことが、再エネの導入拡大においてはとても重要となるのです。
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電力・ガス事業部 電力基盤整備課
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